2003年夏休み書評(第3回)
評者:近(6期生)
中村靖彦[1998]『コンビニ ファミレス 回転寿司』文春新書。
ISBN4-16-660017-6
40×50=2000字
コンビニ、ファミレス、回転寿司。いずれも現代の生活には欠かせないものである。これらが発展するにつれて、日本人の食の形体も変わってきている。本書では、吉野屋の回転率を上げる戦略やマクドナルドの値下げ戦略から始まり、それらの原料までさかのぼることによって「食」というものを見つめ直している。
「回転寿司・築地本店」では目の前で握ってくれて、値段は1皿100円である。どうしてこんな安い価格で提供することが出来るのか?利潤は1皿10円である。2皿や3皿食べただけで帰られたのでは商売にならない。そのため客の数を増やすことに全精力を注ぐ。いかに回転率を良くするかがポイントであり、そのために様々な工夫がなされている。客がいくら分食べたかは100円を掛ければよいだけなので計算しやすく、6皿積み上げた高さが、ちょうど湯呑みの縁までだという。そのため店員は離れた所からでも分かるようになっている。その他にも、1人5皿以上、酒・ビールは2本まで、30分以上席を占めるのは遠慮願うなどがある。また、魚はすべてその日の朝に入荷したものであり、必要な分だけおろしてネタにし、種類も豊富にすることにより2回転する皿を作らないようにする。まさに安さ、早さ、うまさの3拍子を兼ね備えている。大手牛丼チェーン、吉野屋のノウハウも実に面白い。「1人の店内滞在時間は、およそ7分と計算しています。そのためには、早く丼を出さなければなりません。お客さんがカウンターに座ってお茶を一口飲み、割り箸をパチンと割る頃にはもう牛丼をその前に出します。それから、カウンターの幅は70センチくらいに設計しています。この程度の幅にすると座っていても落ち着かないので、食べ終えたらすぐ出て行きます」といった具合である。これは回転寿司の場合に回転率を上げるために、店の雰囲気などで早く客を追い出すノウハウを盛り込んでいるところと相通じる。
最後にマクドナルドの値下げ戦略を紹介する。94年、マクドナルドはハンバーガー1個の値段を80円下げるという大幅値下げを実施した。そしてこれを行うための3つの対応策がある。第1に世界的な共同仕入れによる原材料のコスト削減である。第2に、小さな規模の店を積極的に増やしたこと、第3に企業のOA化である。原料を一国だけの単独ではなく、各国のマクドナルドが共同で仕入れれば安くなるはずだ、とアメリカの本部が考えていたこの時期、日本の思惑と一致し、共同仕入れは、店舗設備やナプキンにまで至った。ゴマについては面白い話がある。ビッグマックセットの表面にはゴマが450粒乗っている。このゴマを乗せる機械を調整して、10粒少なくする工夫をしたところ、全国では年間250万円の節約になったという。第2の対応策としては、従来は年間1500万から2000万円の売上が普通だったのを、400万から500万円でも採算が合う店を、駅の中などにこまめに配置して成功している。第3に会社全体のOA化により、年間3億円のロスが防げると計算した。こうして大幅値下げは成功を収めた。
「安い、早い、うまい」の3要素を象徴する食品を取り上げた。これらは現代の食文化の一面を表している。ただ、食の原点は共に食べることで、こころをわかちあうことであるという。現代の食事はこの原点からかけ離れていることの指摘から、輸入に頼りすぎている日本の実情、遺伝子組み替え食品の問題、現代の子供の食事について、などといった具合に結びついていく。
ここからは私自身の意見であるが、本書のタイトルは妥当ではないと私は思った。本書のタイトルから内容を予測すると、これらの業界における経営戦略や雇用問題などについて論じられているのではないか、と考える人が多いのではないかと私は思う。しかし、本書の本質は日本の自給率の低さとその問題への対策の必要性と、日本人の食に対する姿勢を改善することの必要性である。確かに本書のタイトルは読者を惹きつける良いタイトルだとは思うのだが、タイトルに沿った内容はほんのごく一部であった。タイトルというのはやはり著者の最も伝えたいことを感じさせるものであるべきだと私は思う。なので、もう少し違ったものが良かったのではないだろうか。それにしても日本の自給率の低さには驚いた。半分以上は輸入品であるのに、米だけは余っている。その理由は兼業農家の人々があまりおいしくもない米を作り、それが余っていくそうだ。著者は所有権を手放す必要はないが、米を作ることは「農」のプロに任せ、さらに不足した作物の生産に力を注ぐべきだという。私も賛成だ。あらゆるところから無駄をなくすことは、環境にも、また経済的にも大切なことである。