2003書評(第4回)
評者:佐藤(5期生)
ジョージ・アンダース著 後藤由季子・宮内もと子訳[2003]
『私はあきらめない―世界一の女性CEO、カーリー・フィオリーナの挑戦』アーティストハウス。
ISBN4902088185
35×26=910
最近、女性労働問題の著書を読む機会があり、改めて女性が社会で働いていくことの意味や困難さ、また展望などを学んだ。もちろんまだまだ容易なこととは言えないし、女性として働いていく上で漠然とした将来の不安が残った。そんなときたまたま書店にて目に飛び込んできたのが、自信と希望に溢れる眼差しで前を見つめる女性がなんとも印象的な表紙の本書だ。"世界一の女性CEOの挑戦"とある。彼女こそが本書の主役、米経済雑誌『フォーチュン』で6年連続「米ビジネス界で最もパワフルな女性」に選ばれたカーリー・フィオリーナ―現ヒューレット・パッカードCEOだ。市場最大規模といわれるコンパックとの合併を成功させ、ヒューレット・パッカードを再生させた女性CEOにまつわるさまざまなエピソードが本書にて描かれている。
ヒューレット・パッカード(以下HPと略す)は米の老舗大企業で、創業者のビル・ヒューレットとデイブ・パッカードは、1938年にパロアルトの小さな貸家のガレージからその歴史を始めたという。その後50年間以上に渡り成長を続け、HPウェイという独自の会社方針は世界中で有名になり、米企業でその揺るぎない地位を確立していった。しかし、80年代後半あたりからハイテク業界の不振が続き、経営は緩やかに悪化の一途をたどる。華々しかった創業者たちの時代とは変わってきていた。そんな中、他企業のCEOとして活躍していたフィオリーナがヘッドハンティングされHPにやってくる。最初の滑り出しは好調だった。カリスマ性と十分なリーダーシップ力、この巨大企業を治めるだけの資質は両方とも持ち合わせている。HP再建のための必要不可欠な策だったコンパックとの合併を目指す。しかし、苦しい戦いの末、合併をめぐるトラブルは、最終的には法廷までも持ちこまれた。
本書は決して、フィオリーナの華々しいサクセス・ストーリーではない、と私は思う。一人のビジネスウーマンの苦闘する姿が、全体を通して読み終えた後も記憶に残る。順風満帆ではない環境でどんなに苦しくてもあきらめない姿は、あらゆる働く女性をきっと勇気付けることだろう。