2003年夏休み書評(第3回)
評者:望月(5期生)
櫻井 稔[2001]『雇用リストラ』中公新書。
ISBN4121015762
35×52=1820。
毎回のように社会問題として取り上げられている雇用問題。バブルの崩壊とともに終身雇用が絶対とされていた社会も終わりを告げ、企業の存続も雇用の存続もリスクフリーではありえなくなった。雇用リスクの顕在化した結果としての雇用リストラはどのように行われたのか。リストラに対する社会ルールはどうあるべきなのか、様々なリストラ策が挙げられている。それらの手段にはすべて、マイナスの要因を伴うことはさけることができない。本書にはその実情と、問題点が分析されて書かれている。
企業業績の悪化が進むと、雇用調整策が実行される。それは、「採用の停止・抑制」や「賃金カット」、「希望退職者の募集」、「正社員の解雇」など色々ある。これらの手段の順序は、解雇というものの重さからして会社都合による解雇が最後になるべきだが、その前の段階は固定的な順序設定はなく、従業員の納得確保が重要であるとされている。まず、バブル崩壊後の経済不況時に5割ちかくの企業で実施された手段は「採用の停止・抑制」であった。既存社員の雇用を守るために理想的だとされたが、社会全体からみると身内贔屓の考えだとの非難もでてきた。続いて、3割程度の企業で行われた「配置転換」、「出向・転籍」などでは、雇用を守るためなら当然と考えられてきた。しかし、本人の受け入れがたい出向などを命じ、受け入れないのは個人の都合だとして退職として扱うなどの、遠まわしの解雇など、嫌がらせとも思える行為も行われた。このようなトラブルも多発した。民法に、出向には本人の承諾が必要だという旨のものがあるが、現在は日常茶飯事となり、本人の同意は影が薄くなった。次に、雇用に直接的に関係のない、給与関係「給与カット」ではどうか。人件費削減は多額の削減は望めないが、社員に会社の窮地をダイレクトに伝える効果がある。よって、次に更なる雇用リストラを行った時の社員の納得度も高まるという効果がある。ただ、労働基準法に全額払いという原則があるため、根拠のない給与カットは違反となるので、返上・個別同意・集団合意などを根拠づけ、合法化する必要がある。以上の手段は、完全に雇用者にリスクが伴う手段であるが、「希望退職者の募集」は少し違うタイプの、雇用者に選択権のあるものであった。どうしても雇用削減を行わなければならない時、整理解雇を実行する前に行う、ルールであったともいえる。退職金の割増、再就職支援、休職活動のための有給休職などの優遇条件を提示し、希望退職者を募るものだ。これに対しては社員の反応はさまざまであった。経営危機を実感し理解すると同時に、雇用に対する不安や、経営者の不甲斐なさに対する怒りという矛盾を抱く人たちが大方であった。しかし、希望退職募集に多くの応募が得られた。激しい勧奨行われたというケース、会社の将来に希望を失った・・・など理由はさまざまだが、現実を受け止め、冷静に考え行動できる人が多数いたことがあげられる。
いくつかの手段を挙げたが、これらはリストラ策であるのと同時に解雇回避努力となっているものである。これらの手段をとったあと、最終手段として「整理解雇」が行われる。これは会社、社員の両者にとって重大なことなので、慎重に行われる必要がある。労働基準法では解雇自由を基本的立場とし、解雇制限法はない。各企業の内情や状況が違うため、固定的な一般ルールは示しにくい。また解雇可能法ともなりうることを言い訳に制限法を作らないとしている。解雇という社会的に重要なテーマについては、法律の制定としてのルールをつくるべきだ。企業経営も先が見えない時代、更に経営事態が悪化した場合に備えるという意味でも、解雇制限法の制定が残された課題だと著者は述べている。
雇用リストラ、様々な手段についてみてきたが、結局すべての手段それぞれにリスクは伴う。リスクなしに、お互い納得のいく雇用リストラは想像以上に困難であると感じた。本書には、バブル崩壊後からの雇用調整策から生じた裁判例がいくつも載っていて、そこからいくつものルールが生まれた。ルールとは最初から決まっているものだという固定観念がある人には、それを覆されるものとなるであろう。よく言えば雇用問題について考えるきっかけをくれる、悪く言えば自分自身非常に悩まされた本である。