横山 三四郎『ネット敗戦 IT革命と日本凋落の真実』について

(KKベストセラーズ、2000715日出版)

EK4161 池田 浩幸

 

選定理由:

 IT革命やインターネットと聞くと、便利で住みやすい世界になっていくと考えがちでありインターネットのよいところばかりが目立ってしまうことが多いが、本書ではこのような便利さばかりではなく、実はIT革命によって日本は凋落していたという、すぐには信じられないような内容が解説されているため、この本を選んだ。

 

著者の紹介:

横山 三四郎(よこやま さんしろう) 国際政治ジャーナリスト

1942年山形県生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒。8485年にジョージ・ワシントン大学に中ソ研究所客員研究員として留学。新聞社特派員としてカイロ、ロンドン駐在を経て914月より戸坂女子短大教授(国際関係論)。東京女子大講師(944月〜)、上智大講師(924月〜943)、東京農工大講師(984月〜20003)20001月にインターネット文明研究所設立。現在は有限会社eブックランド代表取締役社長。

 

注目すべき一節:

 「経済面での国際競争は、市場が地球規模に大きくなったためにいまだかつてない規模とスピードで行われるようになっている。日本はそこで戦うための新しい武器であるインターネットの分野で敗北した。これは敗戦、ネット敗戦である。」(6)

 「地球規模の変動の波を乗り切れる自立した強靭な精神をもった人々が一人でも多く増えることが、日本を破局から救う唯一の道であるように思われる。」(52)

 「二〇〇〇年のミレニアムの戦いの舞台はグローバル市場であり、相手は気心の知れた日本人だけではない。」(126)

 「インターネットは、黒船よりも、原爆よりも強力なアメリカの秘密兵器であるのかもしれない。」(155)

 「日本列島は再び世界という大陸と一体になったのである。」(225)

 

旨:

 第一章では、世界第二の経済大国だった日本がなぜ凋落してしまったのかということを、三つの原因をあげて論じている。日本は、冷戦終了による世界構造の変化、グローバル市場の幕開けとIT革命の到来、市場の自由競争化という三つの文明変動に日本特有の文化がついていけず、国際競争の場から追い出されてしまったからである。

 第二章では、日本とは対照的にIT革命によってもたらされたニューエコノミーで繁栄するアメリカの現状が論じられている。

 第三章では、第一章で述べられた日本凋落の三つの原因以外に考えられた、その他の原因について。その他の原因とは、パソコン教育の不十分さやインターネットに対する取り組みの甘さがあげられる。

第四章では、インターネットは時に武器として使われるということが具体例を挙げて論じられている。抗議や非難をするためのサイバー攻撃や情報を傍聴するためのシステムとして使われている。インターネットには国境さえも歯が立たない。

第五章では、インターネットによってもたらされた便利な点と問題点が論じられている。通販で気軽に買い物が出来たり医師の診察をテレビ電話で受けられるようになったが、リストラやデジタル格差が広がった。

第六章では、IT革命によってもたらされた文明の大転換に、今後どのように対応していかなければならないのか。日本はどうあるべきなのかが論じられている。

 

評:

著者の問題設定

 世界を揺り動かしているIT革命の歴史と事実を示し、さらに背景の国際政治力学にまで踏み込んで、日本がネット敗戦から再び立ち上がる道筋を探る。

 

著者の回答

 冷戦終了後、ソ連邦と共産主義の崩壊によってグローバル市場が幕を開けた。グローバル市場の到来によってインターネットの商用化が許され、爆発的な