減損会計と利益計算の構造

 

石川純治 Junji Ishikawa

 

1 時価会計の系譜

世に「時価会計」といわれるものを時代的に振り返ってみると、およそ3つの系譜があるように思える。第1は、1970年代に資本維持概念を基軸に活発な論争が展開された時価会計、すなわち「個別価格変動会計」である。そこでは実物の費用性資産がその対象であり、その時価変動の特徴は個々の資産価格の持続的騰貴(一方的上昇)であった。第2は、1980年代中頃から1990年代をへて今日の最終段階にいたっている金融商品を中心にした時価会計、すなわち「公正価値会計」である。そこでは費用性資産ではなく金融資産・負債がその対象となり、その時価も文字通り価格の変動(上下変動)であった。第3は、今日わが国で議論され始めるようになった「減損会計」であるが、そこでの時価変動は収益性の低下にともなう個別資産価格の著しい下落(一方的下降)であることがその特徴である。

かつての個別価格変動会計を実物資産に係わるインフレ経済下の会計問題、今日の金融商品を中心にした公正価値会計を証券価格、金利などの相場変動リスクにさらされた金融・証券経済下の会計問題といえば、わが国での減損会計は同じく実物資産でもデフレ経済下の会計問題ということができる。そして、いずれの会計問題もたんに財務透明性の問題としてではなく、利益計算としての会計問題が問われるのである。こうして同じく時価変動の会計問題といっても、その変動の態様もその経済的基礎もそれぞれ異なるのである。

重要なことは、それぞれの時代的背景(経済的・社会的条件)のもとで、それぞれ性質の異なった「時価会計」が登場してきたということである。「時価会計」とよばれる会計を理解するには会計的認識・測定および表示の議論にとどまらず、その基礎にある経済をみなくてはならないわけである[1]。今日、「時価会計」は金融商品からさらに固定資産のそれに移っている観があるが、そこでは資産価値の著しい下落にともなう固定資産の簿価(未償却原価)の切り下げというストック評価の問題としてのみならず、その基礎にある事業投資の収益性の低下を期間損益計算にどのように取り込むかという問題でもある。

本稿の目的は、固定資産(事業用償却資産)の減損に係わる3つの方式、すなわち@FASB方式、AIASC方式、B斎藤・辻山・米山方式[2](以下ではたんに斎藤方式)における利益計算の構造を比較することによって減損の考え方の大枠比較を示し(より細かな点は注で補う)、もってどのような問題点があるかその一端を明らかにすることである。それは、減損会計の利益計算の観点からみた基本問題といえる[3]

 

2 FASB方式とIASC方式の利益計算の構造

以下の説明においては単純化して、購入原価1,000(単位:万円)の個別固定資産(耐用年数10年、残存価格はゼロとする)から毎年収益(キャッシュフロー)をあげる事業投資を仮定する[4]

 

図1 FASB方式の利益計算

 

 
 

 

 

 

 

 


図1はFASB方式の10年間の利益計算を示したものである。第3期末に減損が認識され測定されている[5]。当該固定資産の公正価値(時価)まで切り下げられた新たな簿価は490である。したがって、減損損失は700(旧簿価)−490(新簿価)=210となる(ストックからみた減損)。その時価490はその時点で再投資が行われたものと解釈すれば、新簿価=新取得原価=その時点の公正価値=490となる。いわば、そこから新たな投資額(490)の維持回収計算が行われるわけで、その意味で、再投資後も後述するIASC方式と比較して(非連続ではあるが)“同質”の利益計算がなされているといえる。

ここで、旧投資額での減価償却と新投資額(新簿価)でのそれとの差額は(10070)×7期=210であり、それはほかならぬ先の減損損失額である(フローからみた減損)。つまり、減損認識以降の7期に係わる減価償却修正額、すなわち当初の償却計画からすればそのカット分210が第3期にいわば費用の“先取り”として計上されているともいえるわけで、そのことによって7期間のあらたな利益計算(図1の)においては、一定の利益が計上されることになるわけである。つまり、そうしたの利益計算の観点からみれば、収益性の低下が減損処理を起点に収益性の“回復”に反転・転化されているわけである。

