醍醐 聡「企業の社会的責任 内部留保に課税すべきだ」

『朝日新聞』朝刊、2013年03月22日


 日本企業が内部留保した利益は大きすぎると、多くの人が考え始めている。資本金1億円以上の企業の内部留保は、リーマン・ショック直後の2009年3月期決算では195兆円だったが、12年9月期決算には217兆円に増加。麻生太郎財務相は3月初めの記者会見で「企業の内部留保の一部は従業員の給与や設備投資に充てるべきだ」と述べている。
 内部留保がこれほどまでに積みあがったのは、広い意味で労働分配を犠牲にした結果といえる。厚労省が発表した「平成23年版労働経済白書」によると、09年第2四半期から10年第4四半期にかけての景気回復局面で、従業員1人あたりの企業利益は2・4倍と急増したのに対し、現金給与総額は1・0倍と横ばいのままだった。
 政府側の要請に応える形で、業績が回復している企業を中心に、一時金の増額やベースアップ実施の動きは出ている。安倍政権は年5%以上人件費を増やせば増加分の10%を法人税から引く減税策も、13年度から3年間実施する。だが、ため込まれた内部留保のいびつさに多くの人々の意識が向いている今だからこそ、私は「内部留保税」の創設を提案したい。
 資本金1億円以上の大企業が内部留保した利益に対して税金を課す、というのが提案の骨子だ。税率を1%としても、直近の水準なら年間2・2兆円の新たな税収を確保できる計算だ。
 法人税を課税された後の留保利益にさらに税を課すのは、二重課税だという意見がある。しかし、法人税は現在、企業の利益を社会全体に再分配するという本来の機能を果たしていない。その機能を補完する意味でも、また内部留保が積み上がった要因に照らしても、内部留保税には十分な正当性があると私は考える。
 1981年に42%だった法人税率は00年以降30%まで下がった。減税された分の使途を企業にたずねた帝国データバンクの調査(10年7月)によれば、社員への還元は16%にとどまり、最大の使途は26%の内部留保だった。
 さらに日本は、社会保障財源に占める事業主負担の割合が主要先進国と比べて低い。10年の時点で、フランス42%、ドイツ35%、英国35%なのに、日本は25%だ。社会保険料などの企業負担が軽いうえ、給与抑制や低賃金の非正規労働者の雇用拡大などの人件費抑制策が加わった結果が、企業の巨額の内部留保といえるのだ。
 来年4月には逆進性の強い消費税の税率引き上げが予定される。増税ラッシュが迫るなか、大企業にも応分の社会的な責任を果たすよう、もっと求めるべきである。

(だいごさとし 東大名誉教授)


http://wwwint2.int.komazawa-u.ac.jp/~kobamasa/