礼文島の自然

 

 4 魚類   

 

「『漁業』は、『観光』と並び称され、当町を支える重要な産業といえるだろう。戦後間もない頃の食料難の時期、ニシンが豊富に採れる島として脚光を浴びた。(そのためか、急激に人口も増加し、一時は一万人を越す時期もみられた。)そう言う訳で、ニシンと共に時代を歩み、《発展・成長》してきた島といえるだろう。しかし、その後は、漁業関連として、『200海里問題』・『漁業不振』・『不景気』といった《経済的》、かつ《国際的》問題を含んできた。また、『環境汚染』・『自然環境の変化』などの、日本だけではなく地球規模の《環境破壊》なども起っているのが実情である。以前には起らなかった新たな問題に直面しているといえる。

 ここに記載する魚介類は、産業種として重要であり、かつ数量的にも漁獲高のあるものにのみ説明しており、数量的に少数、もしくは低価値な種類については名称を列記するに止める。」

 

   一 ニシン( Clupea pallasi Cuver & Valenciennes

「かつては本道漁獲量の第一位を占めていたニシンも、現在では激減しており、『幻の魚』とまで呼ばれるようになった(漁師の方も、ここ数年、全く見なくなったと言っている!)。春、産卵の為に沿岸に来遊するものを『春ニシン』、夏、索餌の為に来遊するものを『夏ニシン』又は『油ニシン』と呼んでいる。体長は1歳で15p、2歳で22p、3歳で26p、4歳で29p、5歳で30p、10〜12歳では35〜36pともなる。成魚の体長は30p前後になる。また、体は細長く※側扁する。下顎は上顎よりも多少長く突出している。うろこは※円鱗、※側線は明瞭ではない。背鰭と腹鰭はほとんど対在し、尻鰭と背鰭は※基底の長さがほぼ同長で、背鰭はほぼ体の中央にあって※軟条は16、尻鰭の軟条は14である。体色は、背側が青黒色で腹側は銀白色であり、近縁種の『マイワシ』に良く似ているが体側に黒点はない。ニシンは、ふ化後まだ※卵黄が残っているうちは珪藻(けいそう)を好んで食べる。全長13.5〜16.5oでは甲殻類のノ−プリウス、体長3p以上ではカイアシ類・アミ類・オキアミ類、さらに、成魚になるとオキアミ類・カイアシ類を中心に小型甲殻類、魚類などを食べるようになる。」

 

   二 サクラマス( Oncorhynchus masou <Brevoort> )

「サケ・マス類のなかでは最も分布範囲が狭く、日本近海にしか存在しない。ヤマメはこの河川型のもので、雌はほとんど降海するのに対して雄は河川に留って生活する。降海型のヤマメは腹部が銀白色となり『銀毛ヤマベ』と呼ばれている。」

 

   三 カラフトマス( Oncorhynchus gorbuscha <Walaeum> )

「一般に『マス』といえば本種を指すことになる。索餌期のものを『アオマス』、産卵期の雄を『セッパリマス』ともいう。成熟は2年でし、産卵するするようになる。肉が淡桃色であるので『ピンクサ−モン』と呼ばれ、缶詰原料としても利用されている。」

 

   四 クロマグロ( Thunnus thynnus <Linue> )

「『シビ』、『メジ』、『ゴンタ』など、大きさによって色々な呼び名がある。※全長3m、体重375sにも達する大きな魚である。マグロ類中最も美味であり、特に腹肉は脂肪分が多く、いわゆる《トロ》と呼ばれ珍重されている。」

 

   五 イカナゴ( Ammodytes personatus Girard )

「体長20p以上の成魚を『オオナゴ』、それ以下の中型のものを『チュウナゴ』、体長5p以下の幼魚を『コウナゴ』、それ以下のものだと『チリメン』と呼んでいる。幼魚は集群浮上するが成魚は砂に潜って生息する。」

 

   六 マフグ( Fugu porphyreus <T & S> )

「北海道の沿岸で普通にみられる種である。卵巣、肝臓は猛毒で皮膚や腸にも毒性がある。フグ料理や干物として用いられる。全長45pに達する。」

 

   七 エゾメバル( Sebastes taczanowskii <Steindachner> )

「一般に『ガヤ』と呼ばれ、沿岸の岩礁地帯で普通にみられる種である。全長2025p程度で、ソイの仲間では小型に属する。体は長卵形で側扁する。頭部の※棘(きょく)は弱いが、目の前方と上方に明瞭な棘がある。下顎は上顎より長く、下顎にはうろこが無い。※鰓耙(さいは)は細長い。尾鰭の後縁は白色である。メバルは、目が大きいために『眼張る』と書く。これは、メバル類が一般に体が小さい割に目が大きいことからこの名が付けられた。また、エゾメバルの地方名は『ガヤ』と呼ばれている。(メバルの地方名は『クロガヤ』である。」

 

   八 クロゾイ( Sebastes schlegeli Hilgendorf )

「体色は暗灰色、背面4〜5条の黒褐色横帯がある。沿岸性でソイのなかで最も美味である。体は楕円形で側扁する。上顎の上方に3本の鋭い棘がある。鰓耙は細長い。尻鰭の後縁は丸く、上下両端は白い。体色は灰黒色または灰褐色で、眼から斜め後方へ2本の黒色帯が走る。全長60pにもなる。」

 

 * 「北海道で一般にソイ類といわれるものには、『クロソイ』、『キツネメバル(マゾイ)』、『タヌキメバル(Sebaates zonatus)』、『ムラソイ(ハチガラ、S.pachycephalus)』、『ゴマソイ(S.nivosus)』、『シマソイ(キゾイ、S.trivittatus)』の6種がある。これらソイ類は、体形が互いに良く似ているが、以下の様な特徴で区別することができる。『クロソイ』は、上顎の上方に3本の鋭い棘がある。『キツネメバル』は、体が灰色で淡色斑点がある。『タヌキメバル』は、体が白色または桃色で3本の※横帯がある。『ムラソイ』 は、尾鰭が丸く、両眼の間が著しくくぼみ、頭部の刺は突出する。『ゴマソイ』は、名前のとうり、体と鰭にゴマのような黄緑色の小斑点が密にある。『シマソイ』は、体が緑黄色で側線の上下にそれぞれ1条の暗褐色の※縦帯がある。」

