2003年7月書評(第2回)
評者:高田(6期生)
田尾雅夫[1998]『会社人間はどこへいく』中公新書。
ISBN4773351829
40×48=1920字

 今、テレビや新聞などは頻繁に、景気が悪い悪いと伝えている。その原因の一つとして、日本的な経営である『終身雇用』『年功序列』『年功賃金』が機能しなくったからではないか、ということが挙げられる。私自身の意見としては、日本的経営はクビを切られる心配がほとんどない、無難に働いていれば年を重ねるだけで給料は上がって行く、といったように危機感が少なく、やる気が起きにくい制度な気がしてしまいあまり好きではない。しかし、本書ではこのような日本的経営は必要だ、そして高度成長以降の典型的な組織人のモデルといわれた会社人間は今も必要だ、と言う立場をとっている。そして本書の意図するところは、会社人間がどのような心性で成り立っているのか、彼らを支えている価値の由来、またそれがどのような行動様式になって発露されるのか、ということがとくに述べられている。
 この著書のタイトルにもある「会社人間」という言葉を著者は、会社と言う組織に強く思い入れ、思い込む人たちであり、さらに会社人間とは組織に対して過剰に同調し、組織にとり入れることに気づかず、意義をはさまない人たちという意味も含まれる、と定義している。
 まずは日本的経営と会社人間の関係について書かれている。基本的に著者は日本的経営を賛成している立場をとっていると先ほども述べた。だがこの章では、日本的経営は前近代的であるとされ、社会が成熟するとともに経営方式が変容するのは当然であり、近代的な自我が成長すれば、それにともない企業への一方的な思い込みは減退する、したがって今、日本的経営の方式を全般的に適用することの限界が明らかにされつつある、と述べており、ここから著者は必ずしも全面的に日本的経営を賛成しているわけではないことがわかる。さらに雇用の形態に関しては、日本的経営は長期雇用を前提とした一部だけでしか適用されないとあり、ここからも著者は日本的経営の限界を感じているように思える。
 会社人間の心性にかんして、著者は組織コミットメントという言葉を用いて説明している。組織コミットメントとは、組織と人間の関わりについて、同調行動と並んで、それ以上に重要な概念がコミットメントであり、同調のようにその場にいるとやむを得ず、と言うような受け身の考えではなく、コミットメントを意思表示するかしないかの、積極的な関わりも含意している。さらに著者は組織コミットメントを「感情的要素」「存続的要素」「規範的要素」の三つの構成要素に分類し、わかりやすく説明している。他には、たとえば会社に10人の人間がいると熱心な会社人間はせいぜい二人、適当に働く人が六人、適当にさぼる人が二人という割合であり、すべての人が熱心な会社人間であることは不可能で仕方のないことであるという。私はこの文から著者の会社人間に対するあきらめのような感情を感じる。しかし著者は、それは仕方のないことで、むしろこの方が会社はうまく行くのだという。熱心な会社人間はもちろん必要で、会社人間以外にわきを固める人間がいなくてはうまく機能しない、その貢献が引き出せたなら非常に活気のある職場になるとまで言っている。
 いつの時代でも組織にのめり込む熱心な会社人間は欠かせない、そういう人たちがいて組織は成り立ち、高い業績、効率のよい経営を成し遂げることが出来ると著者は繰り返し述べているが、会社人間と言う言葉はすでにほころび始めている、異常なほど組織にのめりこむのはおかしいと会社人間を批判している部分も多々あった。最後まで読むと、著者は日本的経営も会社人間も全面的に肯定しているわけではないことがわかる。日本的経営は一部で大きなシステムを担い、変更を焦るとおおきな枠組みがきしみだすから、まじめにコツコツ働く人たちに報いるようなシステムを残しておかなければならない、つまり会社人間を活用できるシステムだけは残さなければならないと著者は言っているのだ。このような著者の意見は理想論でしかないと私は感じる。本書のはじめに会社人間は必要だと、強く言っているのにけっきょく都合のいいことを言っているような気がしてなんか気分が悪かった。だがこの理想の意見が現実に出来るかは置いて、一番皆を納得させる意見なのだと思った。全体を通して上記のとおり納得のいかない点もいくつかあったが会社人間と日本的経営の関係がよく理解できる本であったと思った。