2003年夏休み書評(第3回)
評者:高田(6期生)
釼持 佳苗[2002]『デパ地下仕掛人』光文社新書。
ISBN4334031390
40×46=1840字
私は本書を読むまでデパ地下というものをあまりよく知らなかった。テレビでよく見かけるが特に興味もわかなかった。しかし本書のタイトルである「デパ地下仕掛人」という言葉に興味をもった。きっといろいろなデパ地下の経営的な戦略などが書かれているにちがいない、そう思っていたが、残念なことに本書で取り扱っているのは東京銀座にある「プランタン銀座」だけで、他のデパ地下のことにはほとんど触れていない。しかもお菓子の紹介が多く、前半はデザートガイドブックといった感じだ。しかし中盤からは他のデパ地下との違いや、プランタン銀座の特徴、会社のシステムについて詳しく説明している。
はじめに著者はプランタン銀座と他のデパ地下との違いについて書いている。本書の主役であるプランタン銀座はデパ地下ではなく、プランタン銀座という名前より「プラ地下」と呼ばれている。さらにプラ地下は他のデパートとは異なり、肉や魚や野菜といった生鮮食品がおいておらず、おもにデザートを中心にお店が入っている。そして他に客のちがいをあげている。銀座と言う土地柄もあって、ターゲットとなるお客さんは18歳から30代後半のオフィスに勤めている女性のみとなっている。以上が他のデパ地下との違いだと著者は述べている。
次に著者はプラ地下の特徴をおおまかに三つにわけて説明している。一つ目は、コンパクトな店内ゆえすべての商品を網羅しているわけではないが、選りすぐりの商品が手に入る、というものだ。二つ目は、大メーカーではなく、知る人ぞ知るメーカーのものがおいてある、というもの。これは地方や世界のデザートまでチェックしているマニアなファンがうなるセレクションになっているらしく、プラ地下にしか店舗を持っていないお店もあるということだ。そして三つ目は、オリジナルの商品が置いてあるということだ。オリジナルの商品とはプラ地下のバイヤーである加園さんが季節ごとにテーマを決め、それにそって各店舗がオリジナルのデザートを作る。しかもテーマを決めた企画は一年中行っているのだという。だからプラ地下に行けばいつでも、そこでしか手に入らないデザートがあるということだ。
プラ地下の成功はさきほどでてきたバイヤーの加園さんの斬新なアイディアだと著者はいう。しかしそのアイディアを活かすことを可能にしているプランタン銀座という会社のシステムがすごい。著者はこのシステムを五つに分けて説明している。一つ目は、仕入れから販売までを一貫して加園が担当するシステム、であること。これは現場にいることでお客さんの声をすぐに反映することができるという利点がある。二つ目は、すばやい決断が下せる即応体制であるということ。老舗のデパートは取引するために時間がかかるが、プランタンでは現場にいる加園が出展するテナントの決定権も持っていて無駄な時間がかからないということ。三つ目は、フットワークの軽いテナントを起用している、ということだ。イベントのテーマを決めてから早くて一ヶ月でオリジナルな新商品を作らなければならないときもあるらしく、迅速に対応できるテナントを起用している。四つ目には、社風をあげている。プランタンの社風とは時代の半歩先を行く、新しいものを提供すると言うものであり、新しいことを始める際に、反対の声よりもむしろやれ、という声のほうが多かったという。最後の五つ目は、宣伝チームである。プランタンの宣伝力には定評があるらしいが、チラシを作って折り込みをしたりせず、情報が口コミで広がったり、すぐに雑誌がとりあげてくれるので費用もかからないと言うことなのだ。
以上のことがプラ地下の成功の理由であると論じている。はじめにも書いたが本書はプランタン銀座にしかふれておらず、バイヤーについても加園さんしかとりあげていない。本書のタイトルである「デパ地下仕掛人」というのにはすこし違和感を感じる。しかしプランタン銀座に関してかなり詳しく書いているし、デザートに関してもかなりの種類が紹介されている、実際にあるデパートが主役になっているからわかりやすく、お菓子好きの女性にはかなり楽しめる本だと思う。