 

   九 ホッケ( Pleurogrammus azonus Jordan & Metz )

「生前8ヶ月前後のものを『ロ−ソクボッケ』、1.5才前後のものを『ハルボッケ』、それよりも大きいものを段階的に『中ボッケ』、『根ボッケ』と呼んでいる。体は細長い紡錘形で尾柄は細い、尾鰭は深く二股に分かれ、背鰭は途中で深くくびれることはない。側線は5条、小さな※皮弁が眼の上方に1本、さらにその上後方に2本ある。体色は、※稚魚期から※若魚期にかけてはコバルト色、※未成魚期から※成魚期にかけては背部が茶褐色から黄褐色の斑模様、腹部は黄白色、産卵期の雄成魚はコバルト色を呈する。北海道でニシン漁が盛んであった第二次大戦以前、ホッケはニシンの卵を食う害魚として扱われていた。また、その体色や頭部の形態から『ネズミサカナ』とも呼ばれ、鮮度が低下しやすいこともあり、まずい魚の代表としてほとんど漁獲されていなかった(旨くない魚にとどまらず、安手の魚、はたまた囚人魚とまで言われた!)。しかし、ニシンが獲れなくなってからは、ニシンに代るものとして次第に脚光をあびるようになった。さらに、第二次大戦により食料難が訪れると、配給魚として注目され、全国的にも名が知られるようになった。そう言うことも有り、急激に漁獲量が増大し、現在にまで至っている。特に、《礼文》・《利尻島》周辺はホッケの産卵場として有名であり、最近では、礼文島で一番漁獲高があり、そういった意味では安定した魚と言えるだろう。しかし、魚自身の『単価』が非常に安いため、収入にはあまり結び付いていないのが現状である(漁獲金額で比較するとウニが最も多く、その次にホッケと続く!)。」

 

 * 「ホッケは成長するにしたがって呼称が変わる。稚魚期から着底前までの表層回遊期は、体色がコバルト色であることから『アオボッケ』という。この頃は、形態的にも生態的にもアブラコと似通った点が多い。特に長7〜8pくらいまでは、ともに体色は青緑色で区別がつかないほどである。その姿の美しさから『ピリカ』(アイヌ語で美しいの意)とも呼ばれる。着底してから1歳までの未成魚は、体型がほっそりしていることから『ロ−ソクボッケ』という名がつけられ、底曳網により大量に漁獲される。1歳半の春、沿岸域に餌を求めて大挙回遊してくるものを『ハルボッケ』、このとき、表層付近のプランクトンなどを大群で捕食するため渦をなし、巻網で獲られるものを『マキボッケ』、その後、岩礁(根)周辺に定着するようになると『ネボッケ』、さらに成長して年を経て丸まる太ったものを『ドウラクボッケ』(道楽ホッケ)あるいは『トクダイボッケ』、といった具合いである。また、産卵期の雄もコバルト色の婚姻色に変わるため、『アオボッケ』という。いずれも、その時々のホッケの姿や生態を的確に表現しており、ホッケが漁業者達にとって、いかに身近な魚であるかがうかがえることだろう。

 さらに、ホッケの語源については明らかではなく、ある説では、ホッケの語意は北方と言う魚の意で、『北方』をホッケと読むものだとしている。また、一説に、ホッケは『法華』と関連があるという。法華経の教えを広めに来た僧侶にちなんでつけられたということだそうだ。」

 

   十 マガレイ( Limanda herzensteini Jordan & Snyder )

「産卵期は5〜6月で、卵は分離浮遊卵である。体は楕円形で、※体長は※体高の2倍以上、眼は右体側にあって小さい。頭の背縁は上眼の近くでくぼむ。口は小さく左右不相称で、多少前方に伸出し、下顎がやや突出する。歯は※門歯状である。側線は胸鰭の上方で半円状に湾曲する。※有眼側は青味を帯びた黒褐色。※無眼側は白いが、体の後半部の背腹両縁に沿って淡黄色の1縦帯がある。雌は全長40pあまり、雄は30pあまりになる。」

 

   十一 マダラ( Gadus macrocephalus Tilesius )

「幼魚は『ポンタラ』とも呼ばれている。産卵数は二〇〇〜三〇〇万粒である。体は頭部が大きく、腹部が肥大する。上顎は下顎より突出する。下顎先端に1本のひげがあり、長さは眼径の3/4以上。※若魚では、ひげの根元が黒いことで『コマイ』と区別できる。(* タラ科の特徴である!)3つの背鰭と2つの尻鰭を持つ。体色は淡灰褐色で腹側が淡く、背部から側面に多くの不定形の暗色斑紋がある。また、全長は1mにも達する。日本周辺では、北海道周辺海域に多く、当地方はマダラの主産地の一つでもある。」

 

   十二 スケトウダラ( Theragra chalcogramma <Pallas> )

「本道周辺で最も漁獲が多く、卵巣は『スケ子』として利用され、肉は『すり身』の原料として重要である。体は細長いやせ型、眼と口は大きく、下顎が上顎より突出することで『マダラ』、『コマイ』と区別することができる。下顎のひげは無いがきわめて微小。成魚では、雄の腹鰭は雌より長い。体の背側は褐色、腹側は銀白色で、体側に明瞭な黒褐色の不規則斑紋が走る。全長60pである。大きい魚になると全長が70pに達することもある。」

 

   十三 ハタハタ( Arctoscopus japonicus Steindachner>)

「朝鮮半島東岸から沿海州、サハリン、カムチャツカを経て、北米のシトカまで北太平洋北部に広く分布する。体はやや細長く、強く側扁する。体にうろこは無く、側線も無い。口は大きく、著しく斜めに向く。下顎は上顎より突出する。えらぶたに5本の鋭い棘を持つ。背鰭は2つで、著しく離れる。第一背鰭は高く三角形である。尻鰭の基底は著しく長い。体の背縁は黄褐色で、不定形の黒褐色の班紋を持つ。体の腹側は銀白色。」

