企業会計のハイブリッド構造

−異なる計算系の併存と交錯の構造−

石川純治

 

1 2つの割引価値計算―会計配分と価値評価−

企業会計における割引現在価値(PV)の計算は、その現在価値というタームからして「現在価値会計」に端的に表現される「時価会計」での現在価値の計算が想定される。しかし、将来キャッシュフローの割引現在価値計算は必ずしもそれに限られるわけではない。伝統的な原価主義会計における会計配分(典型的には「利息法」)においても、将来キャッシュフローの割引価値の計算がなされる。ただ、それはむろん前者の時価会計での文字どおりの現在の価値評価としての「現在価値」とは異なる(仮に記号で区別するならPV)。同じく将来キャッシュフローの割引計算であっても、両者の相違は割引計算における分母(割引率)と分子(将来キャッシュフロー)の扱いのなかに具体的にあらわれるが、より基本的には会計計算の枠組みの相違として捉えることができる。

今日の企業会計の特徴は、この2つの割引現在価値計算の用いられ方をとおしても見ることができる。それは、端的に言えば、伝統的な「会計配分」(フロー志向)と今日の資産・負債アプローチのもとでの「価値評価」(ストック志向)とが併存した会計計算という特徴であり[1]、それがさらに業績報告のあり方にも特徴的に現れてきている[2]。今日、後者の価値評価が次第に前者の会計配分の領域に“浸透”してきている現象がみられるが、その将来はともかく今日の企業会計にあっては、そのいずれか一方ではなく、両者が併存したかたちで制度的に機能しているといえる。

以下、まず満期保有目的債券と売買目的有価証券のケースでもって、簿価決定(償却原価vs.時価)並びに簿価変動の相違(利息配分vs.時価差額)をみる(第2節)。次に、その具体例での議論を他のケースも含むより一般的なかたちで説明する(第3節)。以上の議論をふまえて、会計配分と価値評価の相違をさらに計算枠組みの相違として論じる(第4節)。最後に、今日の企業会計の1つの説明理論として、その計算枠組みの全体的性格(ハイブリッド構造)を明らかにする(第5節)

 

2 満期保有目的債券と売買目的有価証券―利息配分/償却原価vs.時価/時価差額−

本節では、まず満期保有目的債券(購入社債)と売買目的有価証券の簿価決定の相違(償却原価vs.時価)並びに簿価変動の相違(利息配分vs.時価差額)をみることで、会計配分と価値評価の違いをみておきたい。

(1) 満期保有目的債券−利息配分(フロー)と償却原価(ストック)

満期保有の購入社債は、周知の通り償却原価でもって評価される。そのさい、「利息法」が採用されると(制度上もそれが原則法)、それに基づく償却原価(簿価)と受取利息とは次のような関係、すなわち、期首簿価(前期末の償却原価)=実効利子率による(その期首時点での)将来キャッシュフローの割引価値…(1)、受取利息=期首簿価(前期末の償却原価)×実効利子率…(2)になる[3]。この(1)式と(2)式の関係は一定の実効利子率を媒介にした元本と利子の関係、つまり割引元本(時の逆順計算−(1)式−)と利子計算(時の正順計算−(2)式−)の「対関係」となっている。(1)式を将来キャッシュフローの割引による資産化(capitalization)ないし元本化といえば、(2) 式はその元本に基づく利子配分(利子総額の期間配分)という関係にある[4]

さて、償却原価における「償却」(amortization)とは、周知のように、社債の発行価格(購入額)と額面金額との差額を金利調整差額としてみたときその期間配分のことであり、しかもその配分額が債券簿価を構成する。すなわち、金利調整額の配分額は毎期その債券の評価額に加算(増価、アキュムレート)される。したがって(1)式はもともと、期末の償却原価=期首の償却原価(簿価)+金利調整差額の配分額(増価)(3)、として計算される。そして、その右辺第2項は(2)式の利息配分のうち契約利息を除いた部分、すなわち、各期の増価額=期首簿価(前期末の償却原価)×実効利子率−契約受取利息…(4)となる。このようにして計算される償却原価が実は先の(1) 式で示した将来キャッシュフローの割引価値でもあることには、必ずしも容易に直感が働くわけではない。つまり、償却原価の計算を利息法で行うと、毎期の償却原価は(1) 式で示される割引価値になるということである[5]

