「為替」の由来

 

 為替を「替為」と誤記する学生がいる。そこで「ためかえ」と覚えるように助言している。

 しかし、なぜ「為替」と書くのだろうか。「替えの為(ため)にする」からなのか、あるいは「替えを為(な)す」なのか。そして為替を「かわせ」と読むのはなぜだろうか。

 

 為替というものは、たとえば江戸の商人が大阪の商人から物を買って代金を払うとき、重い貨幣を遠方に運搬するかわりに江戸から大阪に送る証書である。その証書は、江戸のある金融業者に代金を渡し、それと引き換えに発行してもらうが、この金融業者が提携している大阪の金融業者に持参すれば貨幣に引き換えてもらえることが保証されているものである。そこで大阪の商人は、送られてきた為替を大阪の金融業者に持参し、貨幣で代金を受け取ることができる。支払う側の江戸の商人も、東海道を通って貨幣を運搬するという危険なことをしなくてすむ。

 

 為替という言葉は、種々の辞典を見ると、動詞「交ふ」(かふ)に使役の助動詞「す」が付いたものとある。

 

 日本語の助動詞「す」には使役(…させる)の意味がある。この助動詞は「人に聞かす」「人々に弾かす」などのように、動詞の未然形に付く(現代でも「行く−行かす」「やる−やらす」など)。ちなみに「す」は下二段活用であり、その連用形は「せ」になる(「聞かせ」「やらせ」など)。

 漢字の「為」にも使役(…させる)の意味がある。そこで日本語の「す」には漢字の「為」が当てられる。使役の意味の「使」(しム)を使うときは、使行(行カしム)、使聞(聞カしム)となるので、「為」の場合も語順は為行、為聞となる。

 次に「交ふ」は、動詞の連用形に付くと「互いに…する」「繰り返し…する」の意味を持つ(たとえば、「ゆきかふ」「飛びかふ」)。このときの「交ふ」はハ行四段活用になり、未然形は「交は(ズ)」になる。

 動詞「交ふ」に助動詞「す」を付けると「かハす〔かわす〕」になる。「す」に漢字の「為」を当てると、「為交」〔かわす〕となる。さらに「交ふ」は「易ふ」「替ふ」などとも書けるので、「為交」は「為替」〔かわす〕になる。意味は「替えさせる」である。

 次に、動詞の連用形は名詞に転化する(たとえば「話す−話し」「行く−行き」)。「為替」〔かわす〕の連用形は、「す」の連用形が「せ」だから、「かわせ」となり、これが名詞化して「かわせ」になる。意味は「替えさせるもの」であり、貨幣と替えさせるもの(証券)である。

 

 要するに、

 交ふ+す →交はす〔かわす〕         →(名詞化)〔かわせ〕

       →為交〔かわす〕 →為替〔かわす〕       為替

 

 参考)やる+す →やらす(ヤラセル) →(名詞化)やらせ(ヤラセルコト)

 

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200348