2005.07.07更新
七 夕
               七夕祭り(乞巧奠)
七夕(たなバた)のゆらい
○七夕乃發(おこ)りハ唐土(もろこし)桂陽城(けいようじやう)の武丁(ぶてい)といふ者(もの)仙術(せんじゆつ)を習(なら)ひける。或時(あるとき)其弟(そのをとゝ)にいふやう七月七日織女(しよくじよ)天河(あまのがハ)を渡(わた)るべし。弟(をとゝ)問(とふ)て云(いハく)織女(しよくじよ)何(なに)の亊(こと)ありて天河(あまのがハ)をわたるぞといへば武丁(ぶてい)が云(いハく)織女(しよくじよ)暫(しバら)く牽牛(けんぎう)の所(ところ)へ行(ゆく)なりといひしより七夕の發(おこ)りて唐土(もろこし)にても日本(につほん)にても此二ツの星(ほし)をまつるなり。祭(まつ)り様(よう)机(つくへ)四脚(しきやく)の上(うへ)に九本の燈臺(とうだい)に火()をともし香(かう)をたき盥(たらい)に水(ミづ)を入れて星(ほし)のかげをうつし拝(はい)するなり。〔MM004『女教訓寳文庫』大一冊。無刊記本(近世中期〜後期)20ウ・21オ〕→「七夕のうた」下の部分参照。
 
○七夕まつりハ、昔(むかし)桂陽城(けいやうじやう)の武丁(ぶてい)といふ者、七月七日乃夜織女(しよくしよ)銀河(ぎんが)をわたりて牽牛(けんぎう)へあふとたはふれにいひいだしたるをあやまりつたへて、さま/゛\の瓜茄(うりなす)菓子(くハし)をそなへてまつるを乞巧奠(きつこうでん)といふなり。そのまつりの次第ハ、茅萱(ちがや)の葉()をしき瓜果(くハ/\)を手向(たむけ)るハ、物(もの)に水をいれて星(ほし)の影(かげ)をうつしておがむ。竹を七尺にきりて左右(さう)にたて、そのさきに糸(いと)を七すぢ、ねがひ乃糸とてかくるなり。また香(かう)をたき、琴(こと)をならして祭る也。古哥に 庭の面にひかでたむくることの音を雲井にかハすのき乃まつ風。〔MM063『女大學寳箱』全一冊。文久三年癸亥(1863)三月吉日/書林 江戸日本橋通壹丁目須原屋茂兵衛/大阪心斎橋南久宝町伊丹屋善兵衛/同上町与左衛門町服部屋幸八」〕《93ウ》七夕まつりの所。《94オ》
 
 七夕歌づくし
七月七日を七夕といふ。牽牛(けんぎう)織女(しよくぢよ)の二星(せい)佳會(かくわい)の夜なり。かさゝぎ橋(はし)となりて織女(しよくぢよ)を渡(わた)すとなり。淮南子(わいなんし)といへる書(しよ)に出たり。香花(かうげ)をそなへ供物(くもつ)をとゝのへ梶の葉に詩哥(しいか)を書(かき)、竹(たけ)の葉につけ、又五色(ごしき)の糸をかけて事を祈(いの)れば三年の内にかならずかなふといへりかし。小袖(こそて)とて新しき小袖を棹(さほ)にかけ、又立琴(たてごと)とて琴(こと)を□をかけて星(ほし)に手向(たむけ)ておのれがねがひをかくること唐土(もろこし)・本朝(ほんてう)も同じきなり。
 星(ほし)まつる庭(にハ)のともしびこゝのへにあひあふかずも空にしるらん〔MM219『女大學寳文臺』(題箋欠)刊一冊(全)。末尾識語破欠(天明四年刊)〕
 