 

   十四 ヤナギノマイ( Sebastes Steindachneri Hilgendorf

「東北地方から北海道の日本海、北太平洋、千島列島南部、オホ−ツク海に分布する。ヤナギノマイの漁獲は大部分が混獲によるものである。体は卵形で側扁する。両眼の間に棘(鼻棘)があるが、頭部の背面に棘は無い。胸鰭軟条の下部9本は枝分かれしない。尾鰭の後縁は湾入する。背鰭の棘は13本、体色は黄色で、不定形の斑紋がある。側線上に明瞭な1本の淡色線がある。体長は約30pに達する。」

 

   十五 アイナメ( Hexagrammos otakii Jordan & Starks

「アイナメは雄が1歳、雌は2歳で成熟する。産卵期は秋〜初冬にかけてである。また、体は細長く、やや側扁する。背鰭は1つで背面いっぱいに長いが、前方の棘部分と後ろの軟条部の境が深く切れ込む。胸鰭は丸く大きい。尾鰭の後縁は直線が少しへこむ。側線は左右5本ずつで、胸鰭の下を走る第4側線はえら穴から腹鰭までと短く、2つに分岐しない。その他の側線は長い。うろこは小さい。体色は一般にオレンジ色だが、黄色、茶褐色、暗緑色、灰色と非常に変異に富み、さらに複雑な斑模様で迷彩色をしている。雄の体色は産卵期にはペンキを塗ったように黄色になる。全長30p、まれに50pになる。」

 

   十六 ヒラメ( Paralichthys olvaceus

「体は長楕円形、頭は大きく、その背縁は上眼の前方でわずかにくぼむ。口は大きく、上顎の後端は眼の後縁よりも後方に達する。両顎の歯は犬歯状で強く、1列に並ぶ。うろこは小さく、はげにくい。有眼側のうろこは※櫛鱗。有眼側の体色は暗褐色で、黒と白の斑紋が全面にある。無眼側は白色。」

 

   十七 アカガレイ( Hippoglossodles dubius (Schmidt)

「体は長卵形で口は大きい。上顎の歯は大きくて犬歯状であり、下顎の歯は円錐形。上側にある眼は完全に側面にある。側線は胸鰭の上方でゆるく湾曲する。尾鰭の後縁は丸い。うろこは櫛鱗か円鱗で、吻にうろこは無い。有眼側の体色は淡褐色で、無眼側は血がにじんだように赤くなっている。、」

 

   十八 ソウハチ( Cleishenes herzensteini

「体は長楕円形で、口は大きく、吻端がとがる。上側にある眼が頭の縁辺にあり、無眼側から見える。側線はまっすぐ走る。有眼側のうろこは櫛鱗か円鱗であるが、無眼側は円鱗。有眼側の体色は暗褐色で、多少黄色味を帯びる。無眼側は汚れた白色。」

 

   十九 スナガレイ( Limanda punctatissima (Steindachner)

「体は楕円形で、頭はやや大きく、両眼は右体側にある。両眼の間は狭く、隆起する。頭部背縁は上眼の前方で大きくくぼむ。口は小さく、両顎に門歯状の小さな歯がある。側線は胸鰭の背方で半円状に曲がる。有眼側は暗褐色で、砂粒状の黒色および白色の斑点がある。無眼側は白色だが、背腹両縁に鮮やかな黄色帯が走る。体長30pになる。」

 

   二十 その他下記の種の分布回遊が認められている。

 

  ネズミザメ     Lamna ditropis Hubbs & Follett

  アブラツノザメ   Squalus acanthias Linne

  メガネカスベ    Raja pulchra (Liu)

  ドブカスベ     Breviraja Smirnovi (Soldatov & Pavlenko)

  マイワシ      Sardinops melanosticta (T & S)

  カタクチイワシ   Engraulis japonica (Houttuyn)

  シロザケ      Oncorhynchus keta (Walbaum)

  カラフトシシャモ  Mallotus calervaius (pennant)

  サンマ       Cololabis saira (Brevoort)

  サヨリ       Hemiramphus Sajori T & S

  マサバ       Scomber japonicus Houttuyn

  ブリ        Seriola quinqueradiata (T & S)

  ナガズカ      Sttichacus grigorjewi Herzenstein

  シマゾイ      Sebastes triuittatus Hilgendorf

  オニカジカ     Ceratocottus namiyei Jordan & starks

  ギスカジカ     Myoxocephalus raninus (Jordan & Starlts)

  ケムシカジカ    Hemitropterus Villousus (Pallas)

  ヤセトクビレ    Podothecus thompsoni Jordan & Gilbert

  カナガシラ     Lepidotrigla microptera Gunther

  マツカワ      Verasper moseri Jordan & Gilbert

  クロガシラガレイ  Limanda schrencki Sehmidt

  ヒレグロガレイ   Glyptocephalus stelleri (Sehmidt)

  コマイ       Eleginus gracilis Tilesius

 

 

  水産動物

 

   一 スルメイカ(Todarodes pacificus Steenstrup)

「普通『イカ』と呼ばれるのはこの種である。主産卵場は九州西方海域で、日本列島の東西海域を大回遊する。※外套膜はほぼ円筒形で中央部がやや膨大し、後方はしだいに細くなり、後端はとがっている。腕は※外套長の約半分くらい。吸盤は2列である。体の後端には菱形の鰭があるが、その先端は外套膜の半ばに達しない。※漏斗溝には縦の溝があるが、側部にポケットのようなひだはない。外套膜の背側の正中線上には、暗色の縦帯がある。外套長30pに達する。」

 

   二 ミズダコ(Paroctopus dofleini <Wulker> )

「一般に雄を『マダコ』、雌を『ミズダコ』と呼んでいるが、『マダコ(Octopus vulgaris Cuvier)』は当地には産しない。全長3mにも達する。」

 

   三 タラバガニ (Paralithodes camtschaticus <Tilesius> )

「ヤドガリの近縁種で、第四歩脚が著しく退化している。カニの王様で『キングクラブ』と呼ばれ、缶詰として重用されている。」

 