 

図2 IASC方式の利益計算

 

 
 

 

 

 

 

 


図2はIASC方式の10年間の利益計算を示したものである。第3期末に減損が認識・測定されているが、先のFASB方式とちがって、その時点での「使用価値」まで切り下げられた新たな簿価は560である[6]。使用価値560>時価490であるから(大小関係が逆なら、投資の継続よりも資産の売却が合理的となる)、その新簿価にはその差額70(「のれん」相当額)が含まれ、それがそれ以降の減価償却費に含まれることになる。このことがあとで議論になる。そして、減損損失は700(旧簿価)−560(新簿価)=140となる。

先のFASB方式と比較すれば、(収益はむろん同じであるから)の利益計算において70だけ利益が少なくなる。それはのれん相当額70が維持すべき「資本」に含まれ、それが費用計上されるからである。端的にいえば、この70を維持すべき「資本」とするか、それとも維持した余りの「利益」とするかの相違である。FASB方式では、先に述べたように、の利益計算は同じく投資額(取得原価)の維持回収計算を行っているという意味で、全体をとおして“等質”の利益計算方式となっている。これに対し、IASC方式においては、減損認識以降のでは使用価値が償却ベースとなり維持資本のなかにのれん価値70が含まれるので、からへ利益計算はその意味で“変質”しているといえる[7]

 両者のの利益合計の差額、すなわちのれん価値70は、また両者の減損損失の相違額でもある。つまり、FASB方式ではそれが減損認識以降の利益計算においては利益となるが、それと同時に減損認識時の減損額に含まれる。これに対し、IASC方式では減損認識以降の利益計算において維持資本となるかわりに、減損認識時の減損額には含まれないのである。こうして、の全体をとおしてみれば全体利益は変わらず、それは全体収支の差額でもある(後の表1参照)。であるから、両者は単にその期間配分の違いにすぎないともいえるが[8]、しかし、そういったレベル以上の問題がある。このことはもう1つの方式をみたあとで議論する。

 

3 斎藤方式の利益計算の構造

図3 斎藤方式の利益計算

 

 
 

 

 

 

 

 


図3は斎藤方式の10年間の利益計算を示したものである。この方式は先の2つの方式と異なり、減損認識の要件としての収益性の低下を最初の投資時点に遡って判断する。すなわち、第3期において、新たな見積もりに基づく使用価値を投資時点に遡って計算する。数値例では900である。投資支出額は1,000であるからそれを100(「負ののれん」)だけ下回っているわけで、投資時点に遡って“投資の失敗”が判明したわけである。ここで、取得原価1,000を投資時点まで遡って900に減額し、この負ののれん100を取り除いた900を算定基礎(償却ベース)にすれば、その未償却残高900×0.7630(1)式が新しい簿価となる。したがって、旧簿価700から新簿価630への切り下げ額70が減損損失となる。先の2つの方式での新簿価が特定の測定属性値(時価あるいは使用価値)であったのに対し、ここでの630の数値それ自体は(900から導かれるので)そうした特定の属性値を意味するものでない。先の2つの方式においてはストックの価値「評価」の観点から特定の測定属性が選択されていたのに対し、ここでは「配分」(フロー)の観点から導かれているといえる。この両者の観点の相違は、そもそも減損会計とは何であるかに係わる基本問題といえる。また、減損を判断するさい(認識規準)の属性と減損の大きさを算定するさい(測定規準)の属性とは必ずしも直結させる必然性はないとの考えも可能であり、その場合は630である必然性はないことになる[9]。いずれにせよ、この投資時点に遡るというのが、他の2つの方式と基本的に異なる点である。減損認識時以降の収益性の低下を考えるか(先の2つの方式)、それとも投資全体の収益性の低下を考えるか、この相違といえる。

