2003年7月書評(第2回)
評者:堀口(5期生)
中谷彰宏〔1997〕『ホテル王になろう〜人を喜ばせる天才たち〜』オータパブリケーションズ。
ISBN4-900297-33-X
62×35=2170字
なぜ、この本を私が手に取った理由は、表紙のサブタイトルに、「人を喜ばせる天才たち」、オビには、「一度ホテルで働けばどこへ行っても成功する」と書かれていたことによる。ホテルで働いていて人を喜ばせることが好きな私は、今の私にとって最高の本なのではないだろうかと思い、また、一流ホテル名を目にしたので、興味を持った。ホテル「人を喜ばせる天才。」「サービスは、ホテルに学べ」という言葉に轢かれ、確かめてみたくなりこの本を選んだ。
本書は著者が、以下の7人の為に書いた本である。1人目は、これからホテルに就職しようと考えている人。2人目は、ホテルに就職したけど、このまま続けようかと迷っている人。3人目は、今はホテル以外の仕事をしているが、ホテルに就職しようかと考えている人。4人目は、部下にホテルってこんなに面白いと職業だと教えたいホテルマン。5人目は、ホテルが好きで、ホテルに泊まることを最上の幸せを感じているお客さん。6人目は、ホテルに限らず、あらゆるサービス業で働いている人。そして最後は、ホテルで働いていなくても、仕事すらしていなくても、夢を持って、人生に立ち向かっていこうとしている人。その様な人々に送る本の様である。
本書には、総計23名のホテル王が登場する。著者のいうところのホテル王とは一体なにを指しているのだろうか。著者は、「ホテル王というのは、総支配人になるだけのことではない。ドアマンにも、ベルボーイにも、ウェイトレスにも、靴磨きにも、ホテル王はいる。ここに登場するホテルマンたちはすべて、ホテル王である。ホテル王とは、ホテルを愛し、ホテルを訪れる人を愛した人なのだ。」と述べている。
確かに本書には、様々なホテルの様々な仕事を中心に描くのではなく、働く人間のそれぞれのドラマを中心に描かれている。ホテルでは、あらゆるドラマが起こる。1990年に放送されていた連続ドラマ「ホテル」、一度でも見た人には、名セリフ「姉さん事件です」「申し訳ございません」と、極度に腰を曲げて謝っている俳優の高嶋政伸さんを思い浮かべるであろう。事件事件と、そんなに事件が起きるのかと当時私は思っていたが、本書を読んで納得したものである。みなさんは、ホテルという言葉を聞いて、どのようなイメージを思い浮かべますか。なんでもやってくれる、聞いてくれて当たり前という風に思うのではないだろうか。それは、どのサービス業より、評価の目が厳しいのではないのでしょうか。ホテルマンは様々な人間がいる中で、様々なお客さんのニーズに答えなければならないのだ。
私はあまりホテルに泊まったことがなく、様々な役職の方々に出会った経験がないのだが、記憶に留まらないほど、物事が円滑に進んでいたのかとも思う。現在では接客はホスピタリティの時代といわれている、お客さんに違和感を与えさせない、気持ちのよい接客はどのような職種でも必要とされている。しかし、高級なホテルに泊まり、その様なさービスを受けたことがない私にとっては、はっきりとしたイメージが沸かない。本書には、一度顔を見たら車のナンバーさえも忘れない伝説的なドアマンの話があるが、実際、車でホテルに行った事がない私にとってそのようなサービスを受けたことがない。
しかし、本書には、一度覚えた顔を忘れないドアマンや、お客さんがスーツケースの鍵を忘れた時も鍵を開ける事が出来るベルキャプテン、他のホテルに泊まっているお客さんにでもサービスをするコンシェルジュや、海外から靴を磨いてもらいにやってくるお客さんを持つ靴磨きや、メニューの見方で予算を把握するウェイターなど、様々な人々のサービスの仕事とはなにか、というそれぞれの独自の哲学が書かれていて、とても参考になった。その哲学というのはときには、まちまちでありながら、ある一点で共通していた。それは、お客さまを喜ばせることが、自分の喜びであるということである。あらゆるサービス業に応用が利く話であり、サービスの根本的精神が描かれている。
著者は、「ホテルとは、一生を掛けることに値する仕事だ。この本を読めばホテルが情熱をかけるべき対象であることや、ホテルで働いている人の情熱を知れば、よりホテルに愛着がわきホテルを楽しむことができるであろう。」と述べている。
ホテルの仕事は決して楽ではないと思う。思い通りにならず、怒り出すお客さんの方が多いだろう。それはホテルに対する期待であり、当然だと思う気持ちが強い。お客さんも同じ人間のだから嫌な顔をひとつせず、こなしてくれるホテルマンに感謝すべきだろう。でも、その感謝の気持ちどころか、当然だと思ってしまうお客さまの心理、そのわがままな、自宅でしか出さない面も出てしまう程リラックスしてしまうのではないだろうか。
リラックスしてしまう、わがままを出してしまう、それは紛れもなくホテル王のおかげなのではないだろうか。私は本書に登場したホテル王のサービスを受け、ぜひとも満足したいと思った。