2003書評(第4回)
評者:堀口(5期生)
森永卓郎〔2003〕『「B」で生きる経済学』中央公論新社。
ISBN4121501004
28×35=980文字

 Bで生きる。題名から読み取れることは、欲望も出さずただ平凡に生きるといったところであろうか。私は、B=負け犬,貧乏,などマイナスのイメージを思い浮かべる。しかし、著者は"Bで生きる"ことこそ、これからの人生において、幸福で充実した人生を送るための"キーワード"だというのだ。これは、一体どういうことなのか。本書のテーマは、「サラリーマンが幸せに満ち充実した生涯を送るための哲学と方法」であり、具体的に提示している。
 一章では、小泉内閣が掲げる構造改革により変化するこれからの日本のサラリーマンの年収について書かれている。いままでの年収の3階層に分け、多い順にABCとわけるとA=年収1000万以上、B=300万〜700万、C=100万以下、さほど差はない。しかし、高度成長以後の日本の社会を形成してきたこれら「終身雇用、年功序列賃金、退職金」の階層モデルが今、変化の時代に来ている。著者はこの再階層後の年収をA=3億円以上、B=300万台、C=100万台と予想し、この超階級社会化こそ、迫り来る大変化の最終的な姿であるとしている。それは、3年後に定着してしまうことが根底にあり、その後の2〜6章は、「Aで生きることの悪さ、Bで生きることのすばらしさ、Cで生きることの余裕のなさ」を対比し様々な事例により、今後のサラリーマンにはBで生きることがいかに素晴らしい選択かを説き、繰り返し述べている。そして、その様なそこそこの幸せを手に入れる為、作者のいう、「三大不良債権」(@専業主婦、A子供、B家)の処理の仕方が細かく提示されている。専業主婦はパートタイマー、私立の学校へ行く子供は公立の学校、家は購入から賃貸、など、これらの変化がどの様に幸福へ繋がるという提案が事細かく書かれていたので、家購入派の私もつい納得してしまう程だった。
 お金や地位や名誉は手に入れたいという思いは誰しもが持っているはずだ。しかし、24時間営業のコンビニ並に働き、自分の時間はなく、人間としての幸せを感じられないのであれば、年収は低くとも幸福でいられるBという生き方の方がより素晴らしい。しかし、本当にその様な時代が来るという確信がなければ、今全てを信じてはいけない。柔軟に構え、どの様な時代にも対応出来る様にしておくことが本当は一番大切なのではないだろうか。