こうした投資全体の回収可能性をみるのは、「資産の価値を評価替えして簿価と比較するだけでは、減損部分を分離して測定できないのである」(斎藤[2001]17頁、傍点は引用者)との説明にもあるように、仮に収益性の低下がなくても(依然として正ののれんがあっても)減価償却いかんによっていつでも簿価(未償却残高)が使用価値あるいは公正価値(時価)を超過することがありうるからである[10]。要するに、収益性の低下に起因する損失(本来の減損)と、減価償却の方法に起因する(価値との比較によらない)計算上の過大簿価との混在可能性からの分離ということである[11]。減損損失の測定問題は、単なる測定レベルの問題ではなく、減損をどう捉えるかという、より基本的な問題に係わっているのである。

ところで、先の900×0.7630(1)式は、(1,000100)×(1−0.3)(1,000300)(10030)700−(10030)=630(2)式と書き換えられる。問題は、700から差し引かれる(10030)の解釈、とりわけ30の解釈である。「投資期間を通じて回収できない額(数値例では100−引用者)を取得時点に遡って原価から取り除けば、それに応じて減価償却の累計額も減るはずだが(数値例では30−引用者)、減損時には両者を相殺した正味の額だけ簿価を切り下げればよい」(斎藤[2001]20頁、傍点は引用者)との説明からすれば、30は(事後的・結果的にみて過大であった)過年度減価償却累計額の減少額となり、取得原価の切り下げ額100との相殺差額が減損額70ということになる。仮に、この30を過年度利益の遡及修正と解するならば、それと減損70の合計100が減価償却の計画外の性質をもつものとなる。そうした観点からすれば、投資時点の取得原価1,000から100だけ取り除かれた900(使用価値)をベースにした維持回収計算のやり直しが行われていると解釈できる[12]。その意味で、当初の利益計算からすれば変質しているが、見直し後の全体の利益計算は“等質”であるといえる。そして、留意すべきはその算定基礎が当初「支出額」1,000ではなく、投資主体が新たな予想に基づいて算定した「使用価値」900であるという点である。

 

4 要約といくつかの論点

以上を要約すれば表1のように示される。事業投資であるので、減損損失(原価性はない)を除く減価償却費が製品原価をとおして売上原価を構成するという点に留意されたい。また、収益は実際現金収入で、費用については減価償却および減損以外を省略する。

 

表1 3つの方式の要約表

 
 

 


 

 

 

表1において、Tの@売上原価の490は再投資を擬制しているとはいえ投資額(その時点の時価=再購入原価)の維持回収計算がなされており、その意味では等質の利益計算がなされているといえる[13]。これに対しUの560は使用価値の維持回収計算となっており、その意味でからへ利益計算は変質しているといえる。Vでは、先の解釈にたてば投資時点に遡って(少なくともでは)使用価値の維持回収のやり直し計算がなされているといえる。また、TとUのの差額56049070はのれん価値(使用価値マイナス時価)であり、それは減損損失の差額210140=70に等しい。以上を要約しておき、以下、いくつかの論点を指摘したい。

第1に、減損損失は原価性をもたないので、売上原価たる費用計上をとおして維持回収される金額(資本)は3つの方式すべて異なり、それぞれFASB方式=790、IASC方式=860、斎藤方式=930 となる[14]。仮に、利益概念として当期業績主義利益をとると(減損損失を特別損失として)、10期全体をとおした全体利益はすべて異なり(FASB方式=310、IASC方式=240、斎藤方式=170)、またそれは全体収支差額とはならない。むろん、今日では包括主義利益をとっているので、表1に示されているように全体利益=全体収支=100となることはいうまでもない。そこでは、特別損失としての減損損失額がいわば調整役となって3つの方式の全体利益が等しくなっているわけである。

