時事会計No.10

損益計算書の全面見直し、新たな業績報告書

:IASB案の意義と問題点

 02年9月24日 日経新聞

 

Key words: 財務業績報告、損益計算書、包括利益、全面時価、現実損益、評価損益

 

 財務業績報告の将来のあり方を巡る国際的議論が急速に、しかもこれまでとは異なった形で新たな展開をみせている。まさにめまぐるしいばかりの展開である。9月24日の日経の一面トップに「業績報告、全面時価に」と損益計算書の全面見直し案(IASB案、2005年にも導入予定)が報じられている。一面トップとなっていることが、その見直し案の影響の大きさを物語っている。

 これまで財務業績報告のあり方に関しては@G4+1のレポート(1998年、1999年)がでているが、その後、A英国では2000年の基準草案第22号「財務業績の報告」、さらにBIASBは財務業績(=包括利益)報告の新たな提案(2001年の「原則書案」、2002年の「概念書」)を提示している。また、米国(FASB)では収益の認識に関するプロジェクト(2002年5月)も開始されており、IASB、英国ASB、米国FASBの共同作業をふくめた国際動向が急速に展開してきている。

注目したいのは、@とAでは業績報告の様式がいずれも3区分方式(3行1列:3×1区分方式)であったのが、BのIASB案では2行2列の様式(2×2区分方式)になっていることである。問題は、この3×1アプローチから2×2アプローチへの変化の理論的基礎がどこにあるかである。前者の3×1アプローチでもその理論的基礎に関しては議論がつくされているわけではないが(拙著『時価会計の基本問題』第9章補論9.2を参照されたい)、さらに後者の2×2アプローチになると、よりいっそう議論の余地がありそうである。

特に、ヨコ(行)の2区分軸(経済活動の基本的相違)は明確だが、タテ(列)の2区分の基準が何であるか、これが問題となる(タテの2区分軸に関する理論的基礎づけの問題)。そのことは、その名称が「評価調整」から「将来利益の期待の改訂」そして単に「コラム2」と次々に変更されていることにもあらわれているが(日経によれば、コラム1=「現実損益」、コラム2=「評価損益」)、そもそも「評価調整」とか「期待の改訂」といったものが、「包括利益」の名の下でいかなる「利益」なのか、利益概念にてらしてきわめて重要な問題をはらんでいる。米国流の「その他の包括利益」についても、それがいかなる意味内容で「利益」なのかが、リサイクルする/しないの問題をふくめて依然として決着していないなか(前掲拙著の第3章および第4章を参照)、この2×2アプローチになると理論的にいっそうの検討が必要に思える。

 

〈さらなる学習〉

業績報告書(Performance Statement)のあり方は、単に報告様式の問題にとどまらず、これまでの損益計算書(Income Statement)の基本に係わる内容をもった問題であるから、いっそう理論的基礎づけの議論が必要になる。とりわけ会計の記録計算構造との係わり、そして会計利益概念との係わりで議論すべきである。

英米を中心にした業績報告のあり方をみていると、(投資家に対する)業績予測の有用性の観点(情報の役立ち論、機能論)が全面に強く出ていて、この計算構造(情報を生み出す仕組み論、構造論)の議論との係わりが欠落しているように思える。業績としての会計利益を導出する計算課程の議論が十分に論じられていないのである。会計情報の外的有用性のもとで、それを生み出す内的論理性が後方におしやられているともいえる。

計算構造を度外視した「報告」に議論が終始すると、あとで「計算」に係わる問題が出てくるように思える。そこに、理論研究の意義、とりわけこの財務業績報告にも現れている今日の英米理論を相対化しうる理論研究の重要性が密接に係わるように筆者には思える。以下、いくつかの学習のためのポイントをあげておきたい。

 

(1)3×1アプローチから2×2アプローチへの変化について区分カテゴリーの数でいえば、Bでは区分カテゴリーが形式的には1つ増えるわけであるが、それは3区分アプローチでの「その他の利得・損失」のうち固定資産再評価損益に該当する項目が営業区分のコラム2にでてきているように(再評価差額)、米国と英国との1つの違いである事業用固定資産の時価評価が2×2アプローチのもとでは1つの独立したカテゴリー区分のなかで報告されることになる。

(2)Reporting Performance のProject Summaryの注目点について:IASBのホームページにProject Summary(2002年8月)が掲載されている。筆者の問題関心から特に重要と思われる以下の4点を指摘しておこう。

