第7章 公企業と公的サービスの供給方法の多様化
T 公企業とは何か
 【公企業】:資本主義経済体制下において、なんらかの公共目的の達成手段として、国または地方公共団体によって所有され、かつ経営されている企業。
・資本主義経済体制を前提とし、私企業の存在を認める。
・私企業のみでは十分でない分野、私企業と併存し競合すること でより良いパフォーマンスの実現が期待される領域。
・『所有』は『国』または『地方公共団体』。(公的所有)
・『営利性』を排除する。

公企業の設立理念 p.135-136
・公企業の概念は、『所有』(出資元が国か地方公共団体か)のみで理解してはいけない。
・公企業の設立理念は、『明確な公共目的』(全国的な陸上交通幹線網の整備,全国的な通信ネットワークの構築など)が存在し、目的実現の手段の1つとして公企業が設立されるという考え方。
・『経営』は、公的経営(公的支配や責任=公的関与や支援)が基本。

公企業の運営原則 p.136
・「公的所有」・「公的経営」されている公企業は、同時に、財やサービスの給付を目的として経営される『継続的経済事業体』である。
★『消費経済』=行政
★自己生産経営』=造幣局など。
★『公営造物』 =「手数料主義原則から経費の一部分を回収すればよし」 =博物館、動物園など。
以上★印の組織は、「公企業ではない。」

政府公企業 (例)
【政府出資の公企業】
・沖縄振興開発金融公庫:公営企業金融公庫:国民生活金融公庫:住宅金融公庫:中傷企業金融公庫などの『公庫』
・国際協力銀行、日本政策投資銀行などの『政府系金融機関』
・新東京国際空港公団:森林開発公団:石油公団:日本鉄道建設公団:日本道路公団などの『公団』
・国際協力事業団(JICA):日本私立学校振興・共済事業団などの『事業団』
・放送大学学園:日本学術振興会:日本中央競馬会などの『特殊法人』や『独立行政法人』
・政府出資を受けていない公企業として「日本放送協会(NHK)」

地方公企業 (例)
【基本的に、地方公営企業法によって規定】
水道:工業用水:軌道:自動車運送:鉄道:電気:ガス:病院の各事業が対象。
【政府と地方の共同企業】
帝都高速度交通営団:都市整備公団:首都高速道路公団:阪神高速道路公団:本州四国連絡橋公団など。

【公企業の定義】 「公私混合企業形態」(第三セクター)を前提として
@ 公私混合企業のうち公的所有が51%以上のもの。
A 公的所有が50%を割っても、民間の所有が分散しており、しかも、それらが相互に容易に買い占められ公共部門の所有を上回ることを禁じるような措置がとられている場合。
B 公的所有が民間の所有部分に比べ、相対的に小さいにも関わらず、何らかの法律や制度的制約などにより、公的部門の意見が民間のそれよりも経営に優越的に働きうる場合。

公私混合企業(例)
【政府と民間の出資による企業】
日本銀行:商工組合中央金庫:電源開発株式会社:日本たばこ産業株式会社(JT):日本電信電話株式会社など。
【政府&地方公共団体&民間の出資による企業】
関西国際空港株式会社など。

第3セクター
公を【第1】
民間を【第2】
地方公共団体と民間の共同出資:【第3】セクター

@住民福祉の向上、地域の振興に寄与するものであること。
A継続反復的に経済行為を行い、企業性を有するものであること。
Bその経費の大部分を第三セクターの経営に伴って受け取る料金、代金等の収入によって賄うものであること。
C地方公共団体が筆頭の出資者として相当の出資を行うなど、つねに主導的な立場に立って関与するものであること。

第3セクター設立の経緯
1986年 内需拡大の掛け声のもと、民間活力導入を目指し、『優遇税制』、『規制緩和』を促進した「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法(民活法)」が制定された。
1987年 「総合保養地域整備法(リゾート法)」により、リゾート開発であれば国立公園をはじめとする規制の厳しい地域の指定解除、    用途変更が認められるようになった。

第3セクタ−のメリット
・地方公共団体が、観光開発や、運輸事業の整備、再建といったプロジェクトを組む際、出資だけでなく、経営的に成り立つためには、私企業に蓄積された『経営ノウハウ』が必須である。
・私企業にとっても、投資リスクの大幅な削減というメリットが発生する。

