夏休み書評2003
評者:島野(4期生)
高橋祥友[1997]『自殺の心理学』講談社現代新書。
ISBN4061493485
(1816文字)
日本における自殺者数は1997年に年間3万人を超え最高となった。この年間3万人という数字は、交通事故で亡くなる人の2倍以上で、一日の自殺者数に直すと約70人となる。また自殺未遂をした人は実際に命を落とした人に比べ10倍以上であるとされている。さらに日本では自殺による死に大きな偏見があるため、書類上事故死となっているケースもあり、実質の数値は更に大きくなるであろう。今後この数値がどのような変化を見せるかはわからないが、自殺は大きな社会問題であることに違いはない。
自殺をする人は年齢には関係ない。青少年の自殺。中年の自殺、高齢者の自殺。統計では年齢を重ねれば重ねるほど自殺する確立は高くなるらしいが、自殺をする原因はさまざまな年代、様々な環境に沢山潜んでいるのである。青少年の自殺で多く取りざたされるのがいじめによる自殺である。精神的にも未熟な青少年にとっていじめというのは自殺、死を選ぶに余りある負担になる。また統計上死を選ぶ青少年には家庭における問題も多いとされている。さまざまな要因が絡み合い自殺にたどり着くのであるが、いじめだけでも死ぬ理由になってしまうのである。中高年に多い自殺の傾向は気が付かぬうちにうつ病を発症しその症状のひとつとして自殺をしてしまうである。責任の重い仕事を与えられ、家族をもち、家のローンに加え、経済の不況により、リストラの危機など多くのストレスや不安を抱え続け逃げることのできない状況がうつ病発症への道となってしまうのである。うつ病は本人自身も周囲の人間も気がつきにくい病気であると同時に、風邪と同様に誰にでも簡単にかかってしまう一般的な病気であり、心の風邪とも言われる。誰でもかかる可能性があるにもかかわらず精神科を受診している人の数は一握りである。なぜなら日本人にとって精神病というのは特別な病気であるという意識があり、精神科は敷居が高いところというイメージがつよいのである。これにより病気が進行して、いざ精神科を受診するときには社会復帰にかなりの時間を要する場合が大半である。精神科を受診する決意をした人間はまだよしにしろ、受診する前に自殺をしてしまうというケースも少なくないのである。いかにはやくうつ病に気づき早期に精神科を受診することが自殺を未然に防ぐ大きな第一歩である。高齢者の自殺の場合もうつ病からの自殺がもっとも多い。配偶者の死や一人身の寂しさからうつ病となり死を選んでしまうのである。このようにそれぞれの年代で一人では抱えきれないほどの不安やストレス抱え自殺にいたっているのである。では自殺を未然に防ぐためにはどの段階での処置が高い効果を挙げられるのであろうか。不安や原因、うつ病を起こす要因を取り除くことがもっともよいと考えられるが、社会で生活する以上ストレスや不安を受けないということはほぼ不可能であろう。不安やストレスを感じたときにいかにそれを放出し、中に溜め込むことのないようにすることが重要であると思う。そして性格上溜め込みやすい性格の人間は調子が悪いときは躊躇せずに精神科を受診すること、周囲の人がその敏感な変化に気づいてあげることが何よりである。うつ病になっても早期に対処をすれば社会復帰も早くなるのである。
自殺をするということはその人が弱いとか、その人だけが悪いわけではない。その周囲にいる人、そのような環境を与える人々。その人を取り巻く人々すべてに自殺を未然に食い止めることのできるチャンスがあるのである。自殺は病気である場合もおおいのである。周囲の人々の支えによって、そして当事者の勇気一つで何とでもできる場合が少なくない。うつ病を発症していなくても、経済的な理由やいじめなどの理由で自殺をしてしまう人にも生のチャンスは沢山あると思う。果たして死ぬことより辛い事というのはあるのだろうか。自殺を考えたとき一度冷静になって今の自分を見つめなおす必要がある。今の自分はうつ病の中にいるのではないか。本当に死んでしまってもいいのであろうか。誰もがそのようなことを考えられるようになり、気軽に精神科を受診できるようになったのであれば自殺の数は減るのではなかろうか。今後自殺の数が減るために人と関わるすべての人々が自分の事として考えていくことに期待する。