2003年7月書評(第2回)
評者:飯田(5期生)
石原久美〔2003〕『高く売れる人 タダでもいらない人』KKベストラーズ。
ISBN4584159661
35×60=2100字
ついこの間までは、仕事ができようができまいが、それほど大きな問題ではなかった。ゆりかごから墓場まで、社会が、会社が、何もかも面倒をみてくれたからだ。時がくれば昇進し、昇給し、家を計画的に計算して買えた。世の中や会社という“体制”に従順にしたがっていて何も悪いことはなかった。むしろ、自分でちょっと考えて動いてみることのほうが、周りと違っていけないような雰囲気すらあった。そのような時代にもちいられていた、終身雇用、年功序列といった制度では現代の企業経営は難しくなってきている事実がそこにはある。今までは先ほども述べたように、社会、会社というレールを走っていればよかった。しかし、これから私たちは自分自身でキャリア作りをしなくてはならない。では、私たちはどのように自分のキャリアを構築していくべきなのか。筆者は述べている。「フツーのことをフツーにしたり、ここぞと思ったときにあきらめず、ねばっこく一途に頑張ってみる・・・。そんな小さななんでもないことが、視界を拡げてくれる。新たなる世界の扉を開いてくれる。」とても当たり前のことだが、一番大切なことだと共感できる。本書の筆者は人材発掘のプロである。そのため、いろんな人物と出会っている。その中で筆者はヒトを見る目を日々、磨いてきた。その筆者が考える、高く売れる人、タダでもいらない人。私たちは、筆者が言うことに耳を傾け、自分のキャリア作りにおいて考えるべきだと私は思う。
私のヘッドハンターという仕事の印象は優秀な人物、即戦力となる人物だけを対象にしたものだと思っていた。だが、実際はヘッドハンターとは、転職したい人の仕事の斡旋なども行っている。また、人材をある企業から引き抜き、別の企業へ紹介して、そこでお金をもらい、「はい。さようなら。では、頑張ってくださいね。」で終わりではなく、その後の、人材から仕事はうまくいっているかなどの相談を受けたり、企業に対しても、紹介した人材とすばらしい関係を築けているのかなど、アフターケアーの重要さを筆者は述べている。ヘッドハンターからしたら、たくさんの仕事の中のひとつかもしれない。だが、転職する側は人生において重大な事件である。いきなり、スカウトしに現れ、「ある企業があなたの力を必要としている。是非、力になって欲しい。」とでも言いながら口説かれても、そこにはひとつひとつの人生があり、家庭もあるだろう。それをないがしろにされてはたまったものではない。だが、筆者はヘッドハンターという仕事をするにあたって、一番重要視していることは人材の方々が素敵なキャリアを送ることができることだと言う。
そこで、筆者が相手のどこをみて、その人がどのような人物であるのかという判断の仕方が興味深い。ここで、筆者が仕事のできる人として出したいくつかの例の中からひとつ挙げてみたいと思う。今や時の人となった日産の社長にしてCEO(最高経営責任者)のカルロス・ゴーン氏。1999年、日産とフランス・ルノーの提携により、彼が日産のCOO(最高執行責任者)に就任した。ここで、筆者が注目しているのは、ゴーン氏の招聘を決めた、当時の塙義一社長の決断力である。限られた時間、情報量、経営資源の中での即決。成果を見れば、行動するではなく、時には、リスクを犯してでも決断しなければならないことがある。そこで、決断できる人、できない人。そこには大きな差がある。だから、できる人を目指すのなら、思い切って、熟慮した上で英断を下すことが出来る人物になる必要があることの重要さを述べている。このことは、興味を引くには良いのだが、もっと身近な例を出しても良かったのではないのかと少々残念である。
現在、一生ひとつの会社でキャリアを終えようとしている人はどれだけいるのだろうか。総務省によると、転職希望者は労働者全体の一割に当たる650万人もいるそうだ。転職は本当に誰にとっても身近な存在になった。文頭にも述べたが、私たちが素晴しいキャリア作りをするには、自分の能力を上げる必要がある。だが、筆者が述べることは資格を取れだの英語を話せるようになれだのではない。一番重要ことは、人間的に素晴らしい人になることだと筆者は述べている。仕事ができる人間は多くの人間がそうであると。本書は、たくさんの実例を引き合いに出し、わかりやすく説いてくれている。それを参考にしながら、自分の中で意識的にいい方向に変えていくことができれば、私たちはキャリアだけではなく、充実した人生を送れると思う。