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…… 近代工業における生産性の上昇には設備の近代化、技術投資が先行しなければならない。そして年々巨額の投資を推進しているものは、技術の絶えざる
進歩と、それを媒介にした企業の競争である。技術がたえず進歩しているときに、生産設備を物理的に使用に耐えるまで耐久年限いっぱいに使っているようなこ
とでは、競争会社に圧倒されてしまう。耐久年限の短縮と取替え需要は投資財市場を拡大する。……
このような投資活動の原動力となる技術進歩とは原子力の平和利用とオートメイションによって代表される技術革新(イノベーション)であ
る。技術の革新によって景気の長期的上昇の趨勢がもたらされるということは。すでに歴史的な先例がある。……
しかし過去の例によってみれば、技術革新ブームによる景気の長期的上昇の趨勢のうちにあっても、景気の後退が発生しないという保障はな
い。…… アメリカにおいても基調としては技術革新ブームによる旺盛な投資需要が存在し……
近代化――トランスフォーメーション――とは、自ちを改造する過程である。その手術は苦痛なしにはすまされない。明治の初年われわれの先人は、この手術を行つ*て、遅れた農業日本をともかくアジアでは進んだ工業国に改造した。その後の日本経済はこれに匹敵するような大きな構造変革を経験しなかった。そし て自らを改造する苦痛を避け、自らの条件に合せて外界を改造(トランスフォーム)しようという試みは、結局軍事的膨張につながつ*たのである。
世界の二つの体制の間の対立も、原子兵器の競争から平和的競存に移った。平和的競存とは、経済成長率の闘いであり、生産性向上のせり合いである。戦後10年われわれが主として生産量の回復に努めていた間に、先進国の復興の目標は生産性の向上にあった。フランスの復興計画は近代化のための計画と銘うつ*ていた。
われわれは日々に進みゆく世界の技術とそれが変えていく世界の環境に一日も早く自らを適応せしめねばならない。もしそれを怠るならば、先進工業国との間に質的な技術水準においてますます大きな差がつけられるばかりではなく、長期計画によって自国の工業化を進展している後進国との間の工業生産の量的な開きも次第に狭められるであろう。
……