第2に、すでに指摘したように、FASB方式とIASC方式の減損認識時以降の利益計算において、前者は超過利益が計上されるのに対し、後者では(のれん相当額が計上されないので)正常利益のみが計上される。斎藤方式では、投資時点に遡って使用価値に基づく維持回収計算のやり直しがなされていると理解すれば、そこでも超過利益は計上されない[15]。会計上の利益計算は、むろんのれん価値を維持資本に入れないので、そののれん価値が年度毎に実現配分されるかたちで期間利益計算に計上される。その点では、FASB方式が、減損認識時以降も(ともに)それと同じ利益計算を行っているので、その意味において現行の利益計算と整合的であるといえる。ただ、減損処理を行ったあとも超過利益が計上されるのは、そもそもなぜ減損を行うのかという減損の目的にてらして妥当でないとの考えもある[16]。減損認識後はせいぜい正常利益のみが計上されるという観点からは、IASC方式と斎藤方式がむしろ整合的ということにもなる。何をもって整合性の判断基準とするかで答えは異なってくるわけで、ここにも減損そのものをどう捉えるか、そしてそれをどう利益計算に取り込むかという基本問題がある。

以上が利益計算のあり方に係わる論点であったのに対し、第3はストック評価の経験的ないし実体的意味づけに係わる問題である[17]。すなわち、IASC方式と斎藤方式におけるのれん価値を含んだ使用価値に基づく簿価決定の問題を指摘しなければならない。なぜなら、金融投資と異なり、事業投資では製品原価の計算に係わるからである。端的にいって、この問題に関する両方式とFASB方式の相違点は、FASB方式では再投資を擬制しているとはいえ新たな“支出”原価(その時点の公正価値)を想定しうるが、IASC方式と斎藤方式では支出に基づかない使用価値で評価されているという点である。その主観的な予想に基づく使用価値が減価償却をとおして製品原価となるわけであるから、ここに原価計算をとおした資産評価の経験的・実体的意味が問われる[18]。減価償却の方法それ自体は支出原価の人為的・規約的配分操作にすぎないが、ここではその償却の対象そのものの実体的意味、すなわち支出原価の配分になっていない(使用価値の配分)という点が問われるのである。それは、原価計算を行っているがゆえに、先の利益計算の経験的意味づけの問題とはまた異なって、より直接的な意味づけが問われるともいえよう。そして、実際の支出額との相違はどこに行っているかといえば、それは製品原価とは係わりのない減損損失額のなかに落とされているのである。原価の計算が利益の計算によって規定されているともいえる。こうして、のれん価値を含んだ使用価値を用いることの、ストック評価(製品原価)としての経験的・実体的意味が問われるのである。

 第4は、斎藤方式での使用価値の計算において、減損認識時に将来キャッシュフローの見積もり修正(分子側)のみならず、割引率(分母側)もその時点での情報に基づいて修正されるかどうかという点である。それも修正されるとすると、減損認識時点のすべての(分子側も分母側も)新しい情報に基づいて修正されることになるので、こうした修正計算による減損認識・測定が仮に一回限りのものでないとすると、それは当初のいかなる情報からも分離切断されているという点で、原価主義会計での配分思考から離れて再測定(フレッシュ・スタート測定)に基づく時価会計の思考に近づくようにも思われる。減損認識時点でのすべての新情報に基づく計算のやり直しが原価主義会計での配分のロジックとどこまで一貫しているか、という問題である[19]

 最後に、次のことを指摘しておきたい。すなわち、3つの方式のいずれにも共通するのは減損認識以降の利益計算において(当初の償却計画からすれば)簿価の切り下げに伴う減価償却のカット分が、いわば“先取り”されて減損認識時の損失となっている。それが先取りではなく当期の損失であることの論拠をどこに求めるか、これが問題となる。それは期間利益計算のあり方に係わる基本的な論点であり、減損会計をとおして「適正な期間損益計算とは何であるか」をあらためて考える必要があるといえる[20]。ただ事実上の効果という点からすれば、減損認識時に損失計上することで、それ以降の利益計算が減損を認識しなかったそれと比較して簿価の切り下げにともなう減価償却のカット分だけ利益が大きく計上されることは事実である[21]。このことは、言ってみれば利益計算において“投資の失敗”を減損認識時点を起点に“投資の成功”に反転・転化(非連続的V字回復)させているともいえる。したがって、その使い方によっては、いわゆる「ビッグバス会計」につながる可能性も否定できない[22]。減損認識の厳格なルールが要求されるゆえんである。

 

