時事会計No.

減損会計2003年度にも導入

:土地投機および過剰設備投資のつけの会計問題

日経01年7月6、7日

〃 12月1日

Key words: 減損会計、資産の含み損、建設・不動産業への影響、構造改革(小泉改革)、国際会計基準、外国人投資家

 

 減損会計はもともと2003年3月期導入をめざしていたが、経済界や政界からの慎重論もあって先送りになっていた(7月6日および7日の記事)。7日の記事では「減損会計 根強い慎重論 2003年度以降に先送り 企業会計審経過報告」と題して、その背景などについて報じている。興味深いのは、業績への影響を懸念する産業界と会計の国際化を目指す学界との意見調整が難航したと報じていることである。さもありなんとは思うが、会計の国際化は社会経済の国際化に適合する会計(逆に言えば、世界に通用しない日本の会計)をめざすもので、もともと産業界の要請と矛盾するものではない。例えば、いわゆる「レジェンド問題」(日本の企業が海外で英文決算書を公表するさい「国際的に通用する規準とは異なる」旨の警告文を記載することを求められる)などに典型的にみられるように、国際的に通用する会計基準でないと、国際的な資金調達にも影響するのである。「欧米の先進国にあって日本にはない最大の違いが減損会計」といわれるだけに、その早期導入はけっして産業界と対立する性格のものではないはずである。

企業会計審議会の「固定資産の会計処理に関する審議の経過報告」(7月6日)で注目されるのは、時価の算定を売却価値かキャッシュフローの現在価値(資産の利用価値)のいずれか高い方、すなわち国際会計基準案を採用している点である。なお、先送りになったとはいえ、ゼネコンなどの企業の対応は、前倒し処理する体力のある企業と、抜本処理に踏み切れない企業との2極化を呈しており、マーケットがそのシグナル(株価)を出している。こうなると、新しい会計基準が成立するかどうかよりも、それ以前に実質的には会計基準が作用しているといえる。

ところが、一転して、12月1日の記事では金融庁は早ければ20003年度にも導入する方針であることが報じられている。この背景には自民党の金融調査会企業会計小委員会での早期実現の意向が作用しているようである。今後の工程表は、20002年6月に公開草案「減損会計基準」を公表し年内に確定、その後に実務指針(実質的にはこれが実務担当者の指針となる)を作成し、遅くとも2004年度には実施するとのことである。

 減損会計の導入は、バブル期の取得した土地の含み損や収益回収が見込めなくなった製造設備の損失が明るみに出る。上場企業が保有する土地の簿価は50兆ほどで、減損会計が導入されると5兆から10兆円の損失が見込まれている。業界への影響はきわめて大きく、特にゼネコン・不動産では「退場勧告」になりかねない企業が多いと報じている。

 

〈関連記事〉これに関連して、「減損会計の対応 企業の1/4検討」という8月9日の記事では(この段階ではまだ導入時期は決まっていない)、保有不動産の売却(賃借に切り替え)、不採算店舗の閉鎖、不動産の流動化、などがあげられている。保有不動産の売却→不動産の供給増加→不動産価格のさらなる低下、ということにもつながり、ますます早期の対応が迫られるわけだ。ちなみに、土地の価格は、こうした供給サイドの状況をふまえると、まだまだ下落することが予想される。なお、同じ8月9日の日経に「早期導入に前向き 自民・経産省が姿勢転換」としているが、これが12月1日の記事につながるわけである。そこでは、特に小泉改革を推進する→減損会計の早期導入という、自民党の変化も垣間見られる。

〈さらなる学習〉経済界へのインパクトがいかに大きいかは、例えば「時価・減損会計の衝撃」(『週間 東洋経済』2001年4月21日号)、および「時価会計ショック!」(『週間 ダイヤモンド』2000年3月25日号)が特集を組んでいるので、そこでの事例を学習されると会計がぐっと身近で生きたものとして見えてくる。会計の経済(したがって政治的にも)に与える影響が、かつてないほど大きくなっているのが今日の会計の特徴であり、会計=過去の活動の記録計算報告、というものではないのである。

 さらに理論的課題の橋渡しとして、「株主不在の減損会計論議」と題した日経7月21日の記事もあげておこう。そこでは、実体から乖離したB/S→株主軽視→時価ベースの資本効率を明らかにすべき、といった論調での議論がなされている。実体を開示すれば株主を重視することになるのか、会計は実体を開示すればいいのか、P/Lの方とはどうかかわり利益計算の方はどうなのか。要するに、実体開示(ストック)と利益計算(フロー)の双方の繋がりにおいて、株主サイドからの会計というものが議論されねばならない。その視点からすれば、今日の時価会計論議はストックよりの議論が非常に多いといえる。

〈理論的課題〉7日の記事での「バランスシートに関連した会計基準変更」という図は、今日の時価測定がいかにB/S全体に浸透しているかを浮き彫りにしているという点で、今日的会計問題をB/S上で眺望できる格好の図となっている。その意味で、直接参照されたい。今日の会計問題は、実体・リスクの開示とか財務透明性の向上といった観点からB/Sを中心にみることが理解しやすいのであるが、もう一方のP/L(利益計算)とのかかわりで今日の会計問題をみることも重要な理論的課題である。この点については拙稿「減損会計と利益計算の構造」(『企業会計』200111月号)およびそこでの参考文献(特に、米山『減損会計−配分と評価−』森山書店、2001年)を参照されたい。

200112月)