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北海道大停電

地震の大きな揺れ(苫小牧:震度5強)により、震源に近い苫東厚真火力発電所の3基の発電機(合計165万KW)が停止しました。地震発生当時、道内の電力需要は約310万kWとみられます。電力の約半分が突然失われたため、需給バランスが大きく崩れ、周波数を安定させることが難しくなりました。周波数の不安定化により引き起こされるタービン損傷等を防ぐために、遮断機が作動し、連鎖反応的に停電域が広がりました。結果として離島以外の北海道全道が停電する事態となりました。ひとつの電力会社のほぼ全域が停電する事例は日本では初めてのことです。

送電線の電力は、三相交流となっていて、すべての発電所は、正確に同期させて発電しています。今回の大停電のわかりやすい説明として、「運動会のムカデ競争」や「お祭りの御神輿」に例えた説明がされますが、位相をそろえないと、転倒する危険があるわけです。今回は半分の力を担っていた苫東厚真が突然タウンしたので、 一気にバランスが崩れたことになります

北海道の主な発電所と送電線網の地図を作りました。水力発電所は山間部にあります。火力発電所は多くが海沿いにあります。電力を消費するのは札幌や旭川などの大都市ですから、発電所と大都市との間が複数の送電線で結ばれています。

 水力発電所は、道内に56か所ありますが、地図には3万KW以上の12か所を示しました。京極発電所は揚水式で1号・2号ともに20万KWの発電能力があります。火力発電所は離島を除くと7か所を地図にすべて示しました。苫東厚真・砂川・奈井江は石炭火力、苫小牧・伊達・知内は、石油火力です。音別は軽油を燃やしてガスタービンを回しています。多くが臨海部にありますが、砂川・奈井江は石狩川沿いにあります。泊原子力発電所は、原子力規制員会の再審査中で、運転は休止しており、原子炉内に核燃料はありませんでした。核燃料プールの冷却は、外部電源が復旧するまで、非常用のディーゼル発電機で行われました(約10時間後に復旧)。地熱発電所は、道南森町の濁川カルデラにあり、出力は2.5万KWです。

背景図は、国土地理院250mDEMを使用し、カシミール3Dで作画。日高南方の海上上空から俯瞰70度、高さ強調3倍。
地理院地図やグーグルアースを利用して、発電所の位置や送電線網を確認しよう!
上図の発電所の位置を示したKMLファイルは(こちら
日高山脈にある「奥新冠」「新冠」「高見」「静内」の立地環境を眺めてみよう。揚水式発電の「京極」も確認してみよう。
地熱発電の「森」も火山地形をみてみよう。「砂川」「奈井江」など古い火力発電所がどうして石狩平野北部にあるのでしょう?「苫東厚真」「苫小牧」などの火力発電所がどうして臨海部にあるのでしょう?
上図の送電線網のKMLファイルは(こちら
地理院地図の送電線をなぞって作成した(大変でした)。漏れがあるかもしれませんがご容赦を。送電線は「複線」になっているところが多いです。送電線が多数集まるところに大きな変電所(開閉所)があります。また、都市の郊外にも必ず変電所があります。

(補足)苫東厚真発電所は、地理院地図では、「厚真火力発電所」となっています。近所には「苫小牧発電所」がありますが、こちらには「火力」の文字がありません。表記が不統一のようです。また途中で終わっている不思議な送電線がありました。鉄道でいうところの「廃線」なのかもしれません。石狩新港に新しい火力発電所(LNG)が建設中で、2019年には稼働するようですが、地理院地図ではまだ更地です。 

地震翌日の札幌市内の様子

撮影は7日6時30分頃、平井尚志氏による

札幌市営地下鉄東豊線東区役所駅。、7日朝の段階では、運転見合わせであった。7日14時以降に順次運転を再開したが、節電対策のため、日中の運転本数を減らしている。(9月11日記) 写真中央の歩行者用信号が消灯したままとなっている。停電は道路交通にも影響を及ぼす。6日と7日は札幌市のすべての公立学校が休校。道内でも9割の学校が休校となった。 地震の為、翌日朝には営業を休止したセブンイレブン。コンビニエンスストアは、災害時でも営業をする店舗が多いが、停電が長引くと、冷蔵・冷凍設備が使えす、従業員の確保も難しくなる。

停電災害

 地震による札幌市内の直接的な被害としては、東部の清田区で、液状化と埋設水道管損傷により、住宅被害が出ましたが、中心市街においては、構造物の被害はほとんど発生しませんでした。 停電による影響が大きかったとみられます。札幌市内は、地震後すぐに停電となり、固定電話は使えなくなりました。スマートフォンなどLTE通信も繋がりにくい状況で、詳細な情報を入手するのが困難になりました。旧来型携帯電話での通話はできたようですが、充電ができない状況なので、24時間以上の停電には心細い状況でした。非常食についての備えがあっても、バッテリーの備えがないので、情報不足に陥った人が多かったようです。工場は操業ができず、酪農家は搾乳した生乳を捨てざるを得ず、人工透析患者は生命の危機にさらされました。停電災害の影響の大きさが教訓となりました。

電力の復旧

 北海道のほぼ全域が停電するという「ブラックアウト」からの復旧は、水力発電所を起動し、同期させながら火力発電所をひとつずつ稼働させる方法で行われました。

    合計
9月6日3時8分 地震発生。295万戸で停電。 0万kW
6日12時頃まで 水力発電所から運転開始(+30万kW) 30万kW
6日13時35分 砂川火力3号機運転開始(+12.5万) 42.5万kW
6日20時10分 音別火力1号機運転開始(+7.4万) 50万kW
7日00時20分 奈井江火力2号機運転開始(+17.5万) 67.5万kW
7日00時57分 砂川火力4号機運転開始(+12.5万) 80万kW
7日03時頃まで 水力発電所(43.9万、+13.9万)
7日03時頃まで 本州から(60万)
7日03時頃まで 北電以外の火力発電(+10.5万) 164.4万kW
7日03時04分 森地熱運転開始(+2.5万) 166.9万kW
7日03時45分 知内火力1号機運転開始(+35万) 201.9万kW
7日04時24分 奈井江火力1号機運転開始(+17.5万) 219.4万kW
7日09時頃まで 北電以外の火力発電(15万、+4.5万)
7日09時頃まで 水力発電所(37.8万、-6.1万) 217.8万kW
7日09時08分 音別火力1号機→2号機(±0) 217.8万kW
7日11時08分 伊達火力1号機運転開始(+35万) 252.8万kW
7日12時頃まで 北電以外の火力発電(15万、±0)
7日12時頃まで 水力発電所(35.7万、-2.1万) 250.7万kW
7日15時頃まで 水力発電所(40.4万、+4.7万) 255.4万kW
7日15時以降 運転準備中の北電以外の火力(+10.1万)
7日15時以降 運転準備中の水力(+13.6万)
7日18時30分見込 伊達火力2号機(+35万) 314.1万kW
8日02時頃まで 道内の99%で停電解消  

*北電記者発表資料より