2003年5月書評
評者:榎本(5期生)
山田泰造[2003]『新キリン宣言』ダイヤモンド社。
ISBN4478312052
58×35=2032文字

 『キリン』と聞いて何を思い浮かべるだろうか。私は、キリンビールの麒麟のマークが不思議に思う。同じ商品を変わらず消費者に提供してくれる。かつてビール市場においてキリンは昭和40年代から何度も独占禁止法を適用されるほどのシェアが六割を超える常勝軍団であった。しかし、ライバル社であるアサヒが昭和62年「スーパードライ」を発売以後、キリンの凋落が続いた。ビール市場で王者であったキリンの衰退が続いた。ところが、2002年キリンは短期間で再びシェア首位のアサヒを11年ぶりに抜いたのである。危機的状況を乗り越え改革の出発点となった、2002年11月にキリンは『キリン宣言』を発表した。本書は、キリンの新戦略が書かれ、キリンの復活劇はどういったものかが分かるものとなっている。
まず、「キリン宣言」の内容をみていこう。
 一、 キリングループのあらゆる企業活動を今一度「お客様本位」「品質本位」観点から総点検し、それらが真に体現され、お客様に支持・信頼される企業グループへ生まれ変わる。
 二、 グループ中核事業である国内酒類授業の競争力を最優先課題とし、ビール・発泡酒を軸とした低アルコール市場におけるリーディング・カンパニーとしての地位を早急に奪回し、強固な経営基盤を構築する。
 三、 グループ各社それぞれに研究開発・製造をはじめと販売・物流・間接業務を含む各機能を向上させると同時にグループ間での共用、連帯強化を図り、常にお客さまに対して新しい価値を提案する。
 四、 けっかを恐れず目標に向かって先ず行動することを何よりも重んじる企業文化を構築する。また忌憚のない議論が新しい発想や行動を呼ぶ組織風土を実現する。
 この宣言書はもう一度原点に返り、「お客様本位」「品質本位」を掲げ、顧客に反応を大事にして行こうとキリングループ全体に訴えたものである。
キリンの約四割はビール市場で成り立っているが、ライバル者の対等や発泡酒・ワイン・カクテルなどの需要も増え、ビールの成長はあまり見込めなくなっている。そこでキリンはまず、「生態企業の再編成」を実行した。リストラを敢行し、国際競争に立ち向かう事ができる生産態勢が築かせた。そして、グループ全体を「コア事業」「コア関連事業」「多角化事業」の事業にわけた。コア事業というのはビール・発泡酒、洋酒、清涼飲料、食品が含まれる。コア関連事業は物流、エンジニアリング、外食、不動産の四分野である。そして、多角化企業は医薬、アグリバイオ、機能食品の三つである。キリンは食品企業だけだと思っていたのでとてもびっくりした。食品にこだわらず、色々な事業にたずさわっているのにはとても関心がある。その中でも、「多角化事業」医療事業はすばらしい。
 キリンはビールと共に売れ、我々の技術を活かせる多角化事業を考えた。ビール事業での不可欠の原料、酵母の育種に取り組んだ実績と遺伝子組み替えなどバイオテクノロジーに注目した。研究は抗がん剤と赤血球を増やす二つを設定し、いずれもバイオテクノロジーを応用したバイオサイエンスの分野である。キリンは大手バイオベンチャーと合弁会社を設立し、「エスポー」と呼ばれる、新薬を開発し、腎臓の機能低下により輸血を一生しなくてはならない50万人の患者を救ったという。キリンという企業からとても想像できない。この他にも、花の種苗とバレイショなどのアグリバイオ事業、機能食品である「ビール酵母」などがある。キリンの企業理念である、お客様の生活を豊かにし、健康に貢献したいという思いからであることは間違いないだろう。今後キリンの企業理念が当たり前となるだろう。
 キリンの復活において忘れてはいけないのは、もちろんビール・発泡酒の開発である。キリンには「キリンラガー」があったが、アサヒの「スーパードライ」発売以後、新商品開発に踏み切った。近年発泡酒が注目され、「麒麟淡麗〈生〉」が発売され大ヒットした。本来、発泡酒は味より値段の安さで消費者から注目されたが、この商品は安くてもうまい発泡酒の原点となる。以後、「極生」の発売により、発泡酒の価格改定問題も発生した。ライバル社と十円も値下げに踏み切り、味は損なわれないのなら安い方を買うのが普通だろう。本書にも書かれていたように、デフレが続くと安いのが当たり前になり宣伝にもならず、消費者である雇用労働者の賃金が減るなど、問題もでるため、簡単に価格値下げは行なってはいけないのである。もう一つ「氷結」の発売である。これまでのチューハイのイメージを覆すデザイン的にも、味にも新しい商品であり、新鮮なCMに驚いたのを覚えている。
キリンは、顧客の視点から改革を実行し、次々とヒット商品を生み成功を収めた。消費者の要求をいち早く満たし、生活を豊かにするための健康に貢献する企業理念は企業の誇りとして、他の企業も見習う事が必要である。今後の、キリンの新しい活躍が楽しみだ。