七夕(たなばた)哥(うた)づくし〔MM068『若I百人一首』(女教徃來物(じょきょうおうらいもの))一冊。浪花書林 藤屋宗兵衛〕
〔MM108『若I(わかつる)百人(ひやくにん)一首(いつしゆ)』[女教訓/四季用文章/女躾方]全一冊。文化十年(1813)癸酉春正月發行/安政三(1856)丙辰歳補刻。大阪小林利兵衛/米田清左エ門元板/發行書肆京都吉野屋甚助/浪花敦賀屋彦七/藤屋宗兵衛。画工石田玉山→×要調査
「七夕(たなばた)のゆらい」「七夕(たなばた)祭(まつり)乃和歌(うた)」〔MM104『女今川女大學女実語教併書』(題箋欠仮称)一冊(末尾欠)。無刊記〕
「七夕祭乃事」「七夕哥つくし」〔MM105『孝貞教訓女教小倉文庫』一冊。無刊記。書肆大坂心さい橋藤屋九兵衛板〕
「七夕詩歌(たなばたのしいか)」〔MM107『群花(ぐんくわ)百人一首(ひやくにんいつしゆ)和歌薗(わかのその)』[日用婦人珠文匣雜録]一冊。天保七年(1836)丙申正月新刻/嘉永三年(1850)庚戌八月再刻。平安 東籬亭悠翁編輯/江都 溪齋英泉畫圖。發行書林芝神明前岡田屋嘉七/通四町目須原屋佐助/通貳町目小林新兵衛/同所山城屋佐兵衛/十軒店英大助/淺草茅町須原屋伊八/通壹町目須原屋茂兵衛。〕
 
「七夕之状」〔MM220『児童躾方画図手引小笠原諸禮大全』上下(下之卷附録・式礼用文章・頭書式法礼文)三冊。文化六(1809)己巳年開板。法橋玉山著、石玉峯画。京都書林賣弘 寺町通松原下ル今井喜兵衛/東都書林賣弘 中橋南塗師町前川六左衛門/浪華書林 心齋橋博労町杉岡嘉助/高麗橋壹丁目赤松九兵衛/讚岐屋町西横堀西植田善七合梓〕
 
 
 
 
2004.07.06更新
「七夕」のうた
萩原 義雄
 
MM004『女教訓寳文庫』所収
[七夕(たなバた)の哥盡(うたづくし)]二一丁
○年(とし)ごとにあふとはすれど七夕乃ぬる夜()のかすのすくなかりける
□秋(あき)の夜()をながきものとハほし合のかげみぬ人のいふにぞありけん
□七夕の恋(こひ)やつもりてあまの川まれなる事のふちとなるらん
○万代(よろづよ)に君ぞ見るべき七夕乃ゆきあひのそらハ雲のうへにも
□七夕のとわたる舟(ふね)乃かぢの葉()にいく秋かきつ露(つゆ)の玉づさ
△秋にけふをさしてや天の川わたしそめけんかさゝぎのはし
□七夕のちぎりまつまのなミだよりつゆのゆふべ乃ものとやハをく
□たなばたのなミだの露の玉のを乃秋のちぎりたえぬハなりける
△秋をへてつれなる夜のなミだかや紅葉のはしをわたしそめけん
□たなばたのころものつまはこゝろしてふきなかへしそ秋のはつ風
△天の川そのミなかミハきハむともあふせハはてもあらしとぞおもふ
凾ソきりをぞ浅からぬおもふ天の川あふせハ年のひとよなれども
▽年をへて住(すむ)べきやどの池水に星合(ほしあい)のかげもおもなれやせん
△幾(いく)とせを行めぐりても七夕の契(ちぎ)りハたえじよハ乃したおび
○草の葉にけふとる露や七夕乃秋のたむけにむすびそめけん
○よそにたにまちこそわたれ天のがわさそいそくらんつまむかへふね
○こひ/\てこよひはかりやたなハた乃まくらにとりのつもらざるらん
□七夕の露乃ちぎりの玉かづら幾秋かけてむすびおきけん
◇七夕のよハあまのかハら乃いわまくらかわしもはてずあかぬこの
○あまの川あふせほどなき七夕のかわらぬ色の衣かさばや
○天の川まだはつ秋のミじかよをなど七夕のちぎりそめけん
○あひ見てもなを行す所のちぎりをやむすびかさぬる七夕のいと
○いく秋もたえぬちぎりや七夕のまつにかひあるひと夜なるらん
□くれ行けはあふせにわたせあまの川水かけ草の露の玉はし
○天の川秋をちきりしのはやわたるもミちのはしとなるらん
○七夕のこよひとたのむかけなれや夕邊の月のつまむかへ舟
 
