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三つ編み(レティシア・コロンバニ著 ; 齋藤可津子訳)

眼横鼻直(がんのうびちょく・げんおうびちょく)
Date:2019.09.01

書名 「三つ編み」
著者 レティシア・コロンバニ
訳者 齋藤 可津子
出版者 早川書房
出版年 2019年4月
請求番号 953/421
Kompass 書誌情報 

本を一冊だけ選ぶのは結構難しい。実は、この欄に執筆することになり、何冊か読み返して、オーウェルの『一九八四年』か、ル・グィンの『風の十二方位』(わけても「オメラスから歩み去る人々」)のどちらを取り上げようかと迷っていた。両方とも随分前に読んだ本だが、少しも古びていない。むしろ今日的な問題を提起している名著だ......と、思っていたのだが、最近出会った『三つ編み』の、あまりにもさわやかな読後感ゆえに、変更することにした。世界のあちこちで気が滅入るようなことが起こっているものだから、ちょっと元気が出そうな作品を紹介したくなったのかもしれない。

著者は映画監督で脚本家でもあるという。なるほど、ドラマのような巧みな構成と語りで、一気に読めてしまう。もちろん、翻訳者の力量もあるのだろう。

この小説は、インドのスミタから始まって、シチリアのジュリア(毛髪加工の作業場を仕切っている)、そしてモントリオールのサラ(敏腕弁護士でシングルマザー)というふうに、接点のない三人の女性たちの物語が交互に語られていく。詳細は明かせないが、特に、スミタの物語は衝撃的だ。彼女は、インド北部の村に夫と六歳の娘と三人で暮らしているのだが、不可触民(ダリット)という設定になっている。インド憲法により不可触民制は廃止されたが、なかなか差別はなくならない。彼女は、ダリットに代々引き継がれてきた絶望的な宿命の鎖を、娘の代には断ち切ろうという強い意志を持つ。それで、命の危険も顧みずに大胆な行動を起こすのだ。

別個の三人の物語は、読み進めていくとつながりが見えてくる。例えば、ジュリアの恋人になるカマルはシク教徒だという。この作品中、彼は重要な役割を果たしている。もっとも、それだけに小説としては、人物造型がややご都合主義的だと思う人もいるかもしれない。

ともあれ、それぞれに困難を直視して積極的に行動し、最後は「髪」によるつながりが三人を支え合うことになる。そういうわけで、楽観的な感じはあるが、読後感はあくまでもさわやかだ(一つ気になるのは、スミタの夫のその後だ。無事ではすむまい......)。人が持つ潜在的な力を信じられる気がする。また、いわゆる「女性の人生」を描くのにありがちな単純すぎる二項対立(抑圧的な男性に傷つく女性というような)ではない点も指摘しておきたい。一読をお薦めするゆえんである。
 
十年後に読み返すことがあったら、この人々を取り巻く社会の様相は遠い過去のことだと思うだろうか。それとも、なお今日的な問題を提起している小説だと思うのだろうか。

総合教育研究部 教授 鈴木 裕子

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