   四 ズワイガニ(Chicnoecetes opilio <O.Fadrigus> )

「タラバガニよりも沖合に分布し、タラバガニの大用種として近年開発された。北陸地方では『マツバガニ』と称している。甲長13p前後に達する。」

 

   五 トヤマエビ(Pandalus hypsinotus <Brandt> )

「雄性先熟の雌雄異体で、小型の時代は《雄》、甲長4p前後の大型になると《雌》となる。普通『ボタンエビ』、または『タラバエビ』と呼んでいる。」

 

   六 エゾアワビ(Nordotis discus hamai <Ino> )

「殻は卵形か長楕円形で、他のアワビ類に比べると、細長く平たい。『磯のアワビの片思い』といわれ、片方の貝殻が無い『二枚貝』と思われがちであるが、れっきとした『巻き貝』である。浮遊幼生期には、巻いた殻と蓋を持っているが、蓋は底生生活に移ると退化してなくなる。巻き貝の証拠である※螺塔(らとう)は、殻の後方右寄りにある。※体層は著しく発達し、※殻口も大きい。※内唇の幅は狭い。殻の左側に沿って1列の※呼水孔があるが、古いものはふさがっており、開口している穴の数は4〜5である。殻表には細かい※成長脈と粗いしわがある。殻の色は茶褐色から黒褐色。殻の内側は、光沢のある真珠層である。頭部には1対の※眼柄と※触角がある。下側に口が開口する。頭部の後方には大きな足部があり、よく発達した右側の※貝殻筋によって殻に付いている。左の貝殻筋は小型で、体前方の内唇の内側にあって、※外套膜の左端を殻に付ける役割をしている。当海域は、アワビの北限地として、また多産地として有名である。沿岸漁業を支える重要な資源の一つであり種々の資源保護施策がとられている。」

 

   七 キタムラサキウニ(Stronglocentrotus nudus <A.Agassiz> )

「一般に『ノナ』と呼ばれる。殻は強固で半球形である。下面は平たく、囲口部に向かって、ややくぼむ。大棘は長く1.6〜3pに達し、その表面には細い縦線があり、その先端はあまりとがらない。体色はほぼ紫褐色で、棘は一様に暗紫または暗褐色。」

 

   八 エゾバフンウニ(Stronglocentrotus intermedius <A.Agassiz> )

「殻はまんじゅう状。口側(底部)と反口側(頂上部)は、ともにややへん平。※殻高は※殻径の半分より少し大きい。大は一様に短く、5〜7oを超えない。体色は個体により変異が大きいが、暗緑色や黄褐色を呈する個体が多い。場所によっては、殻径約10pに達する。また、エゾバフンウニは『ガゼ』と称され、『ノナ』(キタムラサキウニ)よりも美味である。海藻の繁茂する浅海に生息する。当海域の重要資源の一つでもある。その卵巣は、《雲舟》の原料として用いられる。また、昔は『礼文島で採れるウニが、築地の相場を変動させる。』と言われたほどである。」

 

   九 その他

 

  ヤリイカ      Doryteuthis bleekeri <Kefersteiv>

  ドスイカ      Gonatus magister Berry

  ホッカイエビ    Pandalus Kessleri Czerniavski

  ホッコクアカエビ  Pandalus borealis Kroyer

  モトロゲアカエビ  Pandalus japonica Balss

  イバラエビ     Lebbeus gloenlandicus (Fabricius)

  ケガニ       Erimacrus isenbeckii (Brandt)

  エゾイガイ     Crenomytilus grayanus (Dunker)

  ホタテガイ     Patinopecten (Mizuhopeeten)

  エゾワスレガイ   Yessoensis (Jay)

  エゾバイ      Buccinum middendovfti Verkruzen

  エゾボラ      Neptunea polycostata Scarlato

  ヒメエゾボラ    Neptunea arthritica (Bernardi)

  アヤボラ      Fusitriton oregonensis (Redfield)

  エゾイソニナ    Searlesia modesta (Gould)

  ヨソガカサ     Cellana toreuma (Reeve)

  エゾタマガイ    Tectonatica janthostmoides K.&.H.

  マホヤ       Halocynthia roretzi (P.)

  アカボヤ      Halocynthia aurantium (P.)

  ナマコ       Stichopus japoniaus S.

 

 

  海藻

 

   一 リシリコンブ(Laminaria ochotensis Miyabeo)

「漁業を支える重要資源の一つである。石狩湾北部から樺太にかけて分布するが、特に利尻、礼文は多産地として有名である。一般に、『リシリコンブ』の名で知られるが、実際には礼文島で採れる方が良いとされている。沖縄にナマコが生息し海を取り巻くように、当島ではコンブが取り巻いている。島のあちらこちらで、コンブが干されているのを目にするだろう。」

 

   二 ナンブワカメ(Undaraia distans Miyabe & O.)

「ワカメ分布の北線に当り、コンブと共に当地の重要資源となっている。」

 

   三 フクロフノリ(Gloiopeltis furcata P.&.R.)

「干満両潮線間の岩礁に付着し食用となる。」

 

   四 その他

「その他当地法で分布の認められる海生植物は次のとうりである。」

 

  マクサ        Gelidium amansii Lamx f. typica O.

  ナンブクサ      Gelidium Subfastigatum O.

  ヨレクサ       Gelidum Vegum O.

  アカバギンナンソウ  Iridaea pulehra Kiitz

  クロバギンナンソウ  Iridaca laminarioides B.

  アカハダ       Pachymenia carnosa T.