 ここで重要なことは、償却原価の簿価決定およびその簿価変動のあり方である。すなわち、(3)および(4) 式に示されているように、利息配分(フロー計算)→増価として加算(ストック評価)(a)であって、その逆ではないということである。ただ、先に述べたように、(1) 式からしてその増価額は期末と期首の割引現在価値の差額ではある。しかし、これをもって逆に期末と期首の割引価値(ストック評価)の差額→受取利息(フロー計算)(b)とみてはいけない。このことは周知のことであろうが、重要なことはこの(a)と(b)との対比において今日の「時価会計」での簿価決定並びに簿価変動のあり方をみるということである。

(2) 売買目的有価証券−時価評価(ストック)と時価差額(フロー)

 売買目的有価証券の場合の簿価決定は、先の償却原価と比較して事前の配分ルールがないので比較的単純である。すなわち、市場価格がある場合はその市場価格(時価)でもって簿価が決定されるだけである。市場価格がない場合はPVでもって評価される[6]。したがって、簿価変動も時価差額ないしPV差額となるだけである。ちなみに、効率的市場では市場価格は競争によってPVに収斂するから、結局、そこでの簿価変動は期末時価(PV)−期首時価(PV)…(5)、ということになる[7]

 ここで重要なことは、そこでのPVは文字どおりその時点での現在価値であり、その時点でのすべての新しい情報や仮定を織り込んだ割引価値計算であるということ、したがってそこではストックの価値評価が先に決定されるということ、そして評価損益がその時価差額損益として計算される、ということである。仮にその評価損益もキャッシュフローの「配分」ということができても、それは有価証券が売却されたあとからみての“結果的配分”であり、そこに事前の配分ルールを見出すことは難しい。少なくとも、先にみた会計配分での配分と同一の内容をもつとはいえない[8]

 先の(1)式でみたように、利息法による毎期の償却原価も(少なくとも計算上は)PVの計算をおこなっている。したがって、そこでもPVの期間差額(その場合の差額は利子であるが)が計算されてはいる。しかし、利息法ではなく定額法(均等配分)によれば、償却原価はPVではなくなる。つまり、そこでは利息法であれ定額法であれ、各期末時点での新たな情報による再測定を行っているのではなく、あくまで当初認識時の計算基礎をふまえた会計配分を行っているのであり、両者は単に配分方法の相違にすぎない。したがって、利息法のもとでは簿価(償却原価)がその時点での元本相当額として計算され、それが毎期変動しているようにみえるが、それは利息法による利息の配分計算を行っていることに起因するにすぎない。これに対し、株式に代表される売買目的有価証券にあっては、各時点で想定される元本価値(としての時価)そのものが変動しているといえる。それは先の利息配分(増価)よる簿価変動とは基本的に性質の異なる変動である。

 以上、簿価決定での「償却原価vs.時価」、並びに簿価変動での「利息配分vs.時価差額」の相違は、より一般には「フロー計算→ストック評価」vs.「ストック評価→フロー計算」の相違として[9]、さらには相異なる計算枠組みの相違(計算系Tvs.計算系U)として議論されうる。本節はそうした計算枠組みにかかわる議論までもふまえて、2つのケースを特に上記の観点からみたわけである。そこで、次は相異なる計算枠組みについて述べなければならないが、そのまえに本節での議論を一般化しておきたい。

 

3 資産・負債の簿価決定と簿価変動−配分と評価の基本的相違−

 本節では、前節の2つのケースにおける資産・負債の簿価決定並びに簿価変動の相違を、他のケースもふくむ一般的なかたちで示しておきたい[10]。まず、両者のケースに共通するPVの計算式を示しておく。ただし、PVは第t期末のPV(PVは当初時のPV、tの最終期をn)、CFはその時点での次期以降の将来キャッシュフローである。

