2003年夏休み書評(第三回)
評者:榎本(5期生)
田坂広志『これから知識社会で何が起こるのか』東洋経済新聞社
ISBN=4492501126
35× 67= 2244文字

 インターネットの普及により情報が溢れている今、私たちは何を学ぶべきなのか。たくさんの知識を持っている事が常識なのか、それとも資格を持っていることなのか。社会の常識とは何か、常識と言うものは変化するものだと考えたことの無かった私は、とても衝撃を受けた。本書の、今学ぶべき次なる常識というはなにかと興味を持ちこの本を選んだ。
現在世の中に溢れる常識は本当なのか。作者は、変化の激しい時代により、新しい常識は次々に生まれこれからの常識はすぐに古くなると述べている。その先の常識を読み新たな常識を身につけることである。これからは、知識社会が訪れ、競争の激しい時代に乗れ遅れないようにしなくてはならないのだ。私は、本書を読んで、次なる常識を見つけることは極めて困難であると思った。今持つ常識がすぐ古くなると言うことは柔軟な考えを持たなければならないだろう。しかし、次なる常識を生み出すことは、変化の激しい時代には一番必要な能力になるはずだ。
本書では四つのテーマから構成されており、それぞれに次なる常識が上げられている。
知識社会で活躍する「人材」「企業」「市場」「事業」とはなにかである。
 まず、一つ目は知識社会で活躍する「人材」の常識とは何か見ていく。現代の人々は、必要な「人材」は高度な知識を身に付けていることが常識であると思い込んでいると筆者は述べている。では、筆者のいう必要な「人材」とは何か。技術革新と社会開発の発達により、必要な人材もすぐ変わっていく為、単純に知識があっても意味が無いのである。そこで、職業的な知恵を身に付ける事が重要である。職業的な知識とは、スキルやセンスまたノウハウやテクニックなどマインドスピリットと言った言葉では語れない知恵を取得した人間こそが次なる常識となっている。つまり、普段の職場から得るものが多く、常に変化に敏感であり、柔軟な考えを持つ自立した人が必要とされている「人材」なのだろうと私は思う。成果主義の考え方に似ている。
 二つ目は知識社会で活躍する「企業」。今まで企業は情報システム幻想により知識管理が経営の常識と考えてきた。筆者は決してこの知識経営が間違いとは述べていない。企業で最新のパソコンの導入をすれば、情報化が進み世の中についていけると勘違いしている事がいけないと述べている。知識管理を進めていくには、情報システムの導入に始まり、組織のマニュアルに頼らずに普段から行う業務のプロセスが重要である。また、筆者は現在企業の情報囲い込みの文化を情報ボランティア文化に変えることも大切だと述べている。
企業の情報ボランティア文化とはなにか。本書では企業や職場のメンバーに自分の意思を伝え、身に付けたノウハウを教えるということである。また一人一人の心の動きを理解し目に見えない職場の文化に働きかけるということだが、私はこのことに疑問が残る。仕事がやりやすい職場の環境つくりということなのだろう。
 誰もが自分から進んで仕事が出来て、上司も部下の仕事をバックアップする関係が望ましく企業もフラットな組織が良いのである。
 次に、三つ目の知識社会「市場」と見ていくと、知識社会では先端技術を用いた高付加価値の商品が市場で売れると多くの人が信じている常識だが、これもまた遅れているのである。これからの知識社会で売れる物は、顧客のニーズを第一に考えた商品であり、また商品生態系に属していることである。商品生態系とは、人の住居で例えると大規模なマンションが建設されると近くに、学校や商店街または病院、スポーツクラブ、公園など快適な生活をしたいという顧客のニーズを中心に考えていることである。つまり、顧客中心市場へと変化しているのである。企業は顧客に対し、生活支援と生活提案もするサービスが普及していくという。私は、顧客中心主義ばかりの企業が増えることは嬉しいが、この先企業はますます負債を負うのではないか、またサービスにも限界があるので顧客中心にするのは難しいように思える。
 最後に四つ目の知識社会で活躍する「事業」は、本書によると多くの人が創造性溢れた起業家が作り出すと信じている。しかし、欧米に比べ起業家の数が少々少ない為、全ての事業を起業家に頼るというのは難しいとされている。日本でも、インキュベーション施設という起業家育成施設があるが、容易には新しい事業や産業は生まれてこないのである。
現在新事業を開発させるには、商品生態系を育てることそしてビジネス生態系をも育てることが必要になってくる。ビジネス生態系とは、企業人材・計画・資金・知識・施設の要素が結びつきのことで、地域全体に豊な生活を育てるのである。以上が本書の内容である。
 私はこの本を読んで次なる未来に向けて常識を考えるのは、とても難しいように思えた。まずは、自分自身を振り返り、行動一つ一つに考えを持ち、情報の流動化についていける柔軟な考えを持てば、日本社会も変わるのではないだろうか。この本で残念なのは、あまり具体例が無いので、今ひとつ説明不足のところがあった。私は、知識社会に向けて常識を考えるのではなく、その場の状況により判断した行動をすればいいと思う。作者のいう知識社会の大切な心得であるオープンマインドという言葉にはとても賛成である。情報、知識が溢れるなか自分自身の考えはしっかりと持ちたいものだ。