  アカバ        Dilsca edulis Slackn

  ヤハヅツノマタ    Chondrus ocellatus Holm

  トゲツノマタ     Chondrus armatus Okam

  ウップルイノリ    Porphyra pseudolinearis Ueda

 

 以上の他にスガモ、ホンダワラ、アオサ、ウミソウメンなどがある。

 

   ‖用語説明‖

 

 側扁    左右から押しつぶしたような形。

 円鱗    硬骨魚類に普通に見られるうろこで、表面が滑らかで小さな棘を持たない         ものをいう。うろこの後部に小さな棘を持つものは櫛鱗という。うろこが円鱗か櫛鱗かは分類上の重要な手がかりとなる。

 側線    魚類の体の両側に頭部から尾部に向かって線上に走る鱗上に開口した小さな穴の列。これによって水流や水圧を感じることが出来る。側線は頭部にも発達する。体側のものは普通1本であるが、複数本あるものや完全でないもの、枝分かれするものもある。

 基底    構造物の基部。魚類で「〜ひれ基底」といった場合、そのひれの付け根の両端間を指す。

 軟条    魚類のひれの鰭条のひとつで、左右に対をなし、分節している。

 卵黄    卵の中にか粒として存在する貯蔵物質。胚の発生の栄養分として使われる。たんぱく質、脂質、糖質、無機塩類、各種ビタミンを含む。

 ノ−プリウス カイアシ類、オキアミ類、クルマエビ類などの甲殻類の初期の幼生。

 棘     @棘条ともいう。魚類のひれの鰭条のひとつで、軟条が骨質化したもの。硬くて左右に対を為さず、分節していない。

        A魚類に限らず、硬く刺状をなす部位。

 鰓耙    円口類(ヤツメウナギの仲間)以外の魚類のえらは、し弓と呼ばれる弓形の組織に支えられているが、その内側に櫛状に並ぶ突起をいう。多くの魚類が鰓耙で味覚を感じる。また、口から飲み込んだ水の中から餌をこしとる働きもする。

 全長    生物の体の長さ。魚類の正に端から端(尾鰭の先端)までである。

 横帯    背側から腹側方向に伸びる帯状の模様。頭部から尾部に向かって伸びる場合は縦帯という。一般に、背側を上、腹側を下、頭部から尾部に向かう方向を水平にしている魚類などでは、縦・横の関係に注意を要する。

 縦帯    横帯。

 尾柄    魚類の体と尾鰭の間の柄状になった部分。

 皮弁    体表に突き出た皮膚の突出物。

 後期仔魚  魚類における卵からふ化して成魚に至るまでの間の一発生段階。発生が進むにつれて、卵→(ふ化)→仔魚(前期仔魚→後期仔魚)→稚魚→若魚→未成魚→成魚となる。前期仔魚は、ふ化直後から、卵黄が吸収されて餌をとり始めるまでの期間。後期仔魚は、卵黄を吸収し終わり、口が開き餌をとり始めてから、各ひれの鰭条がその種としての固有の数に達するまでの期間。稚魚は、形態はほぼその種の特徴をあらわしているが、魚体各部の長さの相対比は変化の途中にあり、色彩・斑紋なども、まだ成魚と異なっているもの。若魚は、体型はほぼ種の特徴を現し、一見して種を識別できるが、体の形態的な諸形質は発達中で、成長の盛んな時期。各部位の相対比は成魚と異なっており、二次性徴なども現れていない。未成魚は、形態は成魚の特徴を整えているが、性的に未熟な時期。成魚は、体の大きさも形態も十分に発達して、生殖能力を完全に備えている時期。このほかに、幼魚ということばもあるが、これには厳密な定義はない。

 体長    動物の体の長さ。魚類では、吻(ふん)前端から尾鰭の構造上の基部までの距離。

 体高    生物の体の高さ。

 門歯    ほ乳類の歯のうち、前方にある大工道具の「のみ」の形をした歯を『門歯』、奥にある臼の形をした歯を『臼歯』という。また、両者の間に位置する円錐状にとがった歯を『犬歯』という。

 有眼側   カレイ類の眼が有る方の体側。

 無眼側   カレイ類の眼が無い方の体側。

 浮遊幼生  浮遊生活をする幼生。

 外套膜   軟体動物(貝類、イカ・タコ類)の内臓を覆う膜状に延びた体表。

 外套長   イカ・タコ類の外套膜の長さ。

 漏斗溝(ろうとこう) イカ類の漏斗が重なる部分の頭部にある溝

 螺塔(らとう) 巻き貝の体層より上の螺旋状に巻いた部分。

 体層    螺旋状に巻いた巻き貝類の最も大きな最後のひと巻きの部分。

 殻口    巻き貝類の殻の開口部。

 内唇    巻き貝類の殻口周縁の体層下側の部分。多くの巻き貝では、この部分が滑らか。

 呼水孔   アワビ類の殻に一列に開口する穴。

 成長脈   貝類の貝殻に成長とともに刻まれるたくさんのすじ。

 眼柄    眼を支える柄状になった部位。

 触角    無脊椎動物において体の前端付近から左右に対をなして出る突起。

 貝殻筋   巻き貝類の軟体部を貝殻に固定する筋肉。

 殻高    貝類、ウニ類などの殻の高さ。

 殻径    巻き貝類、ウニ類などの殻の径。

 大棘    ウニ類の棘のうち、他よりも長く大きな棘。

 

 

                    <参考文献>  

                    原色日本魚類図鑑  田中茂穂 著

                    海の魚         上野達治 著

                    北の魚歳時記     達本外喜 著

                    北のさかなたち   北海道立水産試験場研究員 著

                                   (長澤和也、鳥澤雅 編著)

                    ※ これらの文献から一部抜粋 

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上・・・・・・・・・

 

  1 [艚巻が主流の『巻網』]

 

  巻網は春のホッケ巻網を中心に営まれている。

  巻網には、1艚巻きと2艚巻きがあるが、網や操業技術の改良が進んだことに加え、船型が大型化されたことや、 より高い機動性が必要な漁業であることなどから、近年は1艚巻きが中心となっている。

  しかし、巻網はホッケの策餌習性を巧みに利用した漁業で、いはゆる『漁師のカン』にたよる部分が大きいことや乗組員の確保が難しくなっていることから着業は難しく、加えて好不漁の差が激しいことなどもあり、近年はあ まり行われていないのが現状である。

 

  2 [大型化に一役〜『イカツリ』]

  『イカツリ』は、イカが光りに集まる習性を利用し、礼文町でもかなり古くから営まれているが、資源量の変動が激しいことなどから、周年操業はされていない。

  『イカツリ』は、一時、礼文町の漁業を支えた漁業であり、船型の大型化やレ−ダ−、魚探など機器の近代化にも一役買っている。

 