第3セクターのその後
当初、地方公共団体、参入企業双方のイメージアップにつながる事業形態であると脚光を浴びた。
しかし、甘い収支見通し、もたれあいの構造により、近年経営破綻の例が多くみられる。
2002年2月 宮崎のリゾート施設『シーガイア』を運営していた第3セクター「フェニックスリゾート」が会社更生法を申請。
2003年   長崎県の第3セクター「ハウステンボス」が会社更生法を申請。
 ⇒ 両社とも、2000億円を超える大型倒産。

U 公企業の存在意義
@ 民間部門の資本や人材がいまだ十分発達をみていない段階において、基盤産業や国民の生活に密接な財やサービスを提供する事業分野に、極めて広い範囲で設立される可能性がある。(明治期の官営事業など。)
A 提供する財やサービスの有する性質から民間で供給することが適当でない場合。また、行政と一体的に行うことでより大きい効果が期待される場合。(災害、公衆衛生、地域振興など。)
B人材や技術の面のみからみれば、民間でもやれるはずのものではあるが、採算性の点で私企業にはなじみにくい場合。
(不採算路線を抱える鉄道・バス事業、山村・離島の医療サービス事業など。)

U 公企業の存在意義
Cリスクが極めて大きい事業分野では、民間では負担に十分耐えられない恐れがあり、公企業の活躍しうる余地が存在する。
(宇宙開発、海洋開発など。)
D供給される財やサービスの必要とされる質的・量的水準が民間のみに委ねていたのでは十分確保されないもの、あるいは確保されてもその価格が著しく高い場合。 (スポーツ施設。土地、住宅の供給価格など。)

公企業の存在意義(まとめ)
E『民間の補完』、『基盤整備』、『奉仕』 ⇒ 「産業の発展に資するべし」
F積極的に民間に対して『一定の規範を提示』、『誘導』、私企業の行動の『規律』や『牽制』
⇒ 「官は民の補完でよし」とする見方を遥かに超える。
G公企業と私企業間の競争と競合の関係を創出し、相互に刺激を与え、より実効的な公正取引と競争を促す。

U 公企業の固有の属性
@法律上の公式的制約 ⇒経営の非効率を招く要因となることが多い。
A政治的影響力 ⇒外部からの非公式な影響(圧力)を受けやすい。
B公共的支配および責任 ⇒トップの行動は常に外部から監視。公開性、透明性。
C目標と評価基準の複雑性
Dトップの権限と役割 ⇒権限の委譲、分権化が実行しにくい。
E組織のパフォーマンス ⇒リスク回避の傾向。形式主義、硬直化、官僚主義的。
F市場との接触の程度 ⇒低い効率経営への刺激が少ない。

V 公企業のパフォーマンスの測定・評価
・公企業の経営の効率性は、そう単純には測定・評価することはできない。
・私企業とも容易に比較しえない。
⇒『私企業におけるように「利潤」額が事業経営の成功・失敗を示す指標とならないからである。』

【公企業の業績を測るにはどうしたらよいのか】
(総務庁行政監察局による国レベルの特殊法人を広く業績評価の調査対象としたもの)
@【有効性】:事業の量的・質的な目標達成状況。
A【効率性】:生産性、資産の活用度、資金効率など。
B【健全性】:経費率、延滞債権発生率など。

W 公企業の経営原則
【第一義的】:『公共の福祉の増進』を目指すもの。
 =〔公共性を帯びた事業それ自体の遂行〕が目的。
【第二義的】:経済性や効率性の追求。
 =私企業と同様の利潤の追求は、重要ではあるが、それ自体が公企業の目的ではない。
【公企業にとって最大の課題】
【公共目的の要請】と【公企業の独立採算性】との衝突。

利用者負担による【独立採算制】 を堅持する理由
@公企業のサービスの利用者による消費は、個人的消費である。
 ・その消費によって受ける受益の程度が容易に特定化できる限り、そのサービスの利用者が受益の程度に応じて相応の料金を負担することが利用者と非利用者との間の負担の公平を保つ上からも望ましいと思われる。