5 むすびにかえて

冒頭で述べたように、1970年代には個別資産価格の持続的騰貴に対する会計問題として「個別価格変動会計」が登場し、資本維持概念を基軸にした「原価主義会計」対「時価主義会計」の対立構図で論争が展開された。しかし、今日のわが国における固定資産の減損会計は同じく事業用資産が対象になっているが、それとは対照的に収益性の低下にともなう資産価値の下落に対する会計問題として登場しており、そこでは先の対立構図ではなく、むしろその大枠は原価主義会計の枠内での議論となっている。ただ、すでに指摘したように、枠内とはいえIASC方式や斎藤方式での使用価値を算定基礎にした「配分」(減価償却)と「評価」(ストック評価)の方法が伝統的な原価主義会計とどこまで整合的か、なお議論の余地があるようにも思える[23]

いずれにせよ、3つの方式の特徴を今後の制度化においてどのように取り込むかが1つの課題となろう。その意味でも、3方式の枠組み、とりわけ利益計算の構造を理解することは意義があるように思われる。すでにみてきたように、その基本的な相違点は、FASB方式やIASC方式が簿価切り下げ後の回収可能性をみるのに対し、斎藤方式は投資時点に遡ってその完了までの投資全体の回収可能性をみるという点にある。確かに、簿価(未償却残高)は規約的操作にすぎない減価償却の方法によっていくらでもなりうるので、その簿価が将来の収益性を見直した評価額より大きくなることはいつでもありうることである[24]。未償却残高としての簿価は“事実”に裏付けられたものではなく、そこでの唯一の事実は当初の支出額だけである。その規約上の簿価と将来キャッシュフローに基づく価値の評価額と比較すること自体にどれだけ理論的意味があるか、経験的意味合いの異なるものどうおしを比較してどれだけの意味があるか、ということでもある。その観点からすれば、斎藤方式がより合理性をもちうるともいえる。

しかし、他方で、製品原価の事実的意味づけが当初の支出額にあるとすれば、支出に基づかない(主観的な)使用価値の費用化による製品原価の計算にどのような経験的・実体的意味があるのかが問われよう。その点では、むしろ再投資が擬制されている(擬制的支出)という問題点はあるものの、FASB方式に合理性があるともいえる。となると、両者を織り込んだまた別の方式の検討も可能性としてはあるかもしれない(表2参照)[25]。いずれにせよ、これらの理論的な比較検討が課題となるであろう。

 

            表2 別方式の可能性

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 


これまでわが国は会計基準の国際的動向に調和すべく、FASB基準やIASC基準などを吟味しながら多くの会計基準を“輸入”してきたといえる。その点で、斎藤・辻山・米山方式はいわば“わが国発”の考え方を示したもので(しかもアカデミズムからの発信)、珍しいケースともいえる。それだけに、3つの方式の相違、とりわけFASB方式とIASC方式に対して“第3の方式”ともいえるこの方式を含めてそれらの比較検討が重要になるといえる。本稿は、そのための1つの視軸として、主として利益計算の観点からその構造比較を提供し、いくつかの論点を明らかにしたわけである。

 



[1] さらに、これから新たな時価会計として登場してくるのが無形資産の時価会計である(第4の系譜)。金融資産も固定資産も有形資産であるが、ノウハウやブランド、特許などの無形資産を決算期末ごとに時価(現在価値)評価する方向である。将来キャッシュフローの生成能力としての資産がその現在価値で評価されるわけである。そこでのキーワードはのれん(それも自己創設のれん)の時価評価と企業価値であり、その基礎にいわゆる知識産業への産業構造の変化をみることができる。

[2] 斎藤[2001]・辻山[2001]・米山[2000]では、後述するように、他の2つの方式と異なり減損認識以降の回収可能性ではなく、投資時点に遡って投資全体の回収可能性を「減損会計の原点」と捉えていることで共通する。その点で、具体的に減損の測定などその他の点では異なる考えがあっても、本稿では「斎藤・辻山・米山方式」と一括してよぶことにする。なお、斎藤[2001]では「本稿の目的は、新たな減損会計のルールを考案することではない」(23)と述べられているが、ここでは他の方式と比較するうえで上記のように「方式」とよんでいる。また、各方式それ自体については、後掲の参考文献を参照されたい。