PVは第t期末のPV(PVは当初時のPV)、CFはその時点での将来キャッシュフロー、nは最終期までの期間数を表す。

現在価値:PV=f(CF,r, t)=                (6)

さて、先の満期保有目的債券でみた会計配分に基づくケース(計算系T)は、以下のように示される。ただし、A・L=資産・負債、I=利息配分、k=毎期の契約上の受取(あるいは支払)利息のキャッシュフローである。

 

〈計算系T〉当初認識時に計算基礎をおく「連続・フロー配分型」

資産・負債の簿価:AorL=PV=f(CF,r, t)=PVt−1×(1+r)−k…(7) 

利息配分:I=PVt−1×r                               …(8)                                 

簿価変動:A−At−1=PVt−1×r−k=(9) −k=PV−PVt−1      …(9)

                       

ここで(7)は、先に購入社債のケースで述べた (1)式および(3)、(4)に該当する式であることに注意されたい[11]。さて、ここで重要なことは、(9)より簿価変動が(8)の利息配分から出てくること、そのさい利子率rが当初に決定されていること(購入社債のケースでは実効利子率)、PVが当初のPVから連続的に繋がっており、しかもCFが確定していること、以上である。これが時価会計での時価変動との決定的な相違である。

そこで、次に今日の時価会計での簿価決定および簿価変動のあり方(計算系U)をPVでもって示しておくと、次のようになる。ただし、将来キャッシュフローは確定的なものではなく不確実(確率変数)なので、CFは将来の期待キャッシュフローを表している。また、割引率も測定時点で異なりうるので、先と異なりrとしている。

 

〈計算系U〉:当初認識時から分離切断された「非連続(離散)・ストック評価型」

 資産・負債の簿価(価値):AorL=PV=f(CF,r, t)      …(10)                 

簿価変動:A−At−1=PV−PVt−1                          (11)

 

ここで、いくつかの重要な相違点を指摘しておきたい。まず第1は、(7)(10)のPVの相違、すなわち同じくPVの計算であっても、(10)ではCFとrが確定的・固定的なものではなく、不確実・変動的であるという点である。第2は、(9)(11)との相違、すなわち同じくPV−PVt−1であっても、(11)で示される時価変動差額(評価損益)(9)と異なり資産・負債の直接的再測定による時点間差額として計算される、という点である。さらに、第3は簿価決定のあり方の相違、すなわち(7)式を「連続・フロー配分型」であるといえば、(10)は「非連続(離散)・ストック評価型」であるということができる。(利息法での時の経過に伴う)償却原価の動きと(時点時点の)時価の変動とを対比した図表1を参照されたい。

 

図表1 簿価変動の相違

〈連続・フロー配分型〉           〈非連続・ストック評価型〉

   ケース1:満期保有目的債券         ケース2:売買目的有価証券

 

 

 

4 2つの計算系−計算枠組みの相違−

以上の議論をふまえて、本節では会計配分と価値評価の相違を、さらに計算枠組みの相違として論じてみたい。図表2は、2つの計算系をいくつかの観点から比較したものである。

図表2 2つの計算系−そのモデル比較−

ここでいくつかの重要な点を指摘すれば、以下のとおりである。まず第1に、系Uがストック志向であることは計算目的が利益計算よりも、まずは実態・リスクの開示会計(財務透明性)を志向しているところからきているように思える。ただ、それを貸借対照表本体で行うと利益計算とかかわってくる。そのさい、リスク開示あるいはリスク管理という目的にとってはリスクをもっともよく反映する測定属性が選択されるわけで、それを貸借対照表本体でおこなうと、その属性に規定された(原価・実現の枠組みとは性質を異にする)あらたな利益計算の問題が生じてくるのである。第2に、今日の企業会計における系Uの“浸透”は、その利益計算とのかかわりにおいて、たとえば純資産の期間差額として計算される「包括利益」なる利益概念を生み、とりわけストック/フロー関係において問題を複雑にしている。包括利益および(その報告様式である)包括利益計算書は、いわばフロー計算志向の系Tとストック計算志向の系Uとの“交錯”と“調整”の場になっているのである。

