外国人留学生から日本人へのメッセージ
==「日本事情IX」の試験における回答から==
駒澤大学 経済学部 小林正人
本学には多くの外国人留学生が学んでおり、彼らのための授業として「日本事情」(半期)が開設されている。私は2006年度の前期に経済分野の「日本事情IX」を担当し、50名ほどの外国人留学生たちに講義をした。
テキストに使ったのは、最近刊行されて、戦後の日本経済の歴史を知るには簡便な著書(中村政則『戦後史』岩波新書)である。講義する中で、この著書の中の下記の叙述について、受講生たち、特にアジアの諸君がどのような感想を持つだろうかに関心が強くなった。
「これが最も大切な点であるが、平和憲法の存在ゆえに軍事費を最小限に抑え、経済成長に全力を集中する道を開き、歴史上、軍事力を使わずに経済大国となりえたモデルを〔戦後日本の高度成長は〕世界に示した。」(前掲書、104頁)
そこで、期末試験に出題する2問のうち1問を、下記のようなものとすることにした。
問2 (1)あなたの出身国を明記した上で、(2)「第二次世界大戦の日本国が経済大国にはなったが軍事大国にはならなかった」という歴史に対するあなたの評価を述べ、さらに(3)現在と将来の日本国とあなたの出身国との国際関係についてあなたの意見を述べよ。(全体で300字程度)
これに対する留学生たちの回答は多様であったが、中には感動を覚えるもの、あるいは日本人には耳が痛いものもあった。
そこで彼らの回答の一部をここに掲示し、今後の教育と国際交流の一助をしていきたいと考えた。掲示するのはわずか4人の回答であり、また全員が中国からの留学生であるが、読み易いものを選んだに過ぎない。文章のなかの明らかな誤記の修正や句読点の加除はあるが、ほとんどは原文のままである。日本語としては不自然なところも一部にあるが、そのままにした。
目 次
3. きっと誤解は解ける
戦後、日本は軍事力や軍隊を持ってはいけないことで、国を挙げて経済の高度成長を実現した。国民が必要なのは銃でなく、社会の安定や生活の豊かさだ。世界の国々はそれを証明した日本をモデルにすべきだと思う。
だが、日中両国は経済の発展に伴って、様々な分野で利益の衝突が生じた。特に今中国では日本に対するナショナリズムが高まっている。日本のアニメやファッションが好きな若者たちを中心とした人たちが反日デモをあげた。理解しにくい気持ちだろう。経済分野でお互いにもっとも重要な貿易相手国となっているが政治関係は冷たく、人に寂しさを与えている。
だが、両国の関係はよくなるはずだと私は信じている。なぜなら、両国は近すぎるからだ。近すぎて、協力しあえば、莫大な利益が生まれるからだ。私を含む中国留学生はその架け橋になってもかまわない。
私は「第二次世界大戦後の日本国は経済大国になったが軍事大国にならなかった」という事でちょっと疑問があるんです。確かに憲法とか、敗戦国であるということで軍隊は持ってないが、自衛隊を持っているし、日本の軍艦や戦闘機、あと軍事に使う費用とかみると軍事大国って言ってもおおげさじゃないですね。しかもイラクへの自衛隊派遣とか見ると日本は軍事大国になりつつある。もちろん湾岸戦争の時、130億ドルを支援しても誰も知らなかったし、お金だけ出していると言われたかもしれないけど。
私が考えるには、日本政府の靖国神社への参拝などの問題は中国との関係にあまり大きいと思わないけど、それよりも沖縄から米国軍事基地がなくならない限り、よくならないと思います。日本は米国の世界戦略に完全に包含されている。今アメリカが沖縄に投資した設備や兵力は中国やロシアと戦争しても負けないです。だから、日本がアメリカとの関係をはっきりしない限り、多くて経済的な利益を考慮して貿易ぐらいですね。
第二次世界大戦後、日本は無条件降伏条約によって軍隊をもつことができず、自衛隊だけもつことが許された。自衛隊の規模も制限されていると聞いた。軍事大国になる要素を備えなかったゆえ成れなかった。一方、戦後の日本は貧しい状況から立ち直るため、戦争を契機として進んだ重工業や電子機械などをもっと発展させ、西方諸国から先進的な経済政策や科学技術などを学んだ結果、国の得意産業もでき、国内経済の景気や製品の海外進出によって経済が急発展し、経済大国になった。
いろいろな歴史問題を抱く私たちの国の関係は、現在様々な誤解があったため、膠着状態になっている。しかし、ずっとそんな状態のままではいかない。もし、両国の人々が歴史を正しく認識したら、きっと誤解は解けると思う。私たち両国が仲良くいけば、私たちにとってはいいことばかりだ。私たち留学生は両国の関係をいい方向にもかえるように努力する。
日本は現在、世界第二位の経済力を持ち、経済大国と言われているが、軍事大国にはならず、常にアメリカの軍事、外交政策に従属し続けて来た。それは、第二次世界大戦に敗けて以来、軍備の保有と武力の使用を禁じられたからだ。これは、憲法に規定されたが、そもそもアメリカ軍による日本の占領統治の下に作られたものである。それ以後、日本はずっと平和主義という国家統合の理念の下で、いかなる理由があっても戦争をやらないようになった。人間だれでも戦争は嫌いだと思う。21世紀の現在、人々が一つの心になって、平和な世界を創造して行くべきだ。そういう意味では、平和を求める日本の体制が正しいと思うが、いざ問題が起こった時に、独自の国家防衛もできないことについては、日本の国民の中で納得できない部分もあるのではないかと思う。
中国と日本の国際関係というと、いろいろな歴史、現実の問題が重なって、今の段階では少し厳しい部分も存在するのが事実だ。歴史を忘れてはいけない。でもその歴史のことをいつまでも引きずり、さらに両国の関係にも影響を及ぼすのも良い選択ではない。近い将来はお互い助け合ういい関係になるのだろう。
The making of this Webpage was kindly assisted by Ms. Ri Ryou in Oct. 2006.
更新日:2006/11/28