2001.04.23更新

音韻史研究資料の分類

T 現在、耳にすることの出来る資料

一、現代口語の音声。諸方言・同系統の言語の音声。

  1. 語り物、謡い物、唱え物の発音。⇒平曲・謡曲・声明など

U 過去の文献

一、国内の資料

a, 日本語を音字または音字的に用いた文字で書いたもの

b, 日本人の国語音声に関する観察研究

二、外国関係の資料

a, 外国人の書いたもの

イ、日本語を外国の文字で写したもの⇒キリシタン資料

ロ、外国人が日本語を観察研究したもの⇒キリシタン資料

  b, 外国語を日本の文字で写したもの

橋本進吉博士『国語音声史の研究』による

日本語の音韻史

奈良時代

  『古事記』のかなによる五十音図

阿  伊  宇  愛  淤意

加  岐紀 久  祁気 古許

賀  芸疑 具  下宜 胡碁

佐  斯志 須  勢  蘇曾

邪  自士 受  是  叙

多  知  都  弖  斗登

陀  遅  豆  伝  度杼

那  邇  奴  泥  怒能

波  比斐 布  幣閉 本富

婆  毘備 夫  弁倍 煩

麻  美微 牟  売米 毛母

夜     由  延  用余

良  理  流  礼  漏呂

和  韋     惠  袁

平安時代

第一期……清音四十九、濁音二十一の時代 

第二期……清音四十八、濁音二十の時代  「あめつち」の時代

「あめつち」の詞

あめ【天】つち【地】ほし【星】そら【空】やま【山】かは【河】

みね【峯】たに【谷】くも【雲】きり【霧】むろ【室】こけ【苔】

ひと【人】いぬ【犬】うへ【上】すゑ【末】ゆわ【硫黄】さる【猿】

おふ【負ふ】せよ【為よ】の【の、良箆、江野】を【を、男】

なれ【馴れ、汝】ゐて【居て、偃】

第三期……清音四十七、濁音二十の時代  「いろは歌」の時代

「いろは歌」⇒『金光明最勝王経音義』(承暦三年=一〇七九)

いろはにほへと  色は匂へど

ちりぬるをわか  散りぬるを 我が

よたれそつねな  世誰ぞ 常な

らむうゐのおく  らむ 有為の奥

やまけふこえて  山 今日越えて

あさきゆめみし  浅き夢見じ

ゑひもせす    酔ひもせじ

院政時代

第四期……()清音四十六、濁音二十の時代 「お」と「を」が同一音化

  ()語中・語末にハ行音が消失  ハ行転呼音「うるしきかひ」《土左日記》

  ()ある種の併列母音が一長音となる傾向が見られる

鎌倉時代から現代

第五期……清音四十四、濁音二十の時代  「い」と「ゐ」「え」と「ゑ」が同一音化

室町時代

   母音は「・エ・オ」の「エ[ye]」「オ[vo]」と表記

   四つ仮名「じ」「ぢ」「ず」「づ」区別の崩壊

現代語でも「ふぢ【藤】」と「ふじ【冨士】」、ちづ【地図】とすず【鈴】が同じ音として    

扱われている。

江戸時代

  江戸語の実態、式亭三馬浮世風呂』二上「山は江戸の女、かみは上方筋の女」より

江戸ツ子のありがたさには、生れ落から死まで、生れた土地を一寸も離れねへよ、アイ。おめへがたのやうに京でうまれて大坂に住つたり、さま/゛\にまごつき廻つても、あけくのはてはありがたいお江戸だから、けふまで暮してゐるじやアねへかナ。夫だから、おめへがたの事を上方ぜへろくといふはな。△かみぜへろくとはなんのこつちやヱ。△山さいろくト。△かみさいろくとはなんのこつちやヱ。△山「しれずはいゝわな。かみ「へ丶、關東べいが。さいろくぜへろくと、けたいな詞つきじやなア。お慮外も、おりよげへ觀音さまも、かんのんさま。なんのこつちやろな。さうだから斯だからト。あのまア、からとはなんじやヱ。△山「から」だから「から」さ。故といふことよ。そしてまた上方の「さかい」とはなんだへ。△かみさかい」とはナ、物の境目じや。ハ。物の限る所が境じやによつて、さうじやさかいに、斯した境と云のじやはいな。△山「そんならいはうかへ。江戸詞の「から」をわらひなはるが、百人一首の哥に何とあるヱ。かみ「ソレ/\。最う百人一首じや。アレハ首じやない百人一、首じやはいな。まだまア「しやくにんし」トいはいで頼母しいナ。△山「そりやア、わたしが云損にもしろさ。かみ「ぞこねへ、じやない。云損じや。ゑらふ聞づらいナ。芝居など見るに、今が最後だ、觀念何たらいふたり、大願成就忝ねへ何の角のいふて、万歳の、才藏のと、ぎつぱな男が云ふてじやが、ひかり人のないさかい、よう濟んである。△山「そりや/\。上方もわるい/\。ひかり人サ。ひかるとは稲妻かへ。おつだネヱ。江戸では叱るといふのさ。アイ、そんな片言は申ません。△かみ「ぎつぱひかる。なるほど。こりや私が誤た。

 

明治時代

大槻文彦編『言海』(明治十五年初稿、明治二十三年刊)「五十音図」採用