2003年夏季休暇書評 
評者:中川(6期生)
熊沢誠 [2003]『リストラとワークシェアリング』岩波新書。
(ISBN4004308348)
(62×35=2170文字) 

 近頃、株価も上がり始め、景気回復を思わせるような明るいニュースも報じられるようになった。しかし、未だに失業率に関しては、良い話を聞かない。中高年ホワイトカラーの雇用不安が大きく報じられているが、一方で若年層の失業率も非常に高い。この構造的失業を打開する明快な方法は未だに確立されていないように思われる。また、私たちが普段気にしていないが、ヨーロッパ諸国などと比べ日本のパートは、正社員との待遇があからさまに違う。本書は、失業や日本における様々な雇用問題について扱っている。そして、何をすべきなのか著者は、さまざまなデータなどを基に論理的に記してある。
 現在の日本の労働における問題点を四つ掲げている。持続的な失業者の増加、企業による人減らしの遂行、働きすぎる労働者、そしてあまりにも明確なパートタイマーに対する処遇の差別である。それらを解決するために目指すものは、ワークシェアだという。労働時間を短縮して雇われる人を増やす。また、多くの人がライフサイクルごとのニーズに応じた短時間労働で暮らしていけるようにすることがワークシェアの果たす役割なのだ。
 そのワークシェアは、二つのタイプがあると言う。その一つが「一律型」ワークシェアである。これは全労働者、または一定範囲の労働者の標準労働時間を一律に短縮する方法である。著者はこれこそ日本において重視するべきだという立場に立つ。周知のとおり日本の正社員のフルタイムは長い。そのため、新しい雇用機会が生まれないのだ。それならば、この不況で失業者が多数存在するなか、ワークシェアを各企業どんどん行なうべきだと私は安易に考えてしまうが、どうもそうはいかないらしい。
 実際日本では、一律型ワークシェアは難しいという。それにはいくつかの事情がある。一つは、日本企業の作業管理の特質である。一般的に日本の職場における正社員個人の仕事内容は、範囲が一定に確定された職種・職務でなく、柔軟な仕事内容に応じた個人割り当てである。したがって、個人の仕事の範囲が曖昧で、流動的であることに問題がある。そしてもう一つ、日本の企業社会の賃金決定の特徴が重なってくるが挙げられている。日本の賃金決定には職種・能力・年齢と勤続年数を反映する様々な昇給線が引かれている。そして、個人査定によりその線の上下に割り振られる。欧米のような職種別・職務別時間賃率と言う概念は、日本の正社員には適用することは難しい。
 一律型ワークシェアを可能にするには、職種グループごとに企業を横断する労働市場の意識的・制度的構築に着手する必要があると言う。具体的には、企業の枠を超えてさまざまの階層の労働者を糾合し、「可視的な仲間」の単位でワークシェアや賃金決定を経営側と交渉しうる横断的労働組合の新しい形成、または企業別のそれへの脱皮である。二つ目は、企業の枠を超えた賃金の規範的決定、具体的には職種グループ別横断賃金制の確立、三つ目が定義される技能の社会的認知である。
 そして、ワークシェアのもう一つが、「個別選択型」ワークシェアである。これは、労働者個人に短時間勤務の選択肢を用意する制度である。具体的には、育児や老親介護などの重い負担、または職業能力を身に付けるため就学・再就学をおこなっているなどフルタイムで働くことが困難な人、高齢者や病弱者、障害者などの人々がニーズに応じてパート就労を選択できる仕組みである。これを行なうための必要条件がある。それは、@有期雇用の規制・限定、A労働時間の選択権とフルタイム、パートタイムの相互転換性、B均等待遇・同一労働同一時間給、C社会保険への包括の四つだ。私は、ここでBに注目したい。おそらく私以外の人も、パートの賃金が正社員のそれと比べて絶対的に少ないことを疑問に感じたことはなかったのではないか。同じ仕事をしていたとして、雇用形態の違いで賃金に差別を付けるのはおかしい。そしてそのことにより限られた時間の労働、つまりパートタイムをせざるを得ないひとの生活が困難になっている現状を著者は否定する。
 著者は、一律型こそ日本に必要だと述べていたが、私は個人選択型の方が早急に社会に定着してほしいと思う。なぜなら、これまで誰かに依存しないと生活を維持できなかった人が、自立のチャンスを得ることができるのだから。しかし、このことに関して個人ができることは少ないと思う。各会社に任せても、利益優先の企業がワークシェアを積極的に取り入れるとは思えない。だから、それを実現するには、著者が言うようにやはり労働組合や政府の積極的な働きかけが必要だ。それに社会全体が、がんばり過ぎない時間的ゆとりのある生活を目指す雰囲気も必要かもしれない。
 私には、これまでワークシェアによる効果を単なる給料の分け合いとしか捉えていなかった。それが、本書を読むことにより本当のワークシェアについて理解することができたし、これからの時代の雇用のあり方についても考えることができた。被雇用者だけでなく、会社経営者にもぜひ読んでいただきたい。