2003年7月書評(第2回)
評者:北沢(5期生)
岩田昭男[2002]『ビジュアルシンキング仕事術〜図で考える!発想する!〜』扶桑社。
ISBN4594038212
76×35=2390字
ビジュアルシンキング…一見聴いた事がないような言葉だ。簡単に言えば、図を使って考えるということだが、21世紀はビジュアルシンキングのできる人が持て囃されるだろうと著者は言っている。それはなぜか?その背景にあるものとは?
90年代に入り、社会はパソコンやインターネットの普及に代表されるように、情報化の時代へと突入した。社会はそれまで重視されていた日本独特の秩序や連続性よりも、なによりスピードを求めるようになった。そこで著者が注目したのがビジュアルシンキング、つまり図を使って全体を把握する方法だ。確かに、図を使えば理解が早くなる。例えば、皆さんが難しい本を読んでいたとしよう。内容的にも文章的にも難しい本なのでなかなか理解できずにいる…。しかし、その文章の隣にその内容を表した図があったとしたら、途端に文章が鮮明になり、いち早く理解できるのではないか。逆に言って、皆さんが図を作る場合はどうであろうか。本を読み終えて、いきなり図を書く人などいない。内容を把握し、全体像を整理してからでないと図というものは書けないからだ。つまり、図を使って考えるというのは全体像を正確にかつ速く理解できる、もしくはできているということなのだ。それだけでなく、全体像を把握しているので次のステップ、例えば解決策、発想などを考え出すことも可能だ。この考えをビジネスに生かそうという考えが著者の主張するビジュアルシンキングだ。著者は言う、スピードが求められる現代社会では、美しい文章のビジネス文章よりも、要点を抑えた図のほうが使える、と。前置きが長くなってしまったが、本書はあらゆる図を使ってビジュアルシンキングを身に付け、その能力を高めようというものだ。では、著者が考えるビジュアルシンキングの全体像とは何か?
本書の中で著者はビジュアルシンキングの全体像を以下の4つの作用として捉えている。
一、 図で説明する
二、 図で問題を解決する
三、 図で発想する
四、 図で癒しを得る
最初にある「図で説明する」では、図を使う事は全体像を説明するのに最も適した手段であり、また、図は正確かつ速く理解できるものだということ改めて主張している。著者はここで、状況に応じて最も適した図を紹介するため、図をグラフとチャートの2種類に分け、さらに、そこから「内容」「推移」「比較」「手順、段取り」「相関」「構造」「整理」の7つのカテゴリーに分けている。例えば、「内容」は円グラフや帯グラフ、「推移」は折れ線グラフ、「手順、段取り」はフローチャート…など。
次に「図で問題を解決する」。これは、図を使って問題点を明らかにし、解決策を提案するというものだ。そこで、著者が示した具体的な方法は、図の中で図形や矢印を使い、それぞれの位置関係を明確にさせるというものだ。この図に則して考えれば、互いの関係がわかりやすくになるので、問題点が明白になるだけでなく、解決策も浮かびやすくなるのだという。さらに、著者はここでも、あらゆる図形や矢印を紹介している。例えば、太線、点線、二重線、四角形や円…など、それぞれの図形や矢印に役割を持たせ、状況に応じて使えるように説明している。
ここまで本書を読み進めると、図がいかに性格かつ速く理解できるものだということがわかる。しかし、ここまでの内容は、書店でよく売られている「図解説明書」となんら変わりがない。本書の最大の特徴は次の作用にある。
3番目の「図を使って発想する」は、タイトルの通り、図を使って発想、発明ができることを紹介している。歴史上、天才と呼ばれた発明家や学者の発明はビジュアルから考えて生まれている場合が多いのだという。例えばそれは、リンゴが木から落ちるのを見てヒント得たニュートンの「万有引力の法則」であったり、世界地図を見てひらめいたウェゲナーの「大陸移動説」であったり。しかし、これらの発想法は自然をヒントとしているので、身の回りに本当の自然がない現代には不向きだと著者は捉えている。そこで、著者が考え出しのは、現代の身の回りに転がっているメディアの中の情報をヒントとして考える発想法だ。ここでは、様々な例を用いて説明しているが、特に顕著な例として「ドラえもんのひみつ道具」を紹介している。例として、「どこでもドア」の機能をインターネットとして捉えたり、「翻訳コンニャク」を翻訳ソフトとして捉えたり、「テレビとりもち」の機能をTVショッピングとして捉えたり。すでに実現してしまったものが多いが、「ひみつ道具」の機能を一ひねりすれば、まだまだ新しいビジネスモデルを発想する事が出来ると著者は主張する。
最後に「図で癒しを得る」ということで、忙しいビジネスマンにとって図で癒しを得る事を薦めている。本書の中の例としてある竜安寺の石庭や、紙に自分の好きなように島を描いて自分だけの楽園を創造することなど、図を使って癒しを得ようと主張している。以上で本書は内容を終えている。
本書を読み終えてみると、今まで「あの人は頭の回転が速い」と言われていた人達の本質がわかるような気がする。本書の中にも書いてあるが、私たちの中には「思考する」「発想する」というと「文字」や「文章」を使って行うものという考えがあったかもしれない。しかし、頭の中で図を使って、あるいは図をヒントにして考えるようにすれば、正確かつ速く考え出す事が可能になる。本書の構成も、読者が読みやすく理解しやすいように、一つ一つの説明ごとにあらゆる例を、図を使って説明しているので実に興味深い。図の使い方や発想方法だけでなく、自分の思考方法を確認する意味でも充分使える一冊である。ただ、最後の「図で癒しを得る」の内容はいかがなものであろうか。自分だけの楽園を紙に描いて癒しを得ようというのは、逆に寂しく感じてしまい、むなしくなってしまうのでは…。