2003年5月書評
評者:堀口(5期生)
トム・コネラン[1997]『ディズニー7つの法則』日経BP社。
ISBN4822240967
54×35=1890文字

 ディズニーのテーマパーク、映画、キャラクター商品は、多くの人々に愛されている。取引先企業には厳しい姿勢で取り臨み、顧客には優しいという、この奇妙な取り合わせは市場で大成功しているようだ。どこの企業でも、新たな顧客獲得よりリピーター獲得に躍起になっている。競争は激しくなる一方であり、近年では顧客の「引き止め」が非常に重要になっている。しかし、東京ディズニーランド入場者リピーター率は97パーセント、オープンから20周年を迎える今日まで毎年入場者数が1千万人を超え、そのほとんどが満足して帰っていく。経営不振の影すら見せることはない。サービスの質が成功の秘訣、会社が伸びるも伸びないも顧客サービス次第なのだ。ディズニーは顧客の心をとらえる為にいったい何をしているのであろうか。本書では、ディズニーの秘密を7つで表している。その、7つがとてもユニークで関心してしまうものが多い。まず、第一にあなたが興味ある企業のライバルを考えてみて欲しい。一見業種によって答えははっきり分かれているように思えるのだが、ディズニーは「顧客の期待を上げている企業なら、全て競争相手になる」「すべての企業が顧客満足という土俵で勝負している」と考えているのだ。確かに接客態度が悪いお店には二度と行きたいと思わない。それは顧客対応という点で、比べているからなのだ。第二にディズニーは細部にこだわる事が企業文化になっている。ゲストが魔法にかかったような体験をするためである。なんと、パーク中にある馬をつなぐ杭でさえ、天候や気温などを気にしながら毎日塗り直しているというのだ。建物設計に始まり全てのアトラクション、全てのホテル、全てのショップの隅々まで顧客(ディズニーではゲストと呼ばれている)に喜んでもらう為、細心の注意が払われていることには頭が下がる。第三にディズニーの人間は肩書きやポストにこだわりがなく、みんなが落ちているごみ拾う「ごく当たり前の事を実践する」のだ。こうした些細な事が全員の気持ちをひとつにさせるのだ。口先だけの顧客ロイヤリティーとは違うのだ。第四に、ディズニーはゲストの為なら、どんな事にも全力をあげ、最善を尽くすという事をキャスト(ディズニーの従業員はこう呼ばれている)にわかってもらう為に驚くべき事をしている。一つ例を出すとメリーゴーランドに塗られている金色は本物の23金が使われているのだ。そんな事は大抵の人は、気づかない。園内の隅々まで気を配る事というディズニーの伝統により、キャストの心構えが変わるであろう。それがゲストの為であることを思い出させてくれるのが純金なのだ。第五にディズニーは、顧客満足調査にまで、さまざまな工夫がなされている。調査には楽しい気分に水を差さないようキャラクターを使い、まるでそのキャラクターと話している様な錯覚をさせる。そういう工夫をするからこそゲストも真剣に答えるのだ。また、ゲストの声を聞き取る為、全てのキャストの耳が情報アンテナになっている。一日に何千回、何万回と接しているキャストからの情報はマーケティング上一番の情報源になってくる。第六にディズニーは、「人間は自分が扱われているように他人を扱う」「従業員の満足度と顧客満足度は切っても切れない関係にある」事から、経済的収入とは別に人間の根本的な願望のひとつである心理的な収入という、賞賛や激励の言葉・表彰式やパーティーなどをキャストの為にしている。中でもユニークなものはキャストが互選で候補者を選ぶ"ディズニー・スピリット賞"なるものがある。花火が夜空を舞い、ダンスが色を染めるセレモニーだってあるのだ。みんなで助け合って高め合っていこうとすると士気があがり、チームの結束も高まるのだ。第七にディズニーは、誰もがキーパーソンという言葉がある。言葉の通りなのだが、全員が一人残らず大きな役割を果たしているという意味だ。また、100―1=0という言葉もある。どうして、そう感じるかという事は、上の6つを一目瞭然であろう。些細なことでも怠ると、本当の顧客満足という魔法がかけられなくなるのだ。魔法がかけられなくなると、天下のディズニーにも終わりがくるのだ。
 この本を読めば、新しい視点からお客さんのニーズを考えることができるようになる。ここで得た教訓をどういかすか。幸運が重なるのを待っているだけでは、顧客の満足は得られない。周到に計画し、緊密なチームプレイで水を漏らさぬサービスを提供してはじめて顧客から喜ばれる。まずは、手近なバイト先で実践してみてはどうか。顧客が比べるすべての企業が競争相手なのだから。