第3に計算基点の相違が重要であり、この相違(当初認識時vs.特定時点)は、会計枠組み思考の相違(フロー配分思考vs.ストック価値評価思考)や資産・負債の測定のあり方の相違(派生的測定vs.直接的測定)あるいは簿価決定のあり方の相違(連続・フロー配分型vs.非連続・ストック評価型)と密接に繋がっている。端的にいえば、当初認識時から分離切断された特定時点の情報や仮定に基づく再測定というのが、時価会計での会計測定の重要な特徴なのである[12]。また、配分と資産評価のつながりは、必ずしも歴史的原価と直結するわけではなく、配分と時価のつながりもありうる(例えば取替原価による減価償却−系T)。したがって、より基本的な点は資産評価での原価か時価かではなく、計算の基礎が当初認識時にあるか、それともそこから分離切断されているか(そこには事前の配分ルールはない)、という相違にある。仮に減価償却が特定時点間の現在価値の差額として計算されるなら(経済的減価償却)、それは系Uに属する(現行とはまったく性質の異なる)減価償却といえる。減価償却が会計配分の象徴的存在であるだけに、それがこうした配分ではなく価値評価の差額として計算されるなら、系Uが企業会計の全局面に浸透するということになるだろう[13]。 

第4に、将来キャッシュフローが何らかのかたちで確定しているか、それとも不確定か(確率変数)、この相違も重要である。確定しているからこそ、事前の配分ルールによる会計配分がなされるわけで、不確実なキャッシュフローを事前に何らかの配分ルールでもって配分することはできないのである。それも「配分」というのであれば、すでに述べたようにそれは“結果的配分”にすぎない。第5は、第4の相違を割引計算式の分子側における相違といえば、分母側すなわち割引利子率が当初のままか(固定的)、それとも各測定時点で異なるか(変動的)、という相違である。時価会計での測定がその時点での現在価値をあらわすかぎり、当初の割引率ではなく特定時点での財務リスクないし財務実態を反映する割引率が用いられるのである。ちなみに、会計配分においても分子側の将来キャッシュフローの見積修正はありうるが(例えば減損会計)、分母側の割引率は依然として固定される。それは、あくまで第4の点での会計配分の修正という位置づけにとどまる。その意味で、分母側の割引利子率の扱い(当初のままか、測定時点で変わりうるか)が、重要なメルクマールになるといえる[14]

以上の相違は、さらにその基底にある会計観の相違という観点からも捉えることができる。すなわち、今日の企業会計にはこれまでの動態論思考とはまた性質を異にする会計思考が横たわっているように思える。それは端的に言えば企業価値(株主価値)を志向する会計といえる[15]。かくして、今日の会計は動態論的会計観からさらに企業価値的会計観へと移行しているようにみえる。それが完全にとってかわる会計観になるのかどうかは会計観の変遷という点からきわめて重要な点であるが、上記の会計計算の基底には実はこうした動態論的思考と企業価値的思考とが併存しており、今日のハイブリッドな企業会計制度のあり方も、実はこうした“会計思考のハイブリッド”に根ざしているといえるのである(図表3の破線枠参照)

 

図表3 会計思考の変遷とハイブリッド

 

     静態論的思考(評価)   

       動態論的思考(配分)

         企業価値的思考(評価)

 

 

5 むすび−企業会計のハイブリッド性−

この2つの系の相違は損益計算書と貸借対照表との関係からして、いずれの財務諸表にもそのハイブリッドな構造が何らかのかたちで現れる。現に、将来の財務業績報告のあり方において損益計算書の全面見直し案が進行しているが、そこにもハイブリッドなかたちが現れている[16]。そこで、今日の企業会計のハイブリッドな性格を概念図的に示せば、図表4のようになる。

図表4 P/LおよびB/Sのハイブリッド構造

 

