2003年夏休み書評(第3回)
評者:木村(4期生)
田尾雅夫[1998]『モチベーション入門』日経文庫。
ISBN4−532−10481−5
35×56=1851文字
モチベーション(意欲)は日常の生活において、あらゆる場面で起きている。ステキな異性とデートする前にはモチベーションは上がるし、たまった課題をやらなくてはならないときにはモチベーションが下がるものである。本書は、モチベーションの考え方を多数の理論から説明し、働く上でのモチベーションについて分析していく展開になっている。著者は始めに、モチベーションは人によってそれぞれ異なるものであることを前提にしているが、基本的な考えを組み合わすことによって答えを見出そうとしている。
モチベーションは大きく2つに分けられる。1つは、人は何によって働くように動機付けられるか、モチベーションの素は何か(WHAT=欲求説)と、もう1つは、人はどのように動機付けられるようになるのか、動機付けの流れや背景(HOW・WHY=過程説)の2つがある。最近では過程説の立場をとる人が多いようである。
欲求説も過程説も多くの理論があるが、欲求説の「ハーズバーグの二要因説」が働く上で必要な理論であり、モチベーションの重要性を感じることができる。「二要因説」は動機付けを支える要因にはウチとソトの2つに区別する方法がある。ウチとは内面で、働くことそのものから得られる要因(働きがいのある仕事など)であり、ソトとは、働くことを仕事そのもの以外で支える要因(賃金など)である。人は、このウチ・ソトの要因からモチベーションが起こるのである。賃金(ソト)は最大のモチベーション要因であり、会社も社員にモチベーションを上げさせる方法として賃金を半永久的に使うだろう。そこで著者は、賃金がモチベーションに及ぼす影響は複雑であると述べている。なぜなら、おカネはいくらもらってもきりがないということだからだ。際限なくほしくなり、これで満足ということがなくなってしまう。だから、どこかでこの強欲さから縁を切る工夫をしないと、人を騙しても裏切っても金銭を欲しいという気持ちが抑えられないようになり、金はモチベーションとして健全な働きをしなくなると、指摘している。最近は、ソトよりもウチの要因を重視する方向に向かっているようだ。このような移行は重要だ。なぜなら、内なる要因が重視されるほど、ただおカネが手に入ればそれだけで良いというようなことはなくなるからだ。
ウチから湧き上がるモチベーション(働きがいのある仕事)は現在、重視されてきているが、著者は働きがいを無くすような要因、働きがいを引き出す要因を著者は挙げて、ウチなる要因の重要性を説明している。単調な作業を限りなく繰り返すような仕事を働きがいのない仕事として挙げ、給料は良くてもそれを凌ぐほどの不満をもつ人がいる、これを『疎外された労働』と位置付けている。変化の無い仕事を繰り返すことがモチベーションを下げるというのである。このような仕事も、コンピューター化によって『疎外された労働』の代替になっていった。だが、著者はこのコンピューター化は新たな『疎外された労働』を創出していると強調している。それは、機械に依存する度合いが大きくなり、熟練を経た人たちからウチからくる動機付けの機会を奪うという危機感を著者は持っている。
働きがいを引き出す要因として、作業の中身を作り替えるジョブ・デザインを著者は提案している。ジョブ・デザインは、マニュアル化された単調な作業を自らすすんで創造的に工夫させたりして仕事に変化をつけることができる。他には、人間関係が『疎外』を少なくさせる最良の薬だと述べている。同僚や上司と良い関係を保てれば、ヤル気を大きくさせることは確かであり、それが組織の生産性や効率が高まるのである。そして、働きやすい職場を作るためには、良い職場を作ろうとする強い意気込みが必要なのである。モチベーションが高く、みんながその気になれるから良い職場を作れると主張している。しかし、会社には全ての社員を満足させられる資源を用意しているわけではないので、10人が10人とも熱心に働くことを望むのは困難であるのも現実である。
本書は、モチベーションの理論、個人のモチベーション、組織から個人へのモチベーション、個人のモチベーションの管理について、利点と欠点を明記してあり、読者に利点だけを鵜呑みにさせないような構成になっていて、内容の濃さを感じる。しかし、終章はモチベーションよりも企業の構造が主になっているような気がした。だが、モチベーションの研究や知識の習得には役立たせることができる本である。