2003年7月書評(第2回)
評者:山口(5期生)
大久保寛司[2003]『自分が変われば組織も変わる』かんき出版。
ISBN4761261021
55×35=1925字

 本書はコミュニケーションの円満は偉大な力を生むと述べている。最近、接客というものをしていて私は思うことがある。「最近の若者は…」と若者を否定する40代のお客が18歳の茶色がかった髪の毛をした女子店員を前にした時とても感じが悪かったり、小難しい商品説明をしようものなら、話し途中にも関わらず「よく分かんねえからどれでもいいよ」などとなんとも失礼な言葉で遮ったりする光景がよく見れた。しかし30代の店長が代わりに現れた途端、さっきまでの険悪さが嘘の様に無くなり「ここの店長は接客が素晴らしい」などと満足げに帰っていくことが多い。決してその女子店員は感じも悪くなく、無礼な言葉など一つも使っていない。ただ髪が茶色がかっていて歳が若いだけである。こうなると若者はよりいっそうそれらの世代とコミュニケーションを取る気が失せる。そんな原因がある場合でさえ、それらの世代は「若者は意見も持たず…」というような事を言う。このコミュニケーション不足は親父世代自らが壁を作っているケースがかなりあるのではないかと私は思った。
 著者はコミュニケーション不足はまず原因は自分にあり、組織で言えば信頼関係がない故、部下から意見さえ来ない→すると部下のケツを叩く様な言葉を浴びせる→さらに意見する気を失う。という悪循環を生むことを指摘している。組織においてこの様な悪循環が無くなり若者も上司も活発に意見できる会社になれば、職場は明るくなり一体感を生み出す。そしてそのため協力心が芽生え業績向上を促すことを説く。
 その偉大な力を持つ「コミュニケーション」上手になる為のヒントを与えてくれるのがこの本である。その実践法を大きくまとめると次の4つになる。
@『相手の心情を理解しながら話す、相手を思いやる』
A『否定的意見を真っ直ぐに受け止める』
B『聴き出す能力=適切な質問能力を磨く』
C『話すより、よく聴く』
 @Aには繋がったものがある。著者は相手の理解も考えずに話されるのは不快であるし、今どんな心境かを配慮しなければ正しいことを指摘する際でも相手は聞く耳を持たなくなることを説く。そして自分の意見を否定された時に感情的になり、職務を終えても引きずる人は、いずれ注意の指摘さえももらえなくなる。私は実際に、否定された時に笑顔で受け止め素直に省みることが出来る人などほとんど見たことが無い。この局面に、信頼関係を築けるかどうかが掛かっていると著者は断言している。
「聞きたい意見を言ってくれない」とは「聞きたい意見を聴き出す力が無い」ことであると著者は言う。Bの例として本書で、あるセミナーの話が挙げられている。初めコンサルタントの質問に経営者は極めて低レベルの回答をした。するとコンサルタントはさらに別の角度から質問をした。質問→回答→質問…と繰り返すうちにその経営者は驚く様な見解を述べたのだ。コンサルタントは答えを知っていたが、経営者から質問により答えを引き出したのである。
 これは簡単な様で「相手の状況をよく観察し、発言を否定せず、結論を先に言わずに最後まで話を聞く」という寛容さや忍耐強さを必要とするものである。
 最後に『話すより、よく聞く』である。これは対話の極意であり最も難しいものだと著者は言う。真剣に聴くことは相手のことを理解しながら正確に頭で処理しなければならない為、話す量の数倍のエネルギーを消費するのである。しかし聴くことにより自分の話の理解を確かめることができ、自分に伝わった分相手に伝える言葉にも説得力が生まれ、そこに全てのコミュニケーションの元となる『信頼関係』を築き上げることが出来るのであると著者は述べている。    
 私も相手の話が長いとその最中に上の空になることがある。またよく「人の話をもっとよく聞け」と言われたこともあった。本書で『聴く力はその人の寛容力、忍耐力、つまりは人間の大きさである』と記され、悔しいことに私も同感であり、自身の小ささを思い知った。
 否定は出来ないが、コミュニケーション円満で業績向上に繋がると断言してしまうのは多少無理があると私は思う。だが、この「コミュニケーションという思いやり」は賃金ではモチベーションを保てないこの時代、大きな動機になるのではないか、結果的に業績向上までいかずとも本書の題である「組織を変える」ことができるのではないかと私は思う。