MM066『女訓寳文庫』
いやしきも高きもおなしくさゝのはにけふとり/\にたむけすゝしむ
今宵(こよひ)こん人にハあハし七夕の久(ひさ)しきほとに待(まち)もこそする
今ハとてわかるゝときハあまの川渡(わた)らぬさきに袖(そで)そひちぬる
天の川通(かよ)ふうきゝにとハんもミちのはしに散()るやちらすや
明行ハ川P(かハせ)のなミのたちかへりまたそてぬらすあまの羽ころも
逢()ふハけふと思へとたなはた乃くるゝまつまの心をそしる
契りけん心そつらき七夕のとしにひとたひあふハあふかハ
幾(いく)とせをゆきめくりてたなはたのちきりハたへしよハのしたおひ
天の河そのミなかミハきよむともあふせハはてもあらしとそ思ふ
草のはにけふとるつゆやたなはたのわかれの袖におけるしらつゆ
七夕のこゝろのうちハいかならんまちとしけふ乃ゆふくれの空
空しにまつならひそつらき天の川あふせハちかきわたりなれとも
たなはたのころも乃つまハこゝろして吹なかへしそ秋のはつ風
天の川あかつきやミのかへるさハまたわたらるゝあさ瀬()しら浪(なミ)
はかりのあふせこそつらき天の河一夜神代のかたミなるか舞
たなはたの苔(こけ)のころもをいとハすハ人なミ/\にかしもしてまし
九重(ここのへ)のにハのともし火かけふけてほしあひの空に月を見るかな
七夕のあらぬわかれ乃なミたにや花のかつらもけかるらん
けふにかすてふはしハ鵲(さき)の羽(はね)をならふるちきりたえしを
へたてゝもなかきためしを山鳥(やまどり)のむろのはつせにほしや契(ちき)らん
あまの川よるせをいそけひとゝせに一たひきませつま迎(むか)ひ舟(ぶね)
うきゝたにかたへハ通(かよ)ふ天の川なにとてかたき星の出舟そ
ほしもけふ君(きミ)か言葉(ことば)の手向(たむけ)くさうけてや露のひかりそへまし
こゝろしておはなハのこせ袖(そで)の露ほすらむけふのほしの手向(たむけ)に
橋ならていつも通(かよ)ハんかさゝきのおのかつはさをほしにかしてよ
うくらんもしらすやほしの手向(たむけ)くさとのなゝくさハ花もましらす
おもひくさ思ふやいかに七夕の手()にもたまらぬ露のちきりハ
七夕のひと夜をたのむ枕(まくら)とて引結(ひきむす)ふくさもさそな露けき
七夕のけふ乃あふせもあすか川明日(あす)ハなミたのふちとなりなん
くちせしのちきりやかわすあまの河あふせうれしきいハまくらして
恨(うら)みあれやかくたまつさも梶(かぢ)の葉()につゆのひとよのほし合の雲
幾秋(いくあき)も絶(たえ)ぬちきりや七夕のまつにかいひあるひと夜成らん
あき風の吹(ふき)にし日より久賢(ひさかた)の天の河原に絶(たえ)ぬ日ハなし
久(ひさ)かたの天乃かわらのわたし守(もり)君わたりなハうちかへしてよ
あまの川ミつかけくさのあき風になひくをミれバときハ来にけり
としことにあふとハすれとたなはたのぬるよのかすそ少なかりける
あさからぬ契りとハ思ふ天の川あふせハとしにひと夜なれとも
あまの川もミちをはしにわたせはや七夕つめの秋をしもまつ
七夕にかしつる京のうちはへてとしの尾()なから戀や渡(わたる)らん
けふよりハいまこんとしのるをそいつしかとのミ待(まち)わたるへき
一ト年を中に隔(へだて)てあひ見まく星のちきりや思ひつきせぬ
明ぬれハくるゝものとハあふ事をたのめぬほしやよを惜(おし)むらむ
をりひめのはかなくやミんとしに手向る糸(いと)のたえぬ願(ねか)ひを
見ぬふミもけふハひもとけ銀河(あまのかハ)さらすためしの有と聞(きく)よに
をり姫(ひめ)の衣(ころも)のすそ乃秋風にうら珍(めつ)しきかさねてそぬる
初風(はつかせ)の秋(あき)やまちけんひとゝせに一葉の露の星あひのそら
ほしやおもふきミの言葉のたまのいともかしこきけふの手向を
天の河あふせまつ間のあきかせやまのそてそ涼(すゝ)しき
露けさもしらてやほしの重ぬらむあさくす宵(よひ)の天の羽衣(はころも)
天の川かハらぬあきを思ふ世にかけしちきりやいまもくちせぬ
我よハひねかひの糸のかけてなほ君か八千代(やちよ)の秋につかへむ
ほし合ハはしめもはてぬ白露のふかきちきりを秋にかけつゝ
あくるよの空ハ瀬になるうらミにも袖にハほしのふちせやせくらん
たなはたのわかれよいかにいまこんといハんなかなるへきならひを
七夕のけふ乃わかれもあかつきはうき世やわたる天の川浪
ゆふ月のうすきひかりもこゝろあれやさすかしのはん星のあふよハ
星合のおもひはれたるそらよりや世にもすゝしき風や吹らん
たへせしのちきりハ秋のきりたちてわすれぬ中や星合の空
 
