2003年12月書評
評者:北沢(5期生)
梅森浩一[2003]「『クビ!』論」朝日新聞社
ISBN4022578491
35×29=986字
長引く不況の中でリストラの時代と言われている今日、日本の雇用情勢は深刻な状況にある。そんな時代の中、発売されたこの本は、『「クビ」論!』とかなり強引なタイトル。さらに、本に付いている帯には「私は1000人のクビを切りました」とまで書いてある。本書はリストラの厳しい現状や、企業がどのようにクビ切りをすれば業績が上がるのかという内容が書かれている本である…と思いきや、その予想は大きく裏切られることになる。著者は言う―「正しいクビ切りの本質は『人材の流動化』と『実務の効率化』につながる。正しくクビを切れば企業は息を吹き返し、クビを切られた社員も以前にも増してやりがいをもって働ける」。著者の言う「正しいクビ切り」とは一体何なのか?
外資系企業の人事部長を歴任、「日本企業と外資系企業の『クビ』は異なる」と指摘する著者の話は、1000人のクビ切りや、日本企業と外資系企業との文化の違い、クビを言い渡すときのテクニックなど、私達がイメージする日本企業のリストラとは全く別の世界の話である。本書を読んでいると実にサバサバとした印象を受けるが、それでも、「正しいクビ切り」と言い切れるのは、著者の2つの信念から成っているからだ。
1つは、外資系企業がまさにプロとして人材を見ているということ。「外資系企業の中では評価は絶対であり、『今、業績を上げているか』『いかにプロとして働いているか』が評価の基準となる」と主張する。
もう1つは、クビ切りを人材の流動化として捉えていること。「転職をしたら損をするような社会や制度の改革を進めて行かなければ、この国に未来はありませんよ、と私は言いたい」と著者が指摘するように、外資系企業ではクビは日常茶飯事であり、またそれをチャンスとして受け止めることもできる。 本書の中での著者の主張は、辞めさせたい社員を辞めさせ、残したい社員を残す外資系企業のクビ切りをしなければ、人材の活性化は生まれないということだ。早期・希望退職制度などを行っている日本企業のリストラと比べれば、かなり強引な意見かもしれない。しかし、現在の置かれている状況を考えれば、日本企業が外資系企業から学ぶところはたくさんある。本書を読んで、改めて人を活かす雇用とは何かということを考えさせられた。多くの日本企業の方、特に雇用の権利を握る経営者に方々には、ぜひ本書を読んでいただきたい。