図表4のヨコの矢印はP/LとB/Sの(フローとストックの)規定関係を表している。その基本関係において、系Tと系Uとでは互いに逆になっていることに注意されたい。また、タテの矢印は、系Uが系Tの領域に次第に“浸透”してきている今日の企業会計のあり方を示している(破線はその境界を示しているが、現実には両者が交錯する領域として現れている)[17]。例えば、本稿で取り上げた満期保有目的債券も全面時価アプローチが採られるようになれば、償却原価ではなく売買目的有価証券(この扱いも、もとは系Tに属していた)と同じく時価で測定され、その時価評価差額が損益となる[18]。つまり、系Tから系Uの枠に入ることになる。

これまでの企業会計は、価値「評価」ではなく収支を基礎にする会計「配分」(系Tの枠組み)がその基礎にあり、資産・負債の評価もそれに基づいて決定されていたといえる。それを会計観の「評価から配分へ」の転換であるといえば、今日の企業会計にあってはあらたな装いのもと、「配分から評価へ」の“逆転換”の様相をなしているようにも見える。しかし、先に企業価値的思考という点にふれたように、それが動態論以前の(清算価値を前提にする)静態論的思考に戻っているというわけでもないことは、ゴーイング・コンサーンが前提されていることからも明らかである[19]そして、今日の企業会計に特徴的なことは図表4に示されるように、そのいずれか一方ではなく、両者が異種併存(ハイブリッド)したかたちとして登場してきているという点にある[20]

いずれにしても、その背景には投資家にとって有用な会計情報という観点(ディスクロージャー志向)が全面に強く出てきている点があげられる。このディスクロージャー志向の会計は、先に述べた企業価値を志向する会計と軌を一にしている[21]。しかし、たんに有用な情報提供ということであれば、注記等で情報開示することも可能であるように、それが直ちに計算構造としてのB/SやP/Lの議論に直結するわけではない[22]。会計の「記録・計算」を度外視した「報告」偏重の傾向が強くなっている今日、本稿でみたような会計計算の理論に基づく企業会計のあり方の議論もきわめて重要であるように思える。

 


 

 

 

 

 



[1] ここで「会計配分」(フロー志向)とは原価配分よりも広く、収支を基礎にした収益・費用と資産・負債の決定関係における、発生主義を基礎にした収支の期間配分をいう。そして、今日の「価値評価」(ストック志向)の会計計算に前者での収支の配分(キャッシュフローの配分)がどこまで作用しているか、という点が1つの論点になるだろう。また、収益・費用アプローチに対する資産・負債アプローチは利益計算の観点(利益観)での対立観とされるが、それが本来的に利益計算の異なるアプローチとして出てきたものかどうか、この点も検討の余地がある(実態・リスク開示志向から出てくる資産・負債中心観)。拙稿「金融商品会計の理論的基礎」(『企業会計』200212月号)参照。

[2] 最近公表された新しい業績報告書に関するIASB案(3行区分方式から2行2列区分方式へ)がその1つである。拙稿「時価会計と資本利益計算の変容(下)」(『経営研究』第53巻第3号)の[付記]参照。

[3] あらためて説明するまでもないと思われるが、ここで「実効利子率」とは、社債の発行価格(購入額)と額面金額との差額が金利調整であるかぎり、それをふくめた実質金利のことである。

[4] この「対関係」については、他のケース(リース債務、貸倒懸念債権)も含めて拙稿「割引現在価値と会計配分」(『経営研究』第53巻第3号)参照。なお、(2)式の合計額すなわち各期の利息合計額=契約利息+金利調整額であり、それが債券購入時の将来キャッシュフロー合計額とその実効利子率によるPVとの差額になる(次節の一般式で示せば、ΣI=ΣCF−PV)。