MM068『教えぐさ女用文章』七夕(たなばた)哥(うた)づくし
七夕の戀(こひ)やつもりて天(あま)の川(がハ)まれなる中(なか)のふととなるらん
天(あま)の河(がハ)まだ初秋(はつあき)のみじか夜をなど七夕のちぎりそめけん
幾(いく)とせを行(ゆき)めぐりても七夕の契(ちぎ)りハたえじ夜半(よハ)のしたらひ
こひしくてこよひばかりや棚(たな)バたのまくらにちりのつもらざらん
たなバたの心(こゝろ)乃うちやいかならむまちこしけふの夕(ふふ)ぐれの空(そら)
七夕のちぎりたがハずめぐりあふこよひの月(つき)のいくよミつらん
くれゆけバあふせにわたせ天の川水(ミづ)かけ草(ぐさ)の露(つゆ)の玉(たま)はし
万代(よろづよ)の君(きミ)が見るべきたなばたのゆきあひのそらハ雲(くも)のうへにも
七夕のちぎりまつまのなみだよりつゆ乃ゆふべのものとやハをし
艸(くさ)の葉()にけふとる露(つゆ)や七夕乃秋(あき)のたむけにむすびそめけん
年(とし)を経()て住(すむ)べきやどの池水(いけミづ)に星合(ほしあひ)のかげもおもなれやせん
天(あま)の河(がハ)ひと夜()ばかりのあふせこそつらき神代(かミよ)のうらみなるらん
七夕の露(つゆ)のちぎりの玉(たま)かつらいく秋(あき)かけてむすひおきけん
幾秋(いくあき)のたえぬちぎりや七夕のまつにかひあるひとよなるらん
天(あま)の川(がハ)秋をちぎりしことのはやわたるもミちのはしとなるらむ
七夕のわたる舩(ふね)のかぢの葉()にいく秋かきつ露(つゆ)乃玉づさ
たなバたのころものつまハ心(こゝろ)してふきなかへしそ秋のはつ風(かぜ)
あまの河(がハ)あふせほどなき七夕のかはらぬ色(いろ)の衣(ころも)かさばや
かさゝぎのわたりに舩(ふね)やたなハたのあふせうれしき天(あま)の川風(かハかぜ)
 
※『和漢朗詠集』『明題和歌全集』『新明題和歌全集』『夫木和歌集』などからの引用歌だが、この歌についてその典拠をそれぞれ調べてみてみましょう。