2000.09.16更新

象徴語(オノマトペ【Onomatopee】)表現

1、象徴語とは

 外界の物音や声などに似せた音声(社会の言語枠にあてはまる)を擬音語、擬声語と言う。

 外界の動きや状態を音声(共感覚)で象徴的に表わした語を擬態語と言う。

     入力感覚 基本形 清濁音の意味対立 同音異義

擬音語  聴覚  ツメル音  清音 サラサラ  ハラハラ(木の葉)

擬声語  聴覚  ハネル音  濁音 ザラザラ  ハラハラ(心持ち)

擬態語  視覚、味覚、嗅覚、触覚  ノバス音

擬情語  気分・心理状態  リ音

 ここで、清音と濁音を並列してみたのですが、清音はわたしたちに心地よく響くのに対し、濁音はどうも厭な気分を誘います。いわば清音に比べ濁音にはさげすみの心持ちが表現されているのではないでしょうか。このあたりのところをご自身で多くの古典資料からじっくり探って見ましょう。

 

表現形態 @繰返し音 A同音反復[畳語] B転用・派生 C異音反復[畳語] Dツメル音 Eハネル音 Fノバス音 Gリ音 H接尾辞「つく」「めく」→派生動詞

 

2、禽獣蟲の「聞きなし」表現

 この世のありとあらゆる生き物の鳴き声を、人は耳で聞き、これを声に真似て表現します。これは現代人のわたしたちに限ることではなく、古来、人が用いてきた活性描写表現の一つなのです。そうした表現をここに再現しておきましょう。現代の文芸作品でいえば、椎名 誠さんが、「猫が「じるじる」と喉を鳴らし、犬が「びゃんびゃん」とだらしなく鳴き、ヘンな男が「うおんうおん」と咳をし続ける……」といった「聞きなし」の表現を提供しています。

 身の回りの生き物でいえば、ワンワン鳴くものを「いぬ【犬】」と呼び、ニャーニャー鳴くものを「ねこ【猫】」と呼びます。では、「すずめ【雀】」や「からす【烏】」はどうでしょう。いったい、どのように鳴くのでしょうか?

 これらすべて「…らしさ」の表現ともいえるのではないでしょうか。

3、[補遺]

 実際に発せられている声や音、その仕種や表情が上記の「象徴語」を用いずに表現された場面があります。その場面状況を読み手は鋭く推測し、どのような対象がどうようなのかを判断しています。いわば無の象徴語表現というものが作品の情景や状況を作り出していることになります。

T、無音・無声の表現

鶏鳴丑一聲相報ス、シ∨前後驚覺ス。騰々夢裏身、釋迦老子交/\。〔どのような声で鳴いたのでしょうか?そして、場面状況は如何でしょうか?〕これは「十二時」という題の漢詩の一句です。

U、無態・無情の表現

 

4、文学資料作品と表現用例集

インイン【殷々】車聲殷々トシテ、漸ケバ‖風松テ∨シキコト|。隣壁老僧來。半〓〔區+瓦〕分ツ‖建溪ヲ|煎茶。《義堂周信『貞和集』巻十8オF》 《擬音語・車の音、畳語(同音反復)》

ウルウル【0】玉粒ハ飯ノ米ノ白テ玉ノ如ナヲ云ソ。紅―ハ飯ノ色ノ紅ニシテウル/\ノシタコトソ。飯ハ白雪ノ如カ本テアラウソ。《惟高妙安『玉塵抄』第37十六244L》《擬態語・飯粒、畳語(同音反復)》

クワクワ【呵々】気火號更深喝送普門関捩一時圓通大士呵々是峨嵋トニ∨五臺 夜深ク‖スル∨ヲ|。《義堂周信『貞和集』巻十26オF》《擬声語・笑い声、畳語(同音反復)》

ニコニコ【莞爾】ビンホウヒラウシタ者ヲニギワシ、ニコ/\トナシ、ナニモナウテトモシウカナシイ者ヲタスケスクウコトハ錢テスルソ。イカナ天ノ廣大ナ徳ト云トモ錢ニハ及フマイソ。《惟高妙安『玉塵抄』第38「錢」十六258J》《擬情語・顔の表情、畳語(同音反復)》

フラリ【0】玄宗ノ天宝年中御世ノサカリニ宮中ニ春ノアソビニ{秋千}ト云コトヲシテ、宮女ノジヤレコトニアソヒヲナサレタソ。{秋千}ハ、本ニハ{鞦韆}トカクソ。五色ノ唐イトヲナワニクンデ、柳ヤ桜ノ枝ニカケテ、ソノツナヲフンテ、アチエフラリコチエフラリト、ヒトリモブラメカシ、人ガソバラツイテ、フラメカスコトソ。半仙ノタワムレト云タソ。半仙ノ心ハシラヌソ。仙人カ此ヤウナコトヲスルヤラ、仙人ノアソヒニ此ヤウナコトノスクレタコトアルヤ。此ハソノ半分ト云心カ。不∨知ソ。《惟高妙安『玉塵抄』第37「半仙天宝宮中テ‖秋千ヲ|‖−−ノ之戯ト|」十六231@》《擬態語・鞦韆、リ音》

ブラリ【0】ナワニツカツテ、サキエフブラリトツカレテ飛ヤウニ行テマトルソ。漢ノ武帝ノ后ノツボノ内ニ此ノタワフレヲサセヲレタソ。此ハ早ワサノケイコデハナイソ。タヽ美人ノアソビワサソ。此ヲ半仙戯ト云タソ。仙人半分ノ戯ト云タ。半仙ノ心ハ注ハナイ。身ヲカルウシテ飛ヤウニスルホトニ仙人ハ飛行スル者ナリ。ソノ半分ハカリノナリト云心カ。推ノ義ナリ。《惟高妙安『玉塵抄』第38「韆北方寒食爲‖鞦―ノ戯」十六302D》《擬態語・鞦韆、リ音》

 

[今後の検討課題] 古典文学にあって畳字訓を含めた象徴語表現の漢字表記はどのように変遷してきているのかを考察してみることにしましょう。方法としては、現在市販されている「擬音語擬態語辞典」に記載されている収録表記状態を見て見ましょう。

 参考図書文献

 A擬音語・擬態語の読本(尚学図書・言語研究所編集、小学館刊\2,000)一二〇〇語収載

 B擬音語・擬態語辞典(浅野鶴子編、角川書店刊\1,300)

 C新編『大言海』(大槻文彦編、冨山房刊)

 D『学研国語大辞典』(金田一春彦他編、学習研究社刊)

 E『日本国語大辞典』(小学館刊)