2003年夏休み書評(第3回)
評者:山口(5期生)
高橋俊介[2000]『キャリアショック』東洋経済新報社
ISBN4492531084
55×35=1925字

 現在、将来像を描きながらステップアップを図ろうとしている企業の社員、活躍の場を広げようとしているビジネスマン、様々な人誰もが抱くキャリアの将来像。それが予期せぬ事態により短期間に崩壊し、職種も将来像さえも変化させねばならない状況になることを「キャリアショック」と言う。本書は働く現代人にその警戒を投げかけ、キャリアショックに備える全体像を説くことを前提としている。しかし私は、むしろこれから将来像を描いて社会へ飛び込む学生達に説くべき問題であるとも思った。学生の観点から本書を読み、「どの様に将来像を描き、どの様にその備えとなる学習をし、企業を見て行けば良いのかを考えたい。」それが私がこの本を手に取った理由である。
 この本を読み、私が思い出したのは大学入試の論文問題だ。「あなたの人生の進め方を大学4年間を含め具体的に示しなさい。」本書では冒頭で、このような人生計画がキャリアショックを招く、根本的に間違ったキャリアデザインの仕方だと説いてあるから驚いたのである。
 キャリアショックに対応できない人材になってしまう。ではキャリアショックに最も強い人材とはどういった人材であろうか。一言で言ってしまうと、「臨機応変に使える人」であると私は本書を言い換える。ただ社外で通用するスキルや資格を備えた人でなく、その行く会社の先々で、必要とされるスキルが浮かび上がったら短期間でそのスキルを身につけられる人。対応力の強い人と著者は言う。しかしどんなにキャリアショックに強い人であろうと、それが自分の幸せに繋がらないのでは何の意味が無く、また長続きもせずどんな高収入であろうといつかは燃え尽きる、とも著者は述べている。
 ではそのキャリアショックに強い上に自らのキャリアを「幸せ」と感じられるのはどういった人であろうか。それはその人の「個性」にあり、その人がどのようなことにモチベーション(動機)を感じるかである。幸せの源泉はあくまでも動機にあり、幸せかどうかはその仕事と動機とのマッチングがどれだけ高いかによって決まるのだと著者は言う。ではどのように自分の動機を知ればよいのかと言うと、方法は幾つか存在し、最も簡単にできる方法は自分が価値を感じる単語をあげていくものである。愛情・正義・誠実・創造…といった単語から自分が最も価値を感じる言葉が動機なのである。そして本書は後半、その幸せなキャリアを歩む人々の実際の行動パターンや発想パターンを幾つかのカテゴリーに分け説明しているのでぜひとも読み進めて頂きたい。
 私が特に注目したのは「幸せなキャリアを切り開く人の価値観とは何か」である。「新卒で入る会社は、むしろ、自分にはどのようなポテンシャルがあるのかを、自らリスクを取って試す場くらいに考える方がいいのかもしれない。」この言葉は新鮮だった。実際、就職活動時期に流れる情報とは表面的なものが多いと思うし、アルバイトの度に思うが、実際に入らなければとても本質とは分からないものだと私は思う。また、「横並びや集団体質を好み、人と同じことをする限り本当の幸せは感じられない」という言葉。これには確かに相対的な幸せでは絶対的な幸せは得られないことが納得できる。最後に「過去の経験にこだわるのではなく今後の動向に賭ける」という言葉。今リストラに直面した中高年に向けて発せられるのをよく耳にするこの言葉は、本書で改めて聞くととても前向きな応援のようにも聞こえたのが印象的であった。
 この本が最後に大きく視点を変えて説明するのが「幸せなキャリアを歩む行動・発想の持ち主が、あるいはそれを目指す人たちが、その能力をより活用できる会社とはどのような会社か」である。
@ 人材輩出企業である。優秀人材を「囲い込み」してしまう企業ではなく、優秀な人材を生み出し自律支援をし、その人材達が外へ出て行き活躍し、それが会社のイメージを高め、また良い人材が集まる企業である。
A社員を「知恵の投資家」と見る。社員をお金を投資するステークホルダーや会社の資産のように見なし、強大な権限を振る企業ではなく、知恵が集まり→会社も株主も儲かり→お金の資本も集まる、という好循環に入る企業である。
 これから様々な企業を見て行く学生達にとって素晴らしい指南書になると私は思った。この本は読み終えた後、不思議と前向きになる力を持っていると私は思う。この不況の世相を本書の様にポジティブに捕らえる力が、同じく最もキャリアショックに耐えうる力なのではないかと私は思った。