  3 [『タコイサリ』が主流のタコ漁業]

  タコ漁業には『タコイサリ』、『タコ空釣』などがあるが、礼文町では『タコイサリ』が大きなウエイトを占めている。

  タコ漁業は日毎に変わる『潮』や『タナ』を早く見分ける事が好漁につながる秘訣となっており、熟練が必要である。

  『タコイサリ』は図に示したような漁具を利用して行うが、多くの漁業者が行うため『樽』には、それぞれの好みの色をカラ−リングして他のものと区別できるようにしている。

 

  4 [熟練が必要な『ウニ漁業』]

  ウニ漁業は、古くはコンブの害敵駆除の一環として行われており、出荷も現在のような『ナマ』ではなく『塩蔵』であった。

  ウニは、礼文町では『タモ』と呼ばれる採取用のネットと、『ガラス箱』と呼ばれる水中メガメを利用して行われているが、これは操作が大変難しいため、熟練するまでには相当な時間を必要とする。

 

  5 [熟練VS若さの『採草漁業』]

  採草漁業の水揚げは主にコンブの水揚げによるものである。

  コンブは『ネジリ』や『カマ』と呼ばれる漁具により採取される。

  『ネジリ』は大量に採取するのには向いているが、かなりの体力を必要とすることから、どちらかというと若者向けであると言える。

  一方、『カマ』は質の良いものを選別しながら採取することが可能で、『ネジリ』より深い場所のコンブも採取することもできるが、熟練を必要とするため今ではあまり行われていない。

 

  6 [漁業の醍醐味『刺し網』]

  刺し網は様々な漁種を対象に行われており、礼文町では『ホッケ』、『ニシン』、『タラ』、『カスベ』などが主な対象漁種となっている。

  刺し網は資源量が低迷している今でこそ、あまり推奨できない漁業ではあるが、『トロ−ル漁法』と並び一獲千金の醍醐味がある漁業であるが、魚を痛めてしまうことなどが欠点である。

 

  7 [活の良さが魅力の『小定置』、『底建網』]

  定置網は魚の通り道に『手綱』という誘導用の網を仕掛け、それをつたって魚が袋網にはいるという仕掛けになっている。

  定置網と刺し網の大きな違いは『鮮度』と『すがた』である。

  刺し網が網目のついた状態で出荷されるのに対し、定置網は網目がなく、しかも、生きた状態で出荷できるという利点がある。

 

  8 [礼文の『育てる漁業』の魁〜コンブ養殖]

  礼文町のコンブ養殖は、厳しい日本海の波浪に耐えられるよう、大規模で頑強なつくりとなっているが、その反面、様々な養殖に対応がきくという利点があり、近年は『ウニ』や『アワビ』の養殖施設として一部が使われている。

  しかし、本州各地と違う産業構造や、発展の歴史のうえに成り立っている北海道の漁業は、『漁業者のための海面・資源』という意識が強く、そのことが養殖業の発展の妨げになっている場面も少なくない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・提供 礼文町町役場・・・・

 

礼文町アワビ育成センタ−

 

 ・目的  漁業は、かつて自然から無限大の資源を恩給として与えられていると考えられていたが、海の生産力は自然に左右されやすく、とても不安定なものであるといえる。しかも、漁業環境の悪化や乱獲等により、近年、礼文島においてもアワビ資源は減少傾向にある。そこで、自然界の水産資源を人間自らが栽培、管理しながら再生産手段を助長する「栽培漁業(育てて獲る漁業)」が考えられてきた。アワビ育成センタ−では、人間の手により大量の種苗を生産し、害敵から身を守れるくらいまで育て、その後の成長は海の自然の力にゆだね自然のもつ豊かな生産力を高度に利用している。

この施設は栽培漁業を推進するため、最も基本となる種苗を大量に生産するための施設である。

 《礼文島町役場》、《香深漁業協同組合》、《船泊漁業協同組合》の三者で共同出資

 

  天然物のアワビは、成熟するまでに『八年』という長い年月を費やすのに対し、育成センタ−で育てられたアワビは、『三〜四年』と遥かに成熟速度が早い。

 

  北方系エゾアワビの生育には、海水温度を『18〜20℃』に設定するのが最適とされる。そのため、秋期から春期にかけての飼育適水温を確保するために膨大な熱源を必要とすることから、当センタ−では、北海道電力香深発電所の協力を得ることにより、水温を保つことにしている。海水よりも遥かに高い温度にすることにより、アワビの成長促進を図っているのである。

 

 ・種類  えぞあわび(まきがい)

 

  アワビの餌は、海草・魚粉・ビタミン・カルシウムなどが入った『人工授料』である。夜光性という性質の為、 1日1回 夕方に与えられる。自然界でのアワビは、『珪藻類(コンブ、ワカメ、etc)』を好んで食べる。また、 天敵にタコ・ヒトデ・ツブ(ヒメエゾボラ)・カジカ・アイナメ・アブラコといったものがあげられる。その中で も、特に『タコ』が強敵であるようだ。タコは、頭の良い生物と知られており、アワビの殻をあしで閉じ、酸欠状 態とし窒息させ、アワビが殻を開けたところを食べるということだ。その他、『流氷』・『いそやけ』といったも のも苦手とする。流氷の場合、海水の温度が極端に下がるため、海草が死に絶え、アワビの餌が無くなるためである。

  当センタ−で気を付けていることに、『ガス病』がある。アワビの腸の中にガスが溜まり、破裂するという病気である。また、週に1度ぐらい水槽を洗うようにしている。それは、水槽の中に虫(?)みたいなものが発生するか らである。それと同時に、糞の始末も行っている。

 

