2003年7月書評(第2回)
評者:佐藤(5期生)
高橋俊介[2000]『キャリアショック』東洋経済新報社。
ISBN4492531084
35×57=1990字

 「キャリアショック」とは、自分が描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境変化や状況変化により短期間のうちに崩壊してしまうことをいい、変化の激しい時代に生きるビジネスパーソンの誰もがそのリスクを背負っている、きわめて今日的なキャリアの危機状況をいう。またそれは、今日の雇用の流動化だけでは説明がつかない、キャリアのドッグイヤー化ともいうべき事態だ。その本質的な問題は、雇用が確保されるかどうか以上に、自らのキャリアの陳腐化、キャリアの将来像崩壊という問題にある。そして、この状況の中で今求められているのは、予想外のどのようなキャリアショックに対しても柔軟に対応できる能力を、会社主導ではなく、自分主導で身につけていくことである。そしてそれは単にスキルを蓄積していくのではなく、パーソナリティー(=動機)とコンピタンシーとのマッチングによってもたらされる幸福なキャリアを構築することだ。仕事を続けながら安定して高い成果を出せるかどうかは、その人のコンピタンシーに関わる部分が大きく、またほとんど変化しないといわれるパーソナリティー(=動機)は、それに反しない意思決定が幸福なキャリアにku椈@w)不可欠だ。そして、スキルに関しては変化の激しい時代には蓄積するころには陳腐化してしまうゆえ、蓄積するものではなく、更新するものだと認識するべきである。
 では、先の見えない時代にどのようにして自立的にキャリアをつくっていけばいいのか。ここにキャリアを自分主導で切り開く人の発想パターンを本書から紹介する。
@ 「横並び・キャッチアップ」より「差別性・希少性」を重視する
A 「同質経験」より「異質経験」を活かす
B 「過去の経験」にこだわるより「今後の動向」に賭ける
C 「指導してもらえる」より「好きなようにできる」環境を選ぶ
D 「社会的自己意識」より「私的自己意識」が強い
E 「合理的判断」より「直感」で時には判断
F 「会社の論理」より「職業倫理」を優先
 この7つのポイントからキャリア切り開き型の人たちの発想の特徴をまとめると、差別性や希少性に重きを置き、異質経験を活かし、今後の動向を読んでそれに自分を賭け、自分の好きなようにできる環境を求め、自分はこうありたいという明確な自己意識を持ち、ときには直感で判断し、そして職業倫理を大切にする。正反対なのは、常に横並びやキャッチアップを意識し、同質経験を追い求め、過去の経験にこだわり、指導してもらえる環境を好み、人からどう見えられているかをいつも気にし、直感的な判断を抑え、ひたすら会社の論理の中に生きようとする、従来の日本の会社では好まれた人材だ。果たしてあなたはどうだろうか。
 そしてもう一つ、自律的なキャリアについてさまざまな研究が進められているなか注目を集めている「プランド・ハップンスタンス・セオリー」(=計画された偶然理論)について紹介したい。変化の激しい時代には、キャリアは基本的に予期しない偶然の出来事によってその八割が形成されるとする理論だ。幸運な偶然を必然化する、つまり、そういった偶然の出来事を自ら仕掛けていくことが必要となってくるということだ。偶然を必然化する人材は、好奇心が旺盛でありながら、同時に、自分の基本的な考え方にはこだわりを持ち、柔軟かつ楽観的にものごとをとらえ、進んでリスクを取っていくという。こういった人材が結果的に幸運な偶然により遭遇するのだ。この理論は、大変興味深い。特に5つ目の特徴である「リスクを取る」は私自身、リスクの取らない人生には、チャンスは生まれないと思っている。楽なことに越したことはない、という人間もいるが、私はそうは思わない。かといって努力することが一番素晴らしいとも思わないが、リスクを取るとはそういった概念とは異なっている。
 また本書では一番最後に、個人側と企業側が明日から取るべき具体的な5つのアクションをそれぞれ紹介している。「こういう時代だから、何が間違いでどうなっていくべきだ」といった従来の視点・書き方ではなく、個人や企業側にいる人間が、「では具体的に明日から何を実践していくべきか」が非常に簡潔に述べられている点で面白く、他にはない。内容については、ぜひこの本を手に取っていただきたい。また、全体を通して随所で挙げられる例は分かりやすいが、あとがきにての筆者自身を例にしたものはその中でも群を抜き、また興味深いものだ。ぜひ最後まで読み進めていただきたい。