「セルビア人の砲撃」にでっち上げ説が浮上

『朝日新聞』 1995年9月6日 朝刊


 【ベオグラード5日=宮川政明】 北大西洋条約機構(NATO)によるボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人勢力への大規模な空爆実施の理由となったサラエボ砲撃事件の調査報告に対して「でっちあげ」説が浮上している。
 先月二十八日、サラエボの青空市場近くでモスレム人住民の死者三十七人、負傷者八十人以上を出した砲撃に関し、国連保護軍は「セルビア人勢力によるもの」と断定。これが一連の空爆の直接の実施理由となった。
 しかし、クロアチアからの報道などによると、保護軍幹部のアンドレイ・デムレンコ大佐(ロシア軍)は独自に弾道計算や地形調査を行い、「セルビア人勢力砲撃説」に疑問を呈した。疑問の詳しい内容は明らかでないが、保護軍報道官は、同大佐以外にも国連公式報告を批判する複数の報告があることを明らかにした。
 また(1)数キロ離れたセルビア人勢力陣地から幅約十メートルの道路の人ごみを狙うのは至難である (2)一発の迫撃弾による死傷者数としては多すぎる――という指摘が当地の西側駐在武官らの間でもなされている。
 砲撃の主がもしもセルビア人勢力でなかった場合(1)空爆を招くためにボスニア政府(モスレム人勢力)軍側が自作自演した (2)空爆推進派の欧米の国が工作した (3)和平調停工作に反対するセルビア人勢力反主流派の妨害行動――という見方がある。

  1994年二月5日の「青空市場砲撃事件」は、当時はセルビア人の犯行ときめつけられ、セルビアに対する国際社会の非難がいっせいに高まった。当時のドイツのテレビやアメリカのCNNは繰り返し繰り返し、血まみれの現場の状況を放映してセルビアの残酷さを訴えた。
 ……
 戦争のときはどこでも同じように、意図的に仕組まれた記事で世論が操作される。日本でも満州事変の発端となった柳条湖事件で、鉄道を爆破したのは日本の関東軍であったのに、中国人の犯行として戦争を始めた。

暉峻淑子『豊かさの条件』岩波新書、2003年、140頁より



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