[3] @資産のグルーピングにともなう問題、A償却されない土地の問題、あるいはB北米企業の巨額(5兆5千億円)の「のれん代」の評価損(減損)の計上が報じられた(日本経済新聞2001年7月27日)無形資産にまつわる問題など議論すべき論点があるが、本稿ではその大所高所からという性格上、議論の対象にしていない。特にAとBにつきそれらが配分思考から説明できるかどうかが1つの論点となる。なお、FASB[2001]では買い入れのれんの償却は廃止され、必要な場合は評価損(減損)を計上する方式(an impairment-only approach)に変更されている。

[4] 以下ではあくまで利益計算の構造を比較することが目的であるので、数値例は厳密なものに基づいているわけではない。厳密には3つの方式につき、予想キャッシュフロー、割引率などすべて同じ条件で作ることができる(演習問題として試みられよ)。

[5] 周知のとおり、FASB方式では減損の認識において簿価と比較されるのは将来割引前キャッシュフローの合計額であり、減損の認識規準と測定規準とは異なっている。そして、測定規準として公正価値を用いる理由が、新たな投資決定を想定して次のように説明されている(傍点はいずれも引用者)。「減損した資産を売却せずに使用し続けるという意思決定は、経済的に当該資産に投資する意思決定に類似し、したがって、減損した資産は、公正価値により測定すべきだと結論した。…当該公正価値が当該資産の新しい原価の基礎になる」(FASB[1995] para.69)、「減損した資産の使用を継続する意思決定は新しい資産取得の意思決定に相当するので、公正価値の新しい基礎が適切である」(para.70)。

[6] ここで「使用価値」(value in use)とは「資産の継続的使用とその耐用年数の終了時における処分によって生じると予想される見積将来キャッシュフローの現在価値」(IASC[1998]  para.5)であり、「利用価値」ともいう。

[7]IASC方式の新簿価はその時点での公正価値ではなく使用価値ないしは資本価値(割引率が資本コスト)であるので、それを費用化する利益計算は金額的には経済的減価償却(各期の資本価値の減少額としての資本減耗の合計)を行っているに等しいという点で、は経済的資本利益計算を行っているともいえる。経済的資本利益計算と会計的資本利益計算については石川[2000]160-63頁参照。

[8] それは名目資本(投資支出額)を維持したあとの全体利益の期間配分の違いにすぎないという見方にほかならない。

[9] この点については米山教授との幾度かの議論が有益であった。米山[2001](第4章第2節)では減損の認識要件(投資の正否の判断要件:切り下げのタイミング)として3つの想定可能な選択肢をあげ、実際の測定(切り下げの大きさ)では使用価値ではなく投資時点に遡って見積もり直した時価(再調達原価)をあげている(使用価値はその「最適なサロゲート」という位置づけ)。その観点からすれば、ここでの減損70は認識規準と測定規準とがいずれも使用価値として一貫して適用されているわけである。後述するように、一般的には認識規準と測定規準での属性選択にはいくつかの組み合わせが考えられる(後の表2参照)。また、企業会計審議会[2001]では、認識では将来キャッシュフローの割引前総額、測定は回収可能額としている。前者はFASB方式、後者はIASC方式ということができ、その意味で両者の折衷方式となっている。

[10] これに対し棚卸資産では、とりわけ個別法によるそれは購入原価そのものである。FIFO、LIFOなどの規約的な配分方法も、固定資産の未償却残高と比較して短期の販売資産であるがゆえにその規約性のレベルもおのずと異なるといえる。

[11] 企業会計審議会[2000]でも、こうした観点から投資期間全体を通した収益性の低下を本来の減損として捉える見解を1つの意見として取り上げている。そして、そこでの新しい簿価は「このとき見積もった回収額を基に算出される未償却額が、理念的には、減損後の帳簿価額となる」(傍点は引用者)としている。

