2003年7月書評(第2回)
評者:長田(4期生)
久本憲夫[2003]『正社員ルネサンス −多様な雇用から多様な正社員へ−』中公新書。
ISBN4121016912
35×54=1890字
雇用の多様化が進む中で、非正社員(後に説明するが、正社員を除いた労働者を指す)のあり方が見直されているが、果たして彼らに日本経済を変える力があるだろうか。いかなる雇用形態が生まれようとも仕事は正社員なしではまわらない。正社員は労働の活力、多様な正社員こそが今一番必要だ。著者はこのように主張する。なぜ多様な雇用形態ではなく多様な正社員を必要とするのか。本書ではこの疑問を解くとともに、雇用の現状や労働時間問題、更には日本的経営の基盤であった終身雇用や年功序列の現状と近年の変化を鋭く分析する。
まず、混乱を避けるため著者の定義どおり正社員と非正社員を区別しよう。@定年までの雇用継続を前提A企業が求める要請に個人が応えることB企業は一定以上の安定した賃金を保証。この三点を満たすものが正社員である。期間の短いパートタイマーや契約期間のある契約社員など、その他の労働者は非正社員と呼ぶことにする。正社員は多数派であり、責任や業務内容の違いから重要な存在であることは皆承知だろう。しかし、企業の将来予想の結果、非正社員が増化し、生き残りのためにダウンサイジングが必要だと考えるようなった。
正社員の人員カットも多くの企業で行われている。しかしこれは正社員が不要になったのではなく、彼らの働きが重要視されるようになったということだ。企業の価値の基本は人材にある。またその人材の育成は短時間で行わなくてはならない。能力主義から成果主義への流れである。ここで正社員の重要性が明らかになるだろう。これは同時に「多様な正社員」の必要性をも意味する。ここで考えなくてはならないのが、公平感の維持と人事管理に伴うコストだという。
次に(本書では2,3章)、その重要な「多様な正社員」の必要性を追求する。
この忙しい社会の中で、企業側は残業要請を拒否できる余地を労働者に与えておらず、拒否できるためには、非正規社員というシステムをとる。これはやめるべきだという考えに多様な正社員を必要とする理由がまず挙げられる。
労働時間が問題とされるとき、過労死にいたるほどの長時間労働や「家庭責任」を果たすだけの時間を確保できる労働時間水準という二つの観点が考えられる。経歴やキャリアといったプライドも事態を招く原因となっている。このように働くのが日本の正社員モデルとされている世の中である。そのなかでいかに効率よく柔軟に働くか、現状の悪化を防ぐためにも労働者は多様な働き方や生き方を無理なくできる仕組みを求めている。
現状を知るという点で、引用されている表グラフは重要なヒントとなるので注意して読み進めてほしい。特に、他国との比較が明確に示された勤続年数や賃金のグラフからは日本の特異性が感じられる。勤続年数が長いのにもかかわらず、キャリアアップのためのチャンスが少ない。これは向上意欲を低下させるであろう。
多様な正社員の必要性を理解したところで、日本型雇用システムの現状と実態を明らかにし、それらが今後の雇用情勢にどう関わりあうかを分析する。
年功賃金から成果主義への転換、また終身雇用の見直しは従来のやり方を打破し柔軟に働く意欲を求めているように思える。正社員たるべき職業能力開発が必要なのである。
最後では、いかにして多様な正社員を見出すかを考える。本人の意欲をかき出す成果主義は、賃金や昇進への年齢や勤続年数の大幅な後退を意味し、人事考課が賃金・処遇のほとんどを決定するため、個人の人事考課への関心は強まらざるを得ない。これらは成果主義の基礎として自己の職業能力への関心を強めることにもなっている。
職業能力を身に付けるためには専門職制度を大いに取り入れ、自己のエンプロイヤビリティを高める方向により進むよう、今こそ真の専門職制度を確立させる好機として理解すべきだという。
社会的な仕組みをさらに充実させ、それらの制約を繰りぬけてこそ多様な正社員は大きな役割を果たす。正社員の仕事能力やキャリアは、非正規社員や派遣労働者のそれとは異なる。正社員のいない企業は成長できない。コア人材を十分に養成あるいは獲得できない企業は、存続できないと著者は断言する。