2003年12月書評                       
評者:宿利(5期生)
山井和則・斎藤弥生『体験ルポ 日本の高齢者福祉』岩波新書
ISBN4-00-430351-6
35×33=1155文字

 著者である山井和則は本書の前に『体験ルポ 世界の高齢化福祉』を出版している。それには「敬老国」と言われる日本の「軽老」と言わざるをえない悲惨な現状が書かれていたのだが、その出版から3年、今度はその日本をテーマとした本書が出版された。今回は山井和則の妻である斎藤弥生も加わりより広い視野で深く日本の高齢化福祉を見つめている。
 さて、前回の終わりに山井和則は「原稿は書き終えても、私と《寝たきり大国》との格闘は、これからが本番である。」と述べていた通り、今回のルポは前回にまして壮絶であった。例えば、第3章の<高齢者を支える施設と病院>では多くの老人が≪終の棲家≫となってしまっている老人病院を著者自ら体験入院する。脚にギプスをし、自らオムツをして寝たきりのつらさを2泊3日経験するというものだ。ここでの報告は下の話など生々しく、食事中は読みたくないような内容となっている。しかしこの章のこの体験レポートを読むだけで高齢化福祉について様々なことを読みとることができるできるだろう。介護する側だけでなく、介護される側の立場にもたった本章はとても印象に残った。
 その他に、本書では日本国中の高齢化福祉の盛ん又は進んだ市町村を紹介しているのだが、これらを読んで分かるのは女性が積極的に活躍しているということ。もちろん男性でも活躍している人は多数出てくるのだが、その男性達もやはり長年介護を担当としてきた女性の意見が重要であると述べていた。続いて7章ではスウェーデン、ドイツが登場する。スウェーデンが福祉先進国だということは前作品でも紹介され、また福祉に少しでも興味がある人にとっては有名であり、よく新聞やテレビなどでも取り上げられているのだが、日本との文化の違いなどから制度をそのまま真似ることは難しかった。しかし今回登場したドイツは日本と同じ医療保険制度を持っているなど共通点が多く日本にとってよいお手本となり、その比較が興味ぶかかった。
 最後に、「高齢化福祉」といった問題は本書が出版された90年代の日本にとって覆い隠してしまいたい問題の一つであった。その暗い話題を筆者は深刻に受け止めると同時に希望を持って立ち向かっていることが本書から伺えた。なぜなら本書を読み終わった後「自分も何かできないかな?」と前向きな気持ちになれたからである。