  アワビ育成センタ−では、様々な努力が行なわれている。空間を有効に利用するために、従来の平面的なものから、新しく開発された多段式飼育槽を採用している。この飼育槽には、腐食の心配が無いネオランバ−FFUを素 材とし、半永久的に使用が可能となった。また、海水を再使用することにより、飼育水の節減効率化も高めている。 などが挙げられる。しかし、その努力とは裏腹に、ここ10年ぐらいは、依然、アワビの禁漁は続けられている。 それは、アワビの絶対数が増えないためである。どうやら、この問題は、ただ単に礼文島だけの問題とはいかない ようである。『自然環境の変化』や『環境汚染』など、様々な問題が絡みあっているような感じがする。当面として、今後に課せられた大きな問題といえるだろう。とはいうものの、とりあえず、今、出来ることから手を付けて いかなければ今後の発展はみられない様に思う。これからが大変である。

 

礼文島の漁業

 

「礼文島においての漁業は、主に個々で行われている。五トン未満の船を扱う人が多く、家族などの身内などで行われている。漁は一日一回行い、だいたい平均で200〜300sの漁獲量があるといわれる。夏場の漁では、大抵の船で、シマボッケやクロボッケなどの『ホッケ』が主体として漁獲されている。その魚法として主にとられているものに、『底刺し網』がある。さらに、『巻き網』や『底建網』といった魚法でも行っている。ホッケ以外では、スナガレイ・マガレイ・クロガレイといった「カレイ類」、「ハヤ」、「ヤナギノマイ(アカガヤ)」、マゾイ・シマゾイ・クロゾイといった「ソイ類」、「メバル(クロガヤ)」、「スルメイカ」などが大漁に引き揚げられる。時には、ギス(カジカの仲間)やハッカク、コブダイ、タチウオ、シイラ、そしてタコなども掛かることがあるそうだ。(ギスは味が劣るということもあり、捨てると言う人もある。)この時、もし“7〜8月”であれば《タコ》の禁漁期間に当たるので、採れたタコは海に逃がすということだ。これも、『育てる漁業』の表われではなかろうか。

 また、『底刺し網』で使われる網の大きさは、『75m×3m』というような大きな網を海の中に沈める。この時、大型の船になると『3.5〜4m』と網の幅は太くなる。この様に大きな網の為、沈める作業だけで1時間前後かかるそうだ。その後、魚が網にかかるのを待つ。網を沈める作業を午前2:00頃に始め、引き上げる作業が午前6:00過ぎと専ら早朝の仕事である。船により多少の誤差はあるようだが、大抵の船ではこの様に行われている。。漁獲した魚はその場で凍りづけにされ、鮮度を落とさないよう保たれながら、船泊漁業協同組合の冷凍工場に運ばれる。ここに運ばれたのち、直ちに加工され、札幌・東京・金沢へ出荷となる。その時、《特々大、特大、大、小》といった大きさを目方で選別される。

 出荷としては、『活魚(マガレイ、ヒラメ etc)』として売られるのがなんといっても値が吊り上がるのでいいのだが、大体においては凍りづけとなる。(※ 『ぼうだら』の頭や骨をとり、天日干しにして乾燥させるということも行っている。これは、手間は掛かるが値段が良いと言う事で割と良い仕事だそうだ。京都や大阪に運ばれたのち、懐石料理などに使われるということだ。)早朝、獲れた魚をその日の午前中に出荷となる。

 また、冬になると『ホッケ』にかわって、『マダラ』や『カレイ』が獲れるようになる。その他では、『スケトウダラ(スケソウ)』、『カスベ』などが挙げられるだろう。 タラは『はえ縄』魚法、カレイは『刺し網』魚法によってである。夏場では、月25日前後は漁に出れるそうだが、冬場になると5〜6日と大分制限されるようになる。それは、冬の日本海の《しけ》が影響するそうだ。さらに、11月・12月にもなると、《トド》が南下してくるようになるため、魚を食い荒らすので漁業に対して被害をもたらすことになる。

 以上の様に、冬の操業は非常に困難であるといえる。であるからして、収入の大部分は夏の操業となる。漁師一人当たりの年収は、1〜1.5千万ぐらいである(※ 大きい船で操業する人は、より収入が高額となる!)。しかし、最近では、魚自身の単価が非常に安くなったことに加え、『不景気』と相重なり、経営が以前にも増してより厳しい状態になったそうだ。さらに、ここでも『後継者問題』が今後の重要課題として浮き彫りになっている。それに加え、『高齢者問題』など、様々な問題が浮び上がってきた。こういった問題の対処として、船泊漁業協同組合では、現在の漁業の在り方について再認識し、これからの漁業に向けて様々な工夫を凝らしている。とはいえ、現状は非常に厳しいと言える。」

 

 ‖その他‖ 

 

  《タイドプ−ル》

  海岸には、砂ばかりのところと、岩ばかりのところがある。砂のところを浜といい、岩のところを磯という。

浜 では砂がならされていて、潮が干いても水たまりは残らないが、磯では、岩のくぼみに水がのこって、小さなプ−ルができる。これを、『タイドプ−ル(しおだまり)』という。

  タイドプ−ルは、岩の形や質によって、さまざまの大きさや形をもつ。小さなくぼみに石がおちこむと、波の作用でころがり、まわりの岩をけずっていく。長い年月の間には、直径十数メ−トル、深さ四〜五メ−トル、なかに 数十トンもの水をたたえる大きなプ−ルに成長することもある。このようになると、さしずめ海のミニチュアとい った感じで、『ウニ』、『ナマコ』、『エビ』、『カニ』など、海岸の動物とともに、『カエルウオ』や『ハゼ』 の仲間などの魚もたくさんすんでいる。

 

 [ 磯の海洋学

 

  《水 温》

  日本の磯魚に、最も大きい影響を及ぼすものは、『水温』である。特に、南方系の魚の多い黒潮や対馬暖流の支 配下にある磯では、冬の低温が最も厳しい。フエヤッコダイのような熱帯の魚は、冬に凍死し、成魚になることは ない。そういう魚は、太平洋岸にはたくさにる。また、日本の沿岸で越冬できる魚でも、その多くは低温致死限界 が十度くらいなので、冷え込みの厳しい海岸の浅いところでは冬を越せない。日本海側ならさらに低温となり、六 〜七度まで下がる。

