2003年書評(第4回)
評者:山口(5期生)
大久保幸夫[2002]『新卒無業。』東洋経済新報社
ISBN4492260641
22×41=893字
「無業者率二一・三%。いくら就職氷河期とはいえ、一生懸命就職活動をした大学生の二割が就職できないとは考えられない。」と著者はこの本を書くに至った動機を述べている。そしてその原因を大学生のみに求めず、大学側から広く見渡している。私はその「就職」が身近に迫る大学生として、実際にフリーターの友達が存在する身として、この「無業者現象」に興味がわいた。そしてその立場故に、著者が述べた「無業者をただけしからん、とは言いたくない。何の解決にもならない。これは変革の苦しみなのかもしれない」という言葉に、胸が温かくなり前向きさが伝わってきた。
著者はリクルートワークス研究所の所長・大久保幸夫氏である。多くの新卒者に接してきた著者は、まず「新卒無業」の前兆として大学生の就業観を語る。「大学生の就業観は先入観だらけ。職種に対する標準的志向で、毎年人気業種ランキングは企画・広報・マーケティングが上位を占める。しかしどの様な仕事をするか具体的に言える人はほとんどいない」と。就業観欠如の背後に、企業の表面しか知らない高校・大学の実態があるという。
そして実際に「新卒無業」になった者の心の内を探り、また社会から受けた影響も探る。ここで私が面白く感じた一角がある。著者がフリーターに対しとても肯定的であること。著者は同じフリーターでも、処方箋を必要とするのは「悩みながらもとりあえず小遣いの為だけにという人・大学で友達と馴染めず、バイトも人と対面しないものが多い人」であると言う。その処方箋として、「彼らには何らかの『居場所づくり』が必要である。自分の話を聞いてくれる人・自分の仕事を誉めてくれる人の存在が、対話の楽しさを、次には自分の将来への興味を与えてくれるのではないか」と著者は述べている。
なぜ簡単に就職を諦めてしまうのか、なぜあえて就職をしないのか。本人の気持ち、PCというコミュニケーションツール進展の功罪、就職部が持つ偏見をも含め、本書は無業者を救い出す方法の提言をし、新しい社会の仕組みの必要性まで説いている。