[12] これはあくまで筆者の解釈であることをお断りしておく。取得原価の切り下げ額100のうち30はすでに過去の減価償却のなかで切り捨て済みとの解釈もある(米山[2000]87頁)。いずれにしても、仕訳の形で示されればより明らかになるだろう。

 ここでは考えられる仕訳を3つ示しておこう。すなわち、@減損損失70/固定資産70、A減損損失70および減価償却累計額30 /固定資産100、B減損損失100/固定資産100および減価償却累計額30/過年度損益修正30、である。(1)式による理解からすれば直接的には@ないしAが考えられる仕訳であろう。ただ、ここでの解釈に立てばBの仕訳も考えられ、そこでの2つの仕訳あわせて減損損失は100−30=70(30の相殺の解釈は難しいが)、新簿価は(1,000−100)−(300−30)=630となる。ちなみに、FASB方式及びIASC方式では、それぞれ減損損失210/固定資産 210、減損損失140/固定資産 140となろう。

[13] これに関連していえば、FASB[1995]では注(5)での公正価値が「新しい原価の基礎になる」(para.69)ということに加え、「…公正価値を使用することは、歴史的原価の原則からの離脱とはならないと考える」(para.71、傍点は引用者)と説明している。

[14] 但し、斎藤方式において30を過年度損益修正と解すれば、全体をとおして(特別損益を除いて)回収される金額は900(取得原価の切り下げ額)となる。

[15] 減損認識以降の7期はそれが費用の“先取り”というかたちでなされているが、それ以前の3期についても、先の解釈からすれば、過年度の過剰償却に伴う過小利益の“戻し”というかたちでなされていると解することができる。

[16] 例えば、「減損資産から超過リターンが期待されるような公正価値評価は、投資家からみても意味はないということになる」(斎藤[2001]24頁)。

[17] 米山[2000]では減損による簿価の切り下げを、簿価それ自体の経験的な意味を問う(ストック志向の手続きとみる)立場と、期間損益計算の経験的な意味を重視する(フロー志向の手続きとみる)立場とを対比して論じているが、その観点からすればそれは前者に関するまた別の視点からの問題点といえる。

[18] この点については、笠井昭次教授との幾度かの議論から有益な示唆を受けた。ちなみに、標準原価計算での実際原価との相違は、ここでの使用価値に基づく原価計算とは明らかに異なるレベルの相違といえる。

[19] ここで再測定に関連して直接的測定についてふれておくと、たとえばFASB[1990]では「直接的測定は、過去の情報を基礎とする毎期の配分および調整の手続とは対照的なものである。…重点は常に現在の測定額にあるのであって、歴史的簿価の配分にあるのではない」(para.83、傍点は引用者)と説明している。要するに、そこでは測定に関するすべての要素が現在の情報や仮定に基づいており、「会計的配分は、…当初の金額をあらかじめ定められた方法で各期に割り当てるもの」(para.24、傍点は引用者)という点で会計的配分とは異質であるといえる。

[20] 例えば米山[2001]では期間損益の「正常性の確保」という観点から、その正常性の回復のための簿価修正というのが一貫した論拠づけになっている。なお、事業投資の期間利益計算はのれん価値を販売をとおして毎期実現配分していくものであるから、事業を続行するかぎりその事実をそのまま期間利益計算に反映させるという考え方もむろんありうる(as-realization approach)。期間利益計算とは何であるか、言い換えれば損益計算に反映させる「事実」とはいかなるものか、そのあり方の検討にとっては、少なくとも減損認識時に利益計算をやり直す方式(catch-up approach)との対比において、そのことも1つとして挙げておかねばならないだろう。

[21] このことは棚卸資産の低価基準についても同様で、次期以降の損失をあらかじめ当期に計上するという意味で期間損益が歪められるという批判もあるが、回復の見込みがない場合は価値減少が当期にすでに生じているという反論が成り立ちうる。「正常原価」の繰り越しから、さらに「有用原価」の繰り越しによる原価配分精緻化過程の一環と捉えるわけである(山桝・嶌村[1992]263-64頁参照)。ただ、固定資産の減損は(販売資産ではなく長期使用資産であるから)その後に戻しを認識することもあり(IASC方式の場合)、それと同じ論拠が成り立つかどうか。

