2003年7月書評(第2回)
評者:木村(4期生)
石井淳蔵[1999]『ブランド 価値の創造』岩波新書。
ISBN4004306345
56×35=1914字

 本書は、単なる名前でしかないブランドが、なぜ価値を持つのか。それを著者がマーケティングの視点から解き明かしていく展開になっている。 
 私たちが、ふと思い浮かべるブランドとは、高価で手の届かないものだというイメージがあると思う。例えば、エルメス、ルイ・ヴィトン、アルマーニなどが思い浮かぶだろう。それらはブランドである。だが、コカ・コーラもまたブランドだ。私たちの頭のどこかにインプットされている商品名はブランドなのだ。本書は、私たちのブランドに対するイメージと、そのブランドをつくり出している企業の努力を、具体的なブランドを挙げて分析している。
 ブランドとは何だろうか。ここで、著者は商品の二重の性格を挙げている。商品というのは「製品とブランド」の性格を持っているというのだ。製品は機能や性能等、技術や製法に関係した物理的実態であり、ブランドとは商品の名前である。ブランド、たかが商品名であるが、製品はブランドという衣装を着けなければ市場に参加することもできない。それだけ、ブランドの深さ、影響力があるという。これから具体例を挙げて見ていきたい。
 アメリカ人の大好きなコカ・コーラ。私たち日本人は信じられないが、アメリカ人は、夕食のときに寿司や刺身をつまみながら、コカ・コーラを飲む。バーベキューのときやハンバーガーを食べるときもコカ・コーラは欠かせない。だが、アメリカ人がもともと食事のときに甘い炭酸飲料を飲む習慣があって、そこにコカ・コーラが登場したわけではないというのだ。それではなぜ、このような習慣がアメリカ人の間に根付いたのだろうか。それは、1.「食事のときにコカ・コーラ」をアピールし、2.家庭用冷蔵庫の普及とともに家庭向けの六本パックをつくった、3.家庭向けの食事提案を通じて、新しいライフスタイルを作り出そうとしたコカ・コーラのマーケティングの成果が、アメリカ人の欠かせないものとなったブランド、コカ・コーラなのだ。
 もっと、おもしろい具体例がグリコのポッキーである。ポッキーは1966年に発売し年間売上高300億円を大きく超え、グリコのドル箱商品となっている。ポッキーはもともとあったプリッツにチョコレートをふりかけたスティック状のお菓子というアイデアから始まった商品だ。美味しいかまずいかは別にして、なぜここまでロングセラーになったのか。ヒット商品は偶然生まれることはあってもロングセラー商品に偶然はない。企業が「ブランドとして成長させたい」と長期にわたる鮮明な意図や努力があったからなのだ。いちごポッキー、マーブルポッキーなどが発売され、さらには「ポッキー・オン・ザ・ロック」、「旅にポッキー」など、ポッキーの食べ方についても消費者に提案してきた。こうしたマーケティングがポッキーブランドの確立につながっているのだ。
 そしてロングセラー商品として興味深い例が、大塚製薬のオロナミンCだ。大塚製薬第二営業部長の金勢氏はロングセラーになった条件として開発面と販売面の二つに分けて説明している。商品の責任を開発サイドが取れるのは1〜2年であり、それ以降は販売サイドの責任であるという。営業努力によって製品を育てることがロングセラーの鍵を握っているというのだ。私たちは、良い商品は開発者の努力の賜物という目で見てしまいがちだが、ブランドを確立するためにはマーケティングが重要な役割りを果たしているのだ。
 私たちのイメージしやすいアパレル・ファッションブランドを挙げてみると「ラルフ・ローレン」がある。「ラルフ・ローレン」はポッキーと違い、たくさんの商品群を持っている。軽衣料、鞄、時計、寝具類などがある。「ラルフ・ローレン」は消費者に独自のライフスタイルを提案しているのである。私たちは、シャツ、鞄、靴、全てを「ラルフ・ローレン」もしくは「アルマーニ」等に揃えたくなる感情はないだろうか。消費者が「ラルフ・ローレン」の何かを買うということは「ラルフ・ローレン」独自の商品選択ルールとライフスタイルを同時に選ばせているのである。要するに、私たちがシャツを買いに行って、目に入った鞄、時計が欲しくなってしまうのは、そのブランドに対する憧れもあるが、企業から商品の選択ルールと生活のルールを消費者に植え付けているのである。だから、知らないうちに私たちの生活の中に浸透したライフスタイル(生活必需品を気にして見てみると)はブランドからのメッセージがたくさんあるのだ。本書は、日本人の大好きなブランドをマーケティングの視点からブランドが価値をもつようになる理由を、ポイントを押さえて分析しているので、ブランドに対する考え方の変化を与えてくれる。