2003年夏休み書評(第3回)
評者:福永(6期生)
野口吉昭[2002]『企業遺伝子』PHP新書。
ISBN4-569-62372-7
40×52=2080

 「企業遺伝子」と言うものには大きく三つに分類される。ミッション&ビジョンにからむ情報単位=企業遺伝子を「ビジョン遺伝子」、戦略&計画のカテゴリーに分類できそうな企業遺伝子を「スキル遺伝子」、そして、現場に下りた管理&業務領域を「スタイル遺伝子」としている。そして、本書はこの三つの企業遺伝子に重点を置きつつ現在の名の通っている企業についての「善玉遺伝子」・「悪玉遺伝子」は何なのかを分析し、我々読み手に対して企業とはどうあるべきかを解説しているのである。では、どのように解説しているかは以下の通りである。
 企業遺伝子には階層があり、最上位にビジョン遺伝子がある。主に企業のミッション=理念、ビジョン=目標に関わってくるものであるという。そして、最も重要で、最も経営の枢軸を規定するものであり、最も創業者・トップの存在が影響するという。ここで筆者は具体例としての企業を挙げている。浜松ホトニクスと言う小さな世界企業だ。ここの創業者・トップのこだわりは「独自性」「独創性」「差別性」であり、このことがビジョン遺伝子として根付いている。多くの日本企業がこのような企業哲学を見失っている。
 ホンダやソニーがいまだに元気なのはこのようなビジョン遺伝子を創業時のように持っているからだというのだ。確かに、私も理念は大事な事だと思う。方向性、目標を見失うことのない企業は本書でも述べられている通り長寿な企業であるのではないかと思う。では次のスキル遺伝子についてはどうだろうか?
 スキル遺伝子とは戦略遺伝子である。これは本文のそのままの引用であるがどういうことなのだろうか?コア・コンピタンス、基本戦略、個別戦略、事業計画レベルの企業遺伝子のことであるという解説がなされている。このことについては次のようにイトーヨーカ堂グループとイオングループの実例で示されている。セブンイレブン・ジャパンでの成果は十分である。しかし、GMSの業態であるイトーヨーカ堂はまだまだ期待通りの経営にはなっていない。どういうことか?まず、イトーヨーカ堂は仮説検証型経営力を企業遺伝子として磨き、それが善玉遺伝子となって、悪玉の増殖を抑えてきた。それによってセブンイレブンはうまくいっている。圧倒的だ。しかし、GMS業態となるとジャスコにはかなわない。そのジャスコのイオングループには地域密着性の徹底というスキル遺伝子で劣っているからである。と、上記のように筆者は解説している。私は知識不足のため納得させられる部分が多くあったため異を唱える隙を見出す事が出来なかった。よく分析がなされているものだ。
 そして、三階層の最後がスタイル遺伝子である。この遺伝子は「管理」「業務」のことを示すようだ。つまり、現場の事だ。日本企業の場合には「同一価値求心性」「会社人間育成マシーン」「個人ビジョンは会社ビジョンの中に」といった、今では懐かしく、恨めしくさえ思えるものだったという。これらも立派なスタイル遺伝子であるらしい。そして多くの企業のスタイル遺伝子は会議の中にその本質が現れると筆者は語る。
 企業遺伝子とは以上のような三階層の遺伝子から成り立っている。ではその遺伝子が企業ではどのような具合なのかという解説を次から述べてみたい。
 本書でも扱われている雪印グループ事件について触れてみたい。この事件は大企業の病巣のシンボルを表出させたと述べられている。悪玉遺伝子が官僚主義・権力主義・権威主義になってしまった。雪印グループでは長年かけて培ってきた企業遺伝子は企業としてのモラルを第一にするという善玉遺伝子ではなく、官僚主義・権力主義・権威主義という悪玉遺伝子の方が勢力を増してしまった。顧客の方に顔を向けるのではなく、企業内部の上層部に顔を向ける体質になってしまっていたというのだ。変革遺伝子が少なくなってしまい、ある時、悪玉遺伝子が原因で大企業病が発病してしまった。ソニーでもトヨタでもホンダでも花王でも大企業病という病巣が組織の中に巣食っていると、このように述べられ、大切なのは、現場の人材の認識レベルだ。現場にある遺伝子が真の未来を指し示すものなのだというように結論付けられている。私が新鮮さを感じたのは、よく知られている雪印の不祥事が悪玉遺伝子によるものだと言う事だ。この著書を読んでいなければ誰もが企業遺伝子によるものであるという見解は思いつく事はないであろう。
 これだけの文章でこの著書の魅力を紹介する事は容易ではない。しかし上記の事で少しでも伝える事が出来たらと思う。遺伝子の事など生物学にも通じる事があるため、少々読み手にとっては難儀かもしれないが実際の企業の実例を多々盛り込むなど読んでいて興味は尽きないようになっている。ぜひ読んで欲しい。