2003年書評(第1回)
評者:望月(5期生)
大前研一[2001]『やりたいことは全部やれ!』講談社
ISBN406210837
54×35=1890
どんな人生を送りたいか。誰でも一度は真剣に考えたことがあるだろう。とてもシンプルな質問だが、現代社会人の大多数が答えられないというのが現状である。それは親のいうとおり、先生のいうとおり、上司のいうとおり「他人の期待する人生」を生きてきたからである。「他人の人生」ではなく「自分自身の人生」を送る、人生の最期に後悔はないと思える生き方をするためには、やりたいことはすべてやってみることから始まる。本書では、著者が自分のエピソードの中から独自の人生論を語っている。
著者は学生時代、9年間原子力の研究をした後、全く関係のない経営コンサルティング会社マッキンゼーに入社し日本支社長を歴任。テレビ番組を企画・製作・出演し、さらに外国で大学の講師をしたことがあるという経歴の持ち主である。また、都知事選にも出馬し、惨敗した苦い経験もある。しかし「自分にはむいていなかったのかもしれない。気を取り直して新しいことをやろう。」というこのポジティブ思考が筆者独特な考え方のひとつであり、好奇心旺盛な私にとって、非常に好きな考え方である。
マッキンゼーで様々な企業を見てきた著者は、何人もの社長が「引退したら自分のすきなゴルフや釣りをしてのんびりと暮らしたい。」などといっていたにもかかわらず、誰一人実現していないことを嘆いている。理由としては、円満退職とならずに途中で失意のもとに引退する、予想だにしなかったことが起こり、たまたまトップにいたため責任をとって辞職するというケースが結構あるということだ。他には、働きすぎで急逝してしまう、高齢になっても引退できないというパターンも挙げられる。幸いにして引退できたとしても、ゴルフや釣りなどは、忙しい日常のなかで非日常的なことをするから楽しいのであり、「そのうちにやりたいこと」は今やらないと実現しないのだ。確かにやりたいと思った瞬間にやらないと、何かにつけて理由がうまれ、後回しになり、結局やらない。よくあることである。「やりたいことは今すぐにやるべき」なのである。
また、「どうせやるならとことんやるべき」だと述べている。筆者は経営コンサルタントとして、ヤマハの川上さんが戦後もっとも凄い経営者だという。戦後間もない頃に、レジャー産業を興そうという発想がわくこと自体すごいものである。また世界中から自ら木を集めてきて、試行錯誤し、合計一万六千通りもの変数を調べ上げもっとも美しい音のピアノをつくりあげた。さらにすごいのはここで終わらなかった点だ。高価であるピアノは当時の貧乏な日本家庭には入らない。そこで、子供が生まれるとすぐに毎月数百円ずつ回収し、貯金するシステムを考えた。子供が4歳になるとヤマハ音楽教室に通わせ、卒業する頃にはピアノが買えるくらいのお金が貯まっている、というものである。戦後にして、現在重要視されている顧客満足を重視した経営戦略を見事に成功させているのだ。まさにこれこそ、すぐにやり、やりたいことにとことん取り組んだことが成果につながっている例だといえる。
もうひとつ筆者がつよく主張しているのは、人生おおいに寄り道、わき道、回り道するべきだということである。人生は長い。何度でもリセットできる。だからこそいつかのためではなく、今を楽しむべきなのだ。仕事以外にも旅行や趣味など、遊びを通じても勉強になることや、得るものはたくさんあるのである。これを実証するように「世界を知る」「旅に学ぶ」「愉快な仲間たち」「死ぬほど遊ぶ」など本書の半分以上である4章にわたって、著者の旅行エッセイなどが述べられている。
自分の人生とはやりたいことをやり、自分の意思で決めていくものである。自分が「やりたいことをやる」ことができたら、人生の最期に私の人生は充実していたと思える生き方に近づくと思う。しかし著者は、ある程度の経歴があり、自分に自身があるからここまで自由に生きることができるのではないか、とも思う。私が数年後職についたとき、お金も保証もなくして、どの程度自分やりたいことができるのであろうか。しかし先のことばかり心配しても仕方がない。だったら私は今、大学生という自分の時間をおおいにつかえる時に、やりたいことをひとつでも多く見つけ、挑戦していこうと思う。読者に前向きな姿勢にしてくれる、そんな本である。