[5] その代数的証明は前掲拙稿「割引現在価値と会計配分」の補遺2参照。

[6] 「金融商品会計に関する実務指針」(259項)においては、市場価格がない場合は経営者の合理的な見積もりによることを原則としているが、その算定方法の1つとして割引現在価値による方法があげられている。また、IASC討議資料「金融資産及び金融負債の会計処理」では「金融商品の公正価値は、類似の条件とリスクの商品に対する現在の市場収益率で割り引かれた将来の期待キャッシュフローの現在価値を意味する」(日本公認会計士協会訳、第5章パラグラフ2.12)と説明している。

[7] 効率的市場での裁定取引によって市場価値が割引現在価値になることについては、前掲IASC討議資料の第5章パラグラフ2.7にもその説明があるので参照。

[8] 有価証券の時価評価損益も「実現」と解して、それがキャッシュフローの「配分」であるという見解(主観のれん説)がある。拙著『時価会計の基本問題』(中央経済社)第6章第2節参照。配分対象となる総額が前もって決まらない(不確実)、しかも結果的にみてプラス(評価益)にもマイナス(評価損)にも(不規則に)「配分」されるものを、はたして「配分」といえるかどうか(あとの図表1参照)。少なくとも、それは伝統的な配分の概念とは異なるように思える。

[9] ちなみに後者での「フロー」(実物のフローを伴わない何らかの評価差額)というとき、それが前者のフローとの対比においていかなる意味内容をもつかは、別途検討されねばならない。前掲拙著第2章注(33)参照。

[10] 他のケース(リース債務、貸倒懸念債権)もふくめた議論については、前掲拙稿「割引現在価値と会計配分」の補遺2参照。

[11] (7)式の簿価の値が(6)式のPVに等しくなる点については先の注(5)参照。

[12] この相違は監査のあり方の相違にも反映する。すなわち、系T=配分ルールの適正性の監査(会計ルール準拠性監査)といえば、系U=価値評価の妥当性・正確性の監査(実査的監査)といえる。特に系Uの多くは期中仕訳よりも期末決算仕訳として集中的に現れる。

[13] その意味で、仮に系Uが全局面に浸透していくとしたら(現実的でないように思えるが)、この減価償却の局面が系Tのいわば“最後の砦”ということもできる。仮にそうなったら、そこでの価値評価差額としての減価償却(シークエンシャルな系Uとしての減損ともいえる)は有価証券の時価評価損益の枠組みと同じものとなるだろう。いずれにせよ、減価償却における系Tと系Uを対比すると、系Uの特徴がいっそう理解されるだろう。なお、経済的減価償却と会計的減価償却との相違は、投資時点での「主観のれん」を維持資本に入れるか否かとしてあらわれる(前掲拙著第6章補論6.1参照)。会計上の利益計算は、こののれん価値を維持資本に入れないので、そののれん価値が年度毎に実現配分されるかたちで期間利益計算に計上されるのである。

[14] この点については、事業用固定資産の減損会計に関して論じた拙稿「減損会計と利益計算の構造」(『企業会計』200111月号)9頁参照。この他にも例えば貸倒懸念債権の貸倒見積高の算定を取り上げれば、その方法に「キャッシュ・フロー見積法」と「財務内容評価法」があるが、前者は会計配分の枠組み内(配分計画の修正、すなわち減損)の方法であるのに対し、後者はそれとは異質なストックの価値評価(資産価値の修正)の見地にたつ方法といえる。前掲拙稿「割引現在価値と会計配分」第4節参照。

[15] 一般に企業価値とは、清算価値ではなく、企業の経済価値すなわち企業が生み出す将来の純現金収入(より正確にはフリー・キャッシュフロー)の割引現在価値として捉えられる。最近、自己創設のれん(例えばブランド価値)のオンバランス化の問題がでてきているが、それもそうした企業価値を志向する会計問題の1つといえる。ちなみに、その資産化は、企業価値=純資産簿価+のれん価値(オールソン・モデル)からみれば、右辺第2項の「のれん価値」の(識別可能性などの一定の件を満たした)いわば“部分的簿価化”(第2項から第1項へ)ともいえる。こうしたのれん価値のオンバランス化はそれに見合う貸方側の自己資本額を増加さすが、その評価額は決算時点で変動するから、持ち合い株式の時価評価と同じく、貸方の資本を変動(増減)させることになる。すなわち、資産・負債の全面的時価評価はその評価差額がなんであれ(利益であれ、資本の部の評価差額であれ)、いずれも貸方の自己資本額を変動させること(いわば“自己資本の市場化”)につながるといえる。いずれにしても、そこでは過去ではなく将来志向のもと、キャッシュフロー重視、株主価値重視としてあらわれる。