利用者負担による【独立採算制】 を堅持する理由
A もしそれをせずに、公費をこの分野に繰り入れるなら、そのサービスの需要をいたずらに過大にし、結果的に資源の浪費を招くことになりかねない。その意味で、【独立採算性】は、需要量を適切な水準に保たせ、資源の効率的利用に対する刺激を与える役割を果たす。
B さらに、公費導入に一定のルールの枠をはめることは、公企業自体の経営責任を明確にさせ、経営の健全化を促すことになり、経営者や従業員のいずれに対しても、経営のインセンティブを貸すことになる。

★公益企業とは…   p.163
【公益企業】 高度に発達した資本主義経済体制下において公益事業的属性を濃厚に有するために、強い独占化傾向(【自然的独占】)を帯び、それゆえ、料金規制をはじめとする一連の公共規制を課せられる特殊の私企業をいう。

*公益事業的属性(教科書P.164の図参照)

公益事業 “Public Utility”
【公益事業】=公益事業的属性をもつ産業 (Industry)
『経済学』では
(1)需要側から見ると、提供される財やサービスが日常生活に不可欠で代替的な手段に乏しく(必需性)
(2)供給側から見ると、生産に「規模の経済性」や「範囲の経済性」が働くため、多数の会社が競争的に提供するよりも、一社(あるいは少数社)が独占(寡占)的に提供すること(自然独占)が、社会的厚生を高めるもの
⇒『公益事業ステータス』

公益事業と呼ばれる産業群
電気
ガス
上下水道
郵便
電気通信
鉄道
バス
トラック
航空輸送など
*その他の議論の対象
熱供給
放送
タクシー
医療機関 などなど。

公益事業の共通項
ネットワーク型のクラブ組織 =相互扶助型クラブ
・会員制度の性格を示す。(加入者など)
・誰にでも開かれている。
・通常、高利用客が低利用客の赤字を補う。
・インフラストラクチャー的設備の建設・保守と、その利用者が分離していることが多い。
(例)道路の建設(公共投資)と、道路を利用するトラック、バス等の事業者

公益事業の自由化・規制緩和
【インフラ】的部分
【コモン・キャリア】としての機能の
【分離可能性】追求へ

【設備業】と【利用業】というアイディア
【ゼロ次キャリア】,【一次キャリア】,【二次キャリア】
【第一種】,【第二種】
common carrier
1 (法律用語で)運送業者.
2 公衆通信業者,電話[電報]会社

参入・退出規制
【従来の公益事業】
自然独占の故に供給の独占を保障してもらう代わりに、公的機関による参入・撤退および提供条件(特に料金)の規制を受ける

参入規制
・自然独占の強い事業でも、厳密な意味での法的独占が与えられることはほとんどなく、大部分は事業許可を通じて規制が実行される。
・【需給調整】がカギ
・【裁量行政】につながる恐れ
  =透明な手続きが必要

退出規制
事業者が事業の一部または全部を休止あるいは廃止するときには、所管大臣の許可を受けなければならない。
【利用者への安定的なサービスの供給確保】
 ⇒一部のサービスや営業路線からも容易に撤退できないことは、新規参入を計画する事業者にとって大きな参入障壁。
【営業区域】と【供給義務】との関係 :長期・安定的で無差別な提供が期待される 公益事業

ユニバーサルサービス
(1)全国どの地域でもサービスが受けられること。(universal geographical availability)
(2)所得のいかんに関わらずサービスが受けられること。(universal affordability)
(3)サービスの品質が一定であること。(universal service quality)
(4)料金について差別的取扱いがないこと。(universal tariff/ price discrimination)

ユニバーサルサービスという概念
・もともと米国の電話事業の初期に生まれた概念。
・いまや広く公益事業一般の特性として認められている。
*東京ー大阪間などの莫大な利益で過疎地の赤字路線を維持する【内部相互補助:Cross Subsidization】
【公益事業】とは、言い換えれば【ユニバーサルサービス提供事業】ともいえる。
*均一料金制の下で、大口利用者からの儲けによって、小口零細の利用者の赤字を補う。

ユニバーサルサービスの将来
・競争の進展につれて、従来の独占的提供者の儲けの源泉が乏しくなり、「内部相互補助」に支えられたユニバーサルサービスが、維持不可能になる恐れが強い。
・従来の仕組みを踏襲しつつ、新たな方策を考える必要がある。

★★教科書の該当ページは以下の通り★★
第7章p.135-148の上半分
    p.163-168
第8章p.171-179

以上