第1は、2つの列の区分が資産・負債の再測定からでてくる損益を別表示するという原則(set of working principlesのprinciple 3)に基づいている点、第2は2つの行の区分基準が総資本利益率と株主資本利益率との区分(同じくprinciple 1)に基づいている点(以上はパラグラフ11および10)、第3はそれらの諸原則の基礎にある基本原則(primary principle)が投資家にとって財務諸表項目の変化率を予測できることにあるとしている点(パラフラフ9)、そして第4は個別項目に関することであるがトレーディング目的保有の金融資産・負債に関する評価損益がコラム2で報告されるとしている点(パラグラフ13の(f))である。

G4+1や英国案での3区分からすれば、経済活動の本来的相違に基づく2区分(「営業」と「財務」)に限定されたのは筆者の観点から理解できるにしても、そのことでタテの2区分様式をとることになり、そのタテの区分基準の理論的基礎が問題となる。そのさい、3区分アプローチでの「その他の利得・損失」がコラム2にくるようにも思えるが、第4の論点でもみたように、必ずしもそうはなっていない。筆者はトレーディング目的保有であっても、その評価損益が直接的再測定に基づくかぎり、(原則3より)財務区分のコラム1ではなくコラム2で報告されることには同意できないわけではない。

ただ、そうなるとコラム1のタテ合計金額は、リサイクル禁止の原則を持ち出さなくても、明らかに純利益とはならない。すなわち、コラム1の合計=純利益、コラム2の合計=その他の包括利益とはならない。いずれにせよ、以上の論点につきよりいっそうの議論が必要に思える。

(3)コラム2の「利益」について:第2列の個々の具体項目、例えば営業区分(第1行)では「公正価値の期待外の変更」、財務区分(第2行)では「財務評価調整」といった項目(Concept Paperでの項目例)での意味するものが何であるか、とりわけ利益概念の観点からそれぞれ具体的に検討する必要があるだろう。

(4)タテの2区分規準の理論的基礎について:以下、6点(イからホ)ほどについて述べておきたい。まず、(イ)コラム1=会計配分を基軸にした発生主義会計の枠組みに基づく損益−本来的に資本・利益計算志向、フロー志向−、コラム2=ストック価値の(直接的)再測定に基づく損益−本来的に実体・リスク開示志向、ストック志向−、もう少し言えば、コラム2の損益が今日のストック評価型の時価会計に起因しているのに対し、コラム1はこれまでの原価主義会計(原価・配分・実現など)を基礎にした損益ともいえる。その意味で、IASB案はこの異なる利益計算の異種併存(ハイブリッド)した形を2列形式で報告しようとしているとみることもできる。

また、(ロ)キャッシュフローへの実質的影響がある取引かどうかという観点からすれば、コラム2の「取引」およびそこから生じる「損益」は(資産・負債を売却ないし処分しないかぎり)キャッシュフローに本来的・実質的に影響を与えない取引および損益ともいえる。損益計算書とキャッシュフロー計算書との関連でいえば、コラム2の項目は間接法での当期純利益に加算減産される項目として現れる(しかもその数が増大)ということである。  

あるいは(ハ)コラム1の利益=収益・費用アプローチと資産・負債アプローチとのギャップが基本的に出てこない性格をもつ損益、コラム2の利益=両者のギャップが出てくる、あるいは資産・負債アプローチからしか出てこない性格をもつ損益、(ニ)コラム1の損益の基礎に依然として動態論的思考があるといえば、コラム2にあってはそうした会計思考とは異なる企業価値(株主価値)思考が横たわっており、その意味で今日の業績報告のハイブリッドのあり方は、実はこうした“会計思考のハイブリッド”に根ざしているともいえる。

さらには、(ホ)(わが国流の)分配可能利益という軸をおけば、IASB案にとらわれずに、コラム1=投下資本回収剰余利益(分配可能利益)、コラム2=それ以外の利益(実体開示・リスク管理といった別の異なる目的から結果的・付随的に出てくる利益)、といった区分軸も考えられよう。最後に、ヘ)包括利益と剰余金概念の今日的混乱ともかかわって剰余金概念とのリンク関係、あるいは株主持分変動計算書とのリンク関係も議論する必要がありそうである。いずれにしても、区分基準がなんらかの意味内容をもつ概念的な基礎に裏付けられる必要があるといえる。

(以上、2002年9月)