2003年5月書評
評者:宿利(5期生)
永井隆[2000]『リストラに克った』〜さらば「会社人間」〜日本経済新聞社。
ISBN4532190231
35×52=1820文字

 『リストラをされた人』と聞くと『不幸な人』だとか『弱い人』、『負けた人』などと思ってしまう。実際にそれを通告された人はさも人生最後ではないかと思ってしまうだろうし、テレビなどに出てくる多くの『リストラをされた人』は本当に人生最後のような悲痛な訴えをしている気がする。しかし、この本にでてくる『リストラ経験者たち』は『不幸な人』でなければ、また『弱い人』でもない。少なくとも本人たちはそうは思っていない。むしろ『リストラ』とは『人生の転機』であり『古い自分』を断ち切って『新しい自分』を見つけ出すチャンスであったと語っている。そう、ここに出てくる人達は、本の題名のとおり『リストラに克った』人達なのだ。
 この本はルポ形式の本なのだが、総計21人ものリストラ経験者が登場する。その中にはまだ志半ばにいる者も含まれているし、他にもこの21人の他にリストラを実行している側や、リストラされた人を採用する人等が登場する。のスパイスとしての脇役としてしか登場してこないのだが、一方通行ではなく多方面から『リストラ』というものを見ていけるのである。そしてこの本のおもしろい所は、この本を書いた筆者までもが『リストラ経験者』だということだ。もちろん『リストラに克った』人の一人として本文に登場してくる。
 ところで一概に『リストラ』と言っても何もサラリーマンに限ってのことではない。もちろん大多数はサラリーマンであるのだが、その中にはスポーツ選手なんていう特殊な職種の人も含まれていた。いずれにしても、みな『リストラ』を通した本当に様々な物語をこの本の中で紹介してくれた。例えば、エリート街道を突っ走ってきた50代男性の潔い転職話、自分の勤めていた新聞会社が潰れて途方にくれる新聞記者の話、母のために7千万円のマンションを買ったばかりなのにリストラされてしまう20代の女性の話、Jリーグを戦力外通告された男性の意外な再就職先の話、リストラされて0から職人を目指す50代の男性の話など等…。そこには本当に笑えない現実を見て、それでも這い上がってきた男女の物語が詰まっている。何が彼女彼等をこんなにもやる気にさせたのか?それは「負けたくない!自分はこうしたいんだ!」という強い思いに他ならない。動機や目的は違うにしてもこの強い気持ちがなければ『リストラ』という壁を越えることは出来ないであろう。
 しかし誰もがみんな強い意志を持てるわけではないだろう。「自分は何がしたいのか分からない…」とお思いの方もいるかもしれない。そのような人は仮にリストラに遭ったときあるいは路頭に迷ってしまうかもしれない。そんなフリーターの話もこの本には出てくる。彼は三十路になる数年前に社員数60人ほどの中小企業をリストラされた。そして現在三十路になった今もなお自分のやりたいことが見つからずフリーターを続けている。最後に彼は「何かきっかけさえあれば…」と述べている。
 このように本書を見ていくと、この本が単なる成功話に終わっていないことが分かる。筆者はリストラを克服した者とまだ戦い途中の者の話を載せることによって読む側に知って欲しいのだ。≪リストラとは決して甘いものでなければ、ただ悪いだけのものでもない≫と。
 今の時代失業率が5%強ともあって、もしかしたらあなたも『リストラ』が他人事ではなくなってくるかもしれない。本書の言葉を借りれば「サラリーマンは、自分の知らないところで、自分の運命が回ってしまう。」のである。そんな時どうか前進する事を諦めないでほしい。やりたい事があるにせよ、ないにせよ『リストラ』はきっかけに過ぎない。そこから何を学ぶかはあなた次第なのだから。本書を読めば、本書に出てくる『リストラ経験者』たちがあなたに何かを教えてくれるかもしれない。