  沖の深みに去ったり、砂に潜り込んだり、さまざまなやり方で、日本の冬の低温をしのいでいる磯 魚も、ときに襲う異常な寒波には抵抗できず、大量に打ち上げられる。(例 1961年、冬)

 

  《水 質》

  海水の水質で、普通一番問題になるのは『塩分濃度』である。しかし、『エビ』や『タコ』は弱いが、『魚』、特に『成魚』は、少々の塩分の変化ぐらいで死ぬことはない。ほとんどの魚が、半分位の水でうすめた海水の中で も、十分生きていく。

 

  《潮汐と波》

  『潮汐』と、それに伴う『潮流』は、磯にすむ生物に大きな影響を与える。漁師が、何よりも先に、潮時を気にすることが何よりの証拠である。ごく一般的にいえば、満ち潮とともに磯魚は岸に近寄り、干き潮とともに沖へ去 る、ということである。しかし、これに昼夜の変化がからみ、さらに大潮小潮と、それに平行した月夜と闇夜を加 えていくと、まさに複雑怪奇となり調査が困難である。

 

 [ 磯の地形学

 

  《岬と湾》

  海岸を歩くと、砂ばかりつづくまっすぐな浜もあるが、普通は、出たり入こんだり、変化の在るもである。突き出たところを『岬』、へこんだところを『湾』という。そして、岬が『岩礁』、湾が『砂浜』になっていることが 多い。すなわち、海岸は、磯と浜とが交互に並ぶという構造をもっている。

  この岬と湾、磯と浜の交代という地形は、どうして出来たものだろうか。それを理解するには、百万年ほど昔にさかのぼらなければならない。

  人類が起源したといわれる百万年ほどまえから、地球は四回の寒冷気候、いわゆる氷河期に襲われた。海水が蒸発し、雨となって地上に降り、それが皆凍って地上に氷河としてたくわえられてしまうので、海の水がしだいに減ってくる。氷河の最盛期には、50メ−トルから100メ−トル以上も海面が低下したというから、たいへんである。これを『海退』という。

 

                           <参考文献>

                              磯魚の生態学  奥野良之助 著

                              ※抜粋によるもの

  ※ 豆知識 《ニシン》

 

  かつての蝦夷地はニシン漁で冬が明け、春の訪れを感じたもので、そのため、ニシンを『春告魚(はるつげうお) 』と呼んだぐらいである。北海道の開拓とニシン漁とは切っても切れない縁があり、江差の五月は江戸にもないと いわれたほど、活況を呈した時代もあったのだ。その頃は松前・江差がニシン漁場として栄え、その後漁場が次第 に北に移り、明治−大正年間には江差追分で名高い『歌棄(うたすつ)』、『磯谷』から『忍路(おしょろ)』、 『高島』といった後志の沿岸が千石場所であった。その頃はいわゆる『百万石時代』で、春ニシンの水揚げは五十 万トンから百万トンにも達した。

  ところが昭和に入って漁場がさらに北に移るとともに、ニシンの来遊量もだんだん減ってきたが、それでも毎年 四・五十万トンの水揚げが続いた。それが昭和十九年の三十八万トンを境にして急激に落ち込みはじめ、昭和二十 九年に十万トン獲れたのを最後にパッタリと姿を見せなくなってしまった。その後、一時、厚岸湾の地方ニシンの 豊漁が続いたが、それも消滅してしまい、今では北海道沿岸で獲れる春ニシンは十トンから二十トン未満に激減し ているありさまである。

  あれほど沢山いたニシンが急にいなくなったのは何故かということで、多くの研究者が調べたが、その直接的な原因は判っていない。しかし、日本海沿岸の海況が大きく変ったというよりも、対馬暖流の勢力が強くなり、餌と なる『イサダ(不遊性甲殻類)』の量が減ったことや、冷たくて、甘い水を好むニシンにとって、温かくて、辛い水に変ってきてだんだん棲みにくくなってきたことなどが重なって、ニシンが北海道の西岸から姿を消したと考え られている。ニシンが高塩分の海水より低塩分の水を好むことは湖沼性のニシンが存在することからも明らかだ。

  昔の春ニシンはイサダを腹いっぱい食べて、脂が乗り切ったところで産卵の為、大挙して沿岸に来遊したが、今、サハリン(樺太)の西海岸やオホ−ツク海の奥部では、刺し網で獲っている産卵ニシンや夏の索餌群(産卵を終えた後のニシン)はイサダが少ないこともあって、他の動物性プランクトンを餌にしているせいか、脂の乗りが悪く、味も落ちるという訳で同じニシンでも雲泥の差がある。

  資源の減少を理由とするロシアのオホ−ツク海ニシンの『全面禁漁措置』や、『二百カイリ漁業専管水域』設定に伴う《沖刺しニシン漁》の締め出しなど、ニシンを巡る情勢は一段と厳しくなり、味の低下とあいまってまさに 『ニシンは遠くなりにけり』という感じがする。

 

                                  <参考文献>

                                    海の魚   上野達治 著

                                   ※抜粋によるもの

 

 *あとがき

 

 あ−、疲れた。ホント、疲れた。資料集めなど、本当に苦労をした。しかし、今回この資料を通じて漁業の大変さを改めて実感した。海上での仕事は、陸上のとは打って異なりとても御苦労が多いことと思われる。さらに漁へ出る為の準備から、魚の水揚げなど作業をするうえで、絶えず神経を尖らせていなければならない。特に、海上での作業は、陸上からでは想像も着かないような危険が付きまとう。自然の中での作業なので、一歩間違えば、すぐ死と隣り合わせなのである。そういった環境が、男たちを強く逞しく育て上げているのだ。また、直接には漁業とは関係ないが、漁業を促進する上でサポ−ト的に活躍されている漁業協同組合の職員の御苦労なども僅かではあるが知るところとなった。漁師の方と常に二人三脚をとり、漁業の事だけではなく生活に至るまで実に細かな面までサポ−トしている。

 今回、この資料を作成するにあたって、漁師のかたやアワビ育成センタ−の職員の方、船泊漁業協同組合の後藤さんをはじめ、数多くの皆様方の協力を得ることが出来ました。厚く御礼を申し上げます。(商学科 川崎広治)