2003年12月書評(第4回)
評者:松島(5期生)
出馬幹也[2002]『給料の上がる人、上がらない人』東洋経済新報社。
ISBN4492041664
35×28=980字

 「米を毎日食べることが当たり前になった日本人にとって、今さら粟や稗を食べる生活には戻れないのだよ。」これは本宮ひろし著『国が燃える』の中で後に外務大臣になる松岡洋祐が満州不要論を唱える主人公の本多勇介に対して言ったセリフなのだが、私はこのセリフを読んだ時に妙な共感を覚えた。たしかに人は自分にとって満足なライフスタイルなり環境を一度味わってしまうとその生活を必死で維持しようと努力するし、ましてやそれより下の生活水準に落とすことには必死で拒もうとするだろう。バブルという甘く夢のような時代を経験したサラリーマンにとってはなおさらである。しかし多くのサラリーマンが当たり前と信じ、生活設計の前提にしていた、「終身雇用」「右肩上がりの賃金」といったいわば伝統的な経営方針が崩壊して、「成果主義」「能力主義」を導入している企業が増えている現状を見ると今までのぬるま湯的な考えを正さざるを得ないだろう。会社におんぶに抱っこしてもらえるという考えを捨てる必要がある。
 本書は、上記のような今まで常識だと考えられてきた日本的雇用制度が崩壊する中で未だにノスタルジーに浸っている人々が成果主義の時代を幸せに生き抜くためにはどうしたらいいのかを20のヒントで指南している。著者は富士ゼロックス総合教育研究所にて企業変革支援事業の部門責任者を務めている。富士ゼロックスといえば成果主義を実践している企業として有名で、ゼミの教科書にも度々成果主義の例で登場してくるいわば成果主義の老舗的企業だ。それだけに筆者の成果主義における会社と社員のあり方の説明はわかりやすく、説得力がある。しかも筆者が主張していることはごく当たり前のことである。例えば、明確なキャリアプランを持たない人は成果主義の中においては不幸になるなど。
 大した苦労もせずに成果が得られた時代の幻影を追いかけるのではなく、高度経済成長時代やバブルに踊っていた頃にはバカバカしく感じ、真剣に検討もしなかったことを一から見直すべきなのではないだろうか。それが会社にも自分自身にも眠っているたくさんの可能性を呼び覚ます最良の手段だとこの本は我々に訴えかけている。