[16] 最近公表された新しい業績報告書に関するIASB案(2002年8月)でのヨコの2区分(営業と金融)並びにタテの2区分(コラム1とコラム2)の報告様式にも、こうしたハイブリッド構造の1つのかたちをみることができる。前掲拙稿「時価会計と資本利益計算の変容(下)」の[付記]参照。その最新案(200210月)ではタテの2区分が「利益フロー」(income flows)と「評価調整」(valuation adjustments)となっており、売却目的有価証券の評価損益は以前の案と同様に後者の区分枠で報告されることになっている。となると、コラム1ないし利益フローのタテ合計金額は、リサイクル禁止の原則を持ち出さなくても明らかに純利益とはならない(コラム1の合計=純利益、コラム2の合計=その他の包括利益、とはならない)。つまり、純利益は4つのカテゴリーの総合計である包括利益のなかに埋没してしまっている。なお、この売却目的有価証券の評価損益の扱いは、本稿での議論ともかかわってきわめて重要なところである。いずれにせよ、この2区分軸の理論的基礎の検討、とりわけタテの2区分軸(資産・負債の再測定からでてくる損益の別表示−working principle 3)が重要となろう。

[17] 実はこの交錯しているところの検討が将来の企業会計のあり方を展望する上で重要といえる。したがって、何がそうした交錯領域に位置している会計基準であり、いかなる内容でもって交錯しているかが理論的に興味深い対象となる。前掲拙稿「割引現在価値と会計配分」補遺1の2参照。理論的にやっかいなのは事業用の土地の扱いであるが、例えば土地を土地所有権と解して無形固定資産に含める考えに基づけば(木村和三郎『科学としての会計学(上)』有斐閣、第5章)、今日ののれん及びその他の無形固定資産とともに時価評価の理論上の基礎を見出す可能性がある。いずれにしても、本稿は、そうした個々の会計基準の具体的検討よりも、全体としての構造に焦点が当てられている。

[18] 全面時価アプローチについては、IASC討議資料「金融資産及び金融負債の会計処理」(特に経営者の意図に基づく区分に関する第5章パラグラフ4.444.53)、JWG「金融商品及び類似項目」(基準パラグラフ69、結論の根拠パラグラフ1.6)、前掲拙著第4章補論4.1をそれぞれ参照。

[19] 静態論の時代とは異なって、今日の金融資産を中心にした価値評価志向の背景には、20世紀後半からの金融・証券経済の高度化・多様化に伴う金融資産の量的・質的変化という点があげられる。ストックの価値評価といっても、それが出てくる背景もその内容もそして対象も異なるのである。この点については『日本経済新聞』2000年12月18日の「経済教室」参照。

[20] そのハイブリッド性は計算の目的(会計目的)において分配可能利益を志向する会計と企業価値を志向する会計とが交錯するかたちでも現れており、現実の制度(商法)においてその調整がなされるかたち(商法第290条1項6号の新設)になっている。商法の配当規制と開示規制との調整方式については前掲拙著第5章補論5.2参照。

[21] さらに、この企業価値を志向する会計の背景には「投資家(機関投資家)資本主義」あるいは「株主資本主義」といわれる、(特に米国を中心にした)今日の1つの資本主義のあり方が指摘される。その問題点もふくめて前掲拙稿「時価会計と資本利益計算の変容(下)」Vの第4節参照。

(筆者・大阪市立大学教授、本年四月より駒澤大学経済学部教授)

 

