2003年夏休み書評(第3回)
評者:堀口(5期生)
野上暁+グループM〔2003〕『ファンタジービジネスのしかけかた あのハリーポッターがなぜ売れた』
講談社+α新書ISBN4-06-272205-4
62×35=2170
「ハリーポッター」この人物の名前を耳にしたことはあるだろうか。世界的ベストセラーとなったファンタジー小説シリーズの主人公の名前である。ハリーポッターは「ハリポタ」や「ハリポ」と略称され、子供のみならず若者や女性たちのあいだにも広範に浸透し、なぜこの作品がこれほどまでに爆発的なブームをまき起こしたのか。本書では、それを多面的に考察することからハリポタブームがまき起こった経緯を丹念にたどり二十一世紀初頭におけるファンタジービジネスの成功の秘密と、ファンタジーの行方が解き明かされている。第一章では、驚異のベストセラーがどのようにつくられたか、その経緯をたどり、第二章では、本国イギリスでの経過や欧米諸国での作品的な評価が記されている。第三章では、ハリポタに先行して世界的に大ヒットしたポケモン、すなわち「ポケットモンスター」とキャラクター的魅力や特徴を比較することによってファンタジービジネスの現状をたどっている。第四章では、ハリポタに象徴される昨今のファンタジーブームに登場した海外の翻訳作品郡の多くを、従来のファンタジーと区別して、「ネオ・ファンタジー」としてとらえ、それを中心としたビジネスキーワードとしてのファンタジーの可能性についてふれながら、ハリポタブームの遠因を日本のサブカルチャーとの関連に解き明かされている。
第四章、ここが私のわかりやすいと思った個所であり、注目していたところでもあった。著者は日本のサブカルチャーとの関連、つまり、ハリポタの世界的な圧倒的人気の下地は日本のサブカルチャーが築きあげてきた。そこには、1983年に日本で発売されたテレビゲーム機ファミリーコンピューター(ファミコン)とそれを舞台に登場してきたRPGの影響を見逃すわけにはいかないと述べている。つまり、ハリーポッターは従来のファンタジー作品とは異なり、RPG要素が加わり内容がわかりやすく感情移入をしやすく、そのため大ベストセラーになったのだろう。学校でブームになり、読み終えたことを自慢し、まるでゲームを終わらせた感覚に近いという点。読書というのは、その魅力にとり付かれると次々と違った読書体験を求めて、その意欲は持続するものなのだが、ハリポタはなかなかほかの本には転じない。ゲーム的RPG的読み方だったことが伺える。ドラゴンボールやポケモンなど、日本の漫画が全世界に人気があることはご存知であろうか。この漫画は欧米を初め、ヨーロッパや中国、カナダなど世界中で大ヒットしている日本を代表するファンタジー系アニメだ。そのようなファンタジーを慣れ親しんでいる日本の人々のもと、ハリーポッターが登場し大ヒットしたことを考えるとこの作品が圧倒的な人気を得ている秘密も理解しやすい。
また、著者は現実には存在しないもの、見えないもののイメージを浮上させ、そこでの精神の解放を楽しむファンタジーに対する欲求の増大はまた、不安定で先の見えない現代の大衆心理を象徴しているようであると述べている。まさにその通りだ。そこにファンタジービジネスのビジネスチャンスがあると言える。私は大好きなディズニーを思い浮かべた。著者も、ディズニーランドやディズニーシー、ユニバーサルスタジオなどの圧倒的な人気にも重なるのではないか。人々はそこに現実を超えた夢の世界としてのファンタジーワールドを見てひと時の安らぎを得るのではないだろうか。そこで現実では、見ることのできない、夢幻的な世界に浸ることができるのであろうか。ファンタジーは現代人の心象にアピールするキーワードとして、マーケティングやビジネスの現場でも様々に消費されているのだと述べている。
また、ハリーポッターの記録的大ヒットは決して偶然ではなく、日本のテレビゲームやアニメやマンガというサブカルチャーが世界中に浸透し、人気を得ていた現状をもっと的確にしかも巧みに活字世界に置き換えた作者の企みが成功したのだ。ファンタジービジネスの動脈はまだまだ、膨大で、十分には掘り起こされていない。日本のサブカルチャーの現在を詳細に検証してみるならば、大きなビジネスチャンスがたくさん埋もれていることに気づくはずである。それを掘り起こし、アレンジして商品化する才覚がいまこそ求められているのだと述べている。
本書を読み終え、最後の四章のみで私は満足した。第一章から第三章までは、特に必要がないと思える程飽きてしまったからだ。特に、第二章の宗教問題と盗作疑惑というエピソードは、出版業界では読み手という大切な顧客の声としては必要かもしれないが、ファンタジービジネスの成功のしかたという点では参考になる程度でそこまで長々と綴る必要はないのではとさえ思ってしまった為省いた。ファンタジービジネスの動脈は膨大だという言葉に、ハリウッドがドラゴンボールを実写版で映画化をするという話を思い出した。精神の解放を楽しむファンタジーに対する欲求の増大は、これからのビジネスチャンスであり、アミューズメントタイプのレストランなども増え人気を得ている昨今では、どの様な業種に対してもファンタジー要素は必要になってくのではと感じた。