2003年5月書評
評者:中川(6期生)
森谷正規[2003]『「勝ち組」企業の七つの法則』ちくま新書。
ISBN4480059881
60×35=2100文字

 「昔の日本はすごかった。」今の日本の企業を見るとその言葉が頭に浮かんでくる。1970〜80年代、日本の生産技術力は米国をも脅かすほどであり、独特な会社内の慣行や制度は成功の要因としてもてはやされた。そして日本経済は、ものすごい成長を遂げ、世界経済の牽引車となっていた。そんな国が今日ではどうだろうか。以前は、低価格な商品でアメリカを脅かしていたが、今では中国などアジア諸国の商品に対して価格競争力を失いつつある。また、時代にそぐわない経営スタイルは日本企業の足かせになっている。このような時代に、日本の企業がどのように生き残っていくべきか、いわゆる勝ち組である企業の戦略を「7つの法則」として著者は論じている。
 その法則とは、「同じものから違うものへ」「HOWではなくWHATに力を注ぐ」「高くても売れるものを作る」「ハードウェアを超えるビジネス展開へ」「総合力は足すものではなく掛け合わせる」「縦ではなく横の連携へ」「環境と安全を見方にする」である。
 その法則の一である、「総合力は足すのではなく掛け合わせる」。この総合力を掛け合わすことができていない企業の例として日立、東芝、三菱などの総合電機メーカーが挙げられる。これらは、ワンセット主義と呼ばれ、重電、家電、半導体、コンピュータなどを手がける。このワンセット主義は、戦後の経済、社会、産業が発達していく時期に対しては有効な手段であった。だが、これが現在では通用しなくなってしまった。どの総合電機メーカーも業績が悪化しているのである。まず、会社が巨大すぎて、早急な意思決定ができない点である。日々変動する市場で、大胆で機敏な設備投資ができない。また、各部門に力があるため、ばらばらで総合力を生かすことができないのである。
 その総合力をうまく使い、成功した企業がある。それがリコーだ。リコーもまた、レーザープリンター、パソコン、通信カラオケ、ワープロなど多分野に展開した。しかし、それぞれの分野で成功を収めることはできなかった。しかし、リコーは失敗したままでは終わらせなかった。それぞれの分野で、得た技術を一つに結集させたのである。その結果デジタル複写機を作り出し、海外での売上高を急増させている。各部門が結びついて新たなものを創造する、これが上に挙げた大企業である総合電機メーカーとの違いである。これまでどおり、ただ良い物を大量に作り、安く販売するだけでは必ず中国などのアジアの企業などに負けてしまう。
 というのが著者の考えだが、私はむしろ専門化していくべきではないかと考える。多く部門を抱えると、それだけ戦略を立てるのも難しくなるし、不採算な部門で損出も大きくなる。ならば、得意分野だけで挑んだほうが小規模になり、大胆に経営ができるのではないか。
 私が一番必要性を感じた法則は、「高くても売れるものを作る」。最近、辺りを見回すと何でもかんでも非常に安い。デフレの影響もあるのだろうが、やはり製品を安く作れる国から輸入、製造されたものの影響だろう。電化製品に注目すると、つい最近登場したDVDプレイヤー。発売当初は8~10万円くらいしていたものが、もう1~2万円程度支払えば買うことができるようになった。これも中国の企業が早々にDVDプレイヤーを生産する力を付けてしまったためだ。価格を下げざるを得ない日本の企業も中国での生産を始めている。せっかく、日本が開発した画期的な新製品で大いに稼ぐことができなくなってしまったのだ。このことは、DVDプレイヤーだけの特別な例ではなく、これから開発するものすべてにその可能性がある。台湾、韓国、中国が技術力を高めてきていて、たちまちこれらが市場に参入する。日本の企業は価格を落とさなければいけなくなり、たいした利益を稼ぐことができなくなってしまうのだ。それでは、どうすべきなのか。
 高くても売れる本当に良い製品=味がある高級品を作ればよいのだ。それを行なっている日本の企業にアキュフェーズの製品がある。オーディオ機器のメーカーなのだが、2002年2月、1台50万円もするアンプを売り出した。特注の部品が多く値段はそんなになってしまうが、一部店頭では品切れになったという。マニアたちはそれを長く愛用する。ちなみにこの会社は、売り上げを伸ばしている。この不況の中、そんな高額な製品が売れるのは、それ相当の価値があるからなのだろう。日本の企業は、多少の技術力では生み出せないような価値を創造すべきで、製品の低価格化を目指すことからは卒業するべきである。
 これからは発展途上国だった国も力を付け、日本企業のライバルはますます増えるだろう。そんな時代に生き残るために、それらと同じ舞台で勝負するのではなく、「7つの法則」のような日本企業独自の勝負の場所を創造し、勝ち抜いていくべきだ。