[22] ではなぜB/S本体計上となるのか、このことが問われねばならないだろう。注記とB/S計上との相違は、例えば条件付債務(引当金ないし負債)と偶発債務(注記)の相違にみることができる。そして、その相違が負債の定義における「…発生の可能性の高い将来の経済的便益の犠牲」(財務会計概念基準書第6号パラグラフ35)での「発生の可能性」の度合いの違い(可能性が高い→負債→損益、可能性が低い→偶発債務→注記)にあるならば、負債(あるいは資産:「発生の可能性の高い将来の経済的便益」)計上と注記との境界はその発生可能性いかんということになる。この観点からすれば、今日の(オンバランス化や時価会計における)情報提供→B/S本体の動向は、(端的には実態開示やリスク管理目的による)この本体化への“ハードルの低下”現象とみることができる。いずれにせよ、重要なことは実体・リスク開示志向から派生的・結果的に出てくる損益と、本来的な損益計算志向とは区別される必要があるということである。

(リスク管理目的からして)、

金融資産・負債の時価評価並びに評価損益は、いってみればリスク管理目的からしてこの境界線がB/S本体計上化

([22]) ではなぜB/S本体計上となるのか、このことが問われねばならないだろう。例えば条件付債務(引当金ないし負債)と偶発債務(注記)との相違を取り上げてみれば、そしてその相違が負債の定義における「…発生の可能性の高い将来の経済的便益の犠牲」(財務会計概念基準書第6号パラグラフ35)での「発生の可能性」の度合いの違いにあるならば(可能性が高い→負債→損益、可能性が低い→偶発債務→注記)、負債計上あるいは資産計上(発生の可能性の高い将来の経済的便益)と注記との境界はその発生可能性いかんということになる。この観点からすれば、今日の(オンバランス化や時価会計にみられる)情報提供→B/S本体への動向は、(端的には実態開示やリスク管理目的による)本体化への“ハードルの下降”現象とみることができる。いずれにせよ、こうした実体・リスク開示志向から派生的・結果的に出てくる損益は(情報提供→B/S本体化→損益)、本来的な損益計算と区別されるべきである。

 

([22]) ではなぜB/S本体への計上となるのか、このことが問われねばならないだろう。例えば条件付債務(負債)と偶発債務(注記)との相違を取り上げてみれば、そしてその相違が負債の定義における「…発生の可能性の高い将来の経済的便益の犠牲」(財務会計概念基準書第6号パラグラフ35)での「発生の可能性」の度合いの違いにあるならば(可能性が高い→負債→損益、可能性が低い→偶発債務→注記)、負債計上あるいは資産計上(発生の可能性の高い将来の経済的便益)と注記との境界はその発生可能性いかんということになる。この「境界」の観点からすれば、単なる情報提供→B/S本体への今日的動向は、(端的には実態開示やリスク管理目的による)この本体化への“ハードルの下降”現象とみることができる。いずれにせよ、こうした実体・リスク開示志向から派生的・結果的に出てくる損益は(情報提供→B/S本体化→損益)、本来的な損益計算と区別されるべきである。

 

 

([22]) ではなぜB/S本体となるのか、このことが問われねばならなくなる。例えば条件付債務(負債)と偶発債務(注記)との相違を取り上げてみれば、そしてその相違が負債の定義における「…発生の可能性の高い(probable)将来の経済的便益の犠牲」(財務会計概念基準書第6号パラグラフ35)での「発生の可能性」の度合いの違いにあるならば(可能性が高い→条件付債務→負債→損益、可能性が低い→偶発債務→注記)、負債計上(あるいは資産計上:「発生の可能性の高い将来の経済的便益」)と注記との境界はそのprobabilityいかんということになる。この「境界」の観点からすれば、たんに有用な情報提供→B/S本体への今日的動向は、(実態開示やリスク管理目的からくる)この本体化への“ハードルの下降化”現象とみることができる。いずれにせよ、こうした実態・リスク開示志向から派生的・結果的に出てくる損益は(情報提供→B/S本体→損益)、本来的な損益計算と区別されるべきである。