2003年7月書評(第2回)
評者:廣田(5期生)
高野光一[2003]『ソニーの決断』日経事業出版センター。
ISBN4891126043
54×35=1890字

 SONYと言えば誰もが知っている大企業だと思う。もちろん私も企業名だけでなく、CM等の広告もよく目にし、商品もいくつかは知っている。この本では、そのSONYが生み出した数々の商品が「どのようにして生まれたか?」「なぜつくられたのか?」そして、「その商品開発をしていく"モト"となるSONYのDNAとはどのようなものか?」ということが、現場でモノ作りに直接携わる人を通じて書かれている。
 冒頭に、今このモノが売れない時代、多くの企業は価格競争を繰り広げている。そんな中、SONYは商品の付加価値で勝負している。逆に言えば、それだけ付加価値の高い商品を市場に送り出しているから、価格競争に巻き込まれて収益を下げることがない。と書かれているが、これは常々、私が感じていたことと同じであった。買うモノの違いで多少考え方は変わるが、安ければ良いという事ではない商品もある。品質、価値観、ブランド力様々な要素が絡んでくると思う。ここで著者がいう付加価値というものは子供のお菓子についているオマケとは違う感じを受けた。お得感を消費者に与えるのではなく、他の企業とは圧倒的に違う、SONYのこの商品だから買うというブランド力。それだけ信用され、何か他とは違うものを期待する。そしてそれに応える。この流れを長年にわたり繰り返してきた企業の強みだろう。「人がやらないことをやる」これがSONYのDNA。これはこの後に数々のヒット商品の具体的な開発秘話が書かれているがそれを読めば納得である。
 「AIBO」これは最近では代表的な商品だろう。AIBOの開発秘話は今から20年前の第3次AIブームの頃、自律型ロボットの開発は難題であった。そんな中マサチューセッツ工科大学のブルックス教授が反射運動を中心にし、センサーの入力と行動のパターンを1対1で組み合わせて動かす6本足ロボットを作ったがこれも限界が見えた。その状況下に1993年SONYの土井常務が「全く仕事をしない、何の役にも立たないロボットがおもしろい、あってもいいじゃないか」というアイデアで開発に取り組み2週間後に1号機が完成した。そしていくつかの試作品を経て、AIBOは誕生した。SONYのロボット開発の中にみえる思惑は、80年代はパソコンが急速に伸び、90年代はインターネットが普及、2000年代最初の10年はロボットの時代であり、パソコンに手足がついたようなものがロボットで、そうする事により親近感を感じ、ロボットと会話を楽しみながら色々なことができる、この機能こそがロボットの価値だと書いてある。今では他企業もロボット事業に参入しているであるろうが、SONYの違うところはやはり、時代の5年後、10年後をみてどこよりも早く新事業を始め、遅れをとった事業ではオリジナリティを出し他企業と差別化し、時代の先端をいっている。遅れをとった事業の例は、VAIO。この商品も他では使っていないマグネシウム合金を外装に使用し斬新な商品になった。他にも、ネックバンドヘッドホン、suicaの中にある非接触ICカード、eコマース、プレイステ―ション、全てその分野のトップクラスの商品である。
 この本を読み、SONYのDNAというものがヒット商品を通じてすごく伝わってきたし、あらためて商品の名前を聞くと自分の周りにあるものがSONYだらけなことに驚いた。意識していなくても手にとってしまう商品を生み出している証拠だろう。ただ、機密情報なども多いのかわからないが、一般の人にも分かる範囲で説明しているのか、こんなに簡単に出来たの?という部分もあった。ただ、SONYという企業で働いている人たちの意識や会社の経営方針などは分かりやすく説明されている。終わりの方に、自分の会社をこうしていきたいというトップの明確な方針が最も重要であり、トップには環境の変化を見据える洞察力がいっそう求められてくる。企業としては、「1工場1芸を持て」と言い、他企業にたやすくマネされない技術、マネジメントをもて。と書かれているが、SONYはビジョンが明確に見えているからこそ先を見据えてモノ作りにはげみ、時代の先端をいけるのだなという感じを受けた。前半部分では収益よりもモノ作り。しかし、最後まで読むと、やはりしっかりとした経営戦略があることが分かる。この本はSONYの見えない努力を知ることが出来る一冊ではないだろうか。