IT地殻変動 IBM・聯想ショック(上中下)

『日本経済新聞』2004年12月10--12日


8日、米IBMは中国・聯想集団(レボノグループ)にパソコン事業を売却すると発表。
聯想は、米デル、ヒューレット・パッカード(HP)に次ぐ世界第三位のパソコンメーカーに。


巨象、賭けの「戦略提携」、「パソコン」捨てて成長追及

「米企業が採算の悪い事業を躍進する中国企業に売り渡した」とだけ見るのは不良。
「聯想への投資。聯想と成果を分かち合う。」 /IBMのジョン・ジョイス副社長

2003年11月、聯想と事業売却交渉を開始 /IBMのパルサミーノ会長&CEO
PCが売れればソフトウェア(粗利益率8割超)や販売金融(同6割)で稼ぐ

PCのハード事業で利益を得られなくなった →IBMの誤算による
中核半導体と基本ソフトをインテルとマイクロソフトに委ね、利益の源泉と技術の方向性の主導権を失った
シェアが低下しても、小出しのリストラ(人員削減や生産外注など)だけ
  ↓
戦略提携:ハード事業を自社内に抱え込まず、強みを発揮できる関連ビジネスの恩恵は享受

グラフ:IBMの売上構成の変化(93年→03年)
出資比率18.9%:
 二割未満なので持分法の適用を免れる。PC部門の負債5億ドルを切り離し
 第二位株主の座を利用する
  販売金融や保守管理などの業務を聯想から優先的に受託。
  聯想の顧客企業向けに情報システムの構築・運用のノウハウを提供。ソフトを拡販
北京で会見に出たのはサービス部門統括のジョイス副社長
  PC部門のトップで聯想のCEOになるスティーブン・ワード副社長ではない。

IT化の進展でサービス事業の需要が急速に高まっている中国で強固な立場を確保
「IBMは以前から中国パソコン大手の聯想を提携の本命にしていた」

懸念
聯想は世界第三位だがシェアは8%弱。デルやHPとの差は大、中国外での知名度も低い。
聯想のシェアが低下すればIBMのサービス事業の幅は狭まる。

聯想はノートPCのブランド「Think」を取得。さらにロゴの「IBM」を製品に付けられる。
IBMはブランドイメージが低下するリスク

デルのデル会長「PC産業で成功した買収や合併はない」


中国の”雄” 世界の壁高く。国外6000人の活用が鍵

聯想の創業:政府系研究機関「中国科学院研究所」の科学者だった柳伝志が20年前に
2001年、シリコンバレーなど世界7箇所に拠点を置いたが売上は伸びず。従業員の99.5%が中国に。 →世界市場では「レボノ」ブランドは無名

買収でIBMから移籍する社員は1万人。6000人が中国外:米国2500人、日本600人
「異邦人」を生かし、社員の流出を防ぐために

図:IBMパソコン事業売却後の聯想集団の姿

聯想は利益を上げられるか
PCは部品さえ買えば組み立てられるコモディティーに
IBM、聯想など大手は製品の多くを台湾のOEM企業に委託しコストダウン
台湾勢は世界のノートPC生産の7割を占める。最大手の広達電脳が3割
どのブランドの製品も実は同じ工場で生産。差異化は困難。

聯想はかつてBM化(サービス分野へのシフト)をめざしたが、本業の利益を圧迫。
今年「本業回帰」を宣言し、ITサービス部門を他社に売却。
約4万円の「農村パソコン」で地方市場をめざす。
 低価格のためには、規模を拡大してコストを低減するしかない。
IBM=サービス、聯想=パソコン販売という分担では聯想の事業の幅は広がらない。

03年、聯想は「レジェンド」ブランドを破棄。海外進出にともない商標紛争が予想されたので

株式市場は冷静
香港証券取引所の株価の終値:買収発表翌日の9日3.7%安、10日5.8%安


寡占化加速、日本勢は孤立。「1000万台クラブ」遠く

04年12月8日、聯想が約1800億円での買収を発表する10か月前に、
03年秋、PC事業売却の打診がIBMのパルサミーノ会長から東芝の岡村社長にあり
 パ「聯想は1000億円以上出すと言った」
 岡村「競争が激しいPC事業で大きな黒字は見込めない」 買収を断念
  買収すれば規模が拡大してインテルなどからの調達コストが下がる
  しかしブランドや販売網はすでにある。消費者向けAV対応強化にもつながらず。

日本メーカーの「孤立」
国内大手のPC事業は大半が収支トントンか赤字(04年9月中間決算)。打開策なし

PC業界での生き残りの最低条件は年間出荷台数500万台から1000万台へ
PCの製造コストの97%は部品コスト。規模拡大すると台湾企業へのOEMコストも低下。
デルとHPは2000万台超、聯想11000万台。しかし富士通600万台、東芝500万台。

グラフ:販売ブランド別パソコン世界出荷台数

価格競争を避けたい日本勢は消費者向けにAV機能を強化するしかない/NEC
しかし、国内市場では十社以上が乱立。デルやHPも低価格のAVパソコンを投入。
    薄型TVなどデジタル家電と競合。

IBMの事業売却でIT大手の戦略は二極化

  1. IBM:売却で得た資金で企業向けITサービスを強化
  2. デルやHP、聯想:大量生産で一般消費者向けの世界市場を攻める。
  3. 日本企業:圧倒的な強みを持たないまま四面楚歌に。猶予期間はあまりない。


http://wwwint2.int.komazawa-u.ac.jp/~kobamasa/