[22] 「ビッグバス(big bath)会計」とは典型的にはM&A会計でののれんをそれ以降償却せず、その期にすべて損失にすることで、それ以降の利益を出やすくするある種の利益操作である。井尻[1999]7頁参照。

[23] 企業会計審議会[2000]では、減損会計と類似する会計基準、例えば棚卸資産の評価損、耐用年数の短縮に伴う臨時償却、有形固定資産の滅失による評価損、偶発損失の引当処理、との関係を検討課題としている。また斎藤[2001]22-23頁では、過年度の回収分を含めた投資の回収可能性を見直す減損の概念につき、現行の貸付債権の減損処理、在庫品の低価評価との整合性についてふれている。それらは、上記の減損概念が現行会計基準の体系の「限界的な問題」(同25頁)であるという点も含めて、興味深い論点である。

[24] 例えば、「資産の取得時なら、…過去の減価償却に歪められないという点でも、簿価と価値の比較に経済的な意味がある。…減損会計の核心は事後に判明した投資時の負ののれんを取得原価から取り除く操作といえる」(斎藤[2001]19頁、傍点は引用者)。ただ問題は、数値例でいえば負ののれん100のうち70はわかるが、30はどう取り除かれているかである。

[25] 回収可能性のテストを投資全体について行う斎藤方式を採りながらも、見積もりの修正による(投資時点での計算上の)公正価値にまで切り下げるという方式(認識は、測定は)もあるかもしれない。それは、当初の取得原価の一部分を切り捨てる(簿価の追加的修正)といった配分計画の部分的修正とみるよりは、文字どおり名目資本額(当初支出額)そのものの切り下げによる新たな維持回収計算といえる。なお、企業会計審議会[2000]でも、ストック志向(資産評価を優先する)あるいはフロー志向(利益計算との関係を重視する)のいずれの立場でも、公正価値(時価)や使用価値以外の可能性の検討についても言及している。

 

〈参考文献〉

FASB[1990]Discussion Memorandum, Present Value-Based Measurement in Accounting (企

業財務制度研究会訳『現在価値』中央経済社).

FASB[1995]SFAS No.121, Accounting for the Impairment of Long-Lived Assets and

  For Long Lived Assets to Be Disposed Of (企業財務制度研究会『減損会計をめぐる論点』資料V『長期性資産の減損及び処分予定の長期性資産の会計処理』).

――――[2001]SFAS No.142, Goodwill and Other Intangible Assets.

IASC[1998]IAS No.36, Impairment of Assets(日本公認会計士協会国際

  委員会訳『資産の減損』)

企業会計審議会[2000]「固定資産の会計処理に関する論点の整理」。

―――――――[2001]「固定資産の会計処理に関する審議の経過報告」。

井尻雄士[1999]「アメリカのファイナンシャル・レポーティング」『企業会計』第51巻第10号。

川村義則[2000]「減損会計における現在価値と公正価値」『企業会計』第52巻第2号

斎藤静樹[2001]「会計上の評価と事業用資産の減損」『会計』第159巻第4号。

辻山栄子[2001]「固定資産の評価」『企業会計』第53巻第1号。

米山正樹[2000]「原価配分のもとでの簿価修正」『会計』第158巻第2号。

――――[2001]『減損会計』森山書店。

山桝忠恕・嶌村剛雄[1992]『体系財務諸表論〔理論編〕』税務経理協会。

石川純治[2000]『時価会計の基本問題』中央経済社。

 

プロフィール―――――――

 いしかわ・じゅんじ■1948年高知県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了。福岡大学商学部講師・助教授を経て85年大阪市立大学商学部助教授、90年同教授、現在に至る。博士(経済学・商学)。現在、公認会計士第2次試験委員。主な著書に『キャッシュ・フロー簿記会計論(改訂版)』(森山書店)、『時価会計の基本問題』(中央経済社、2001年度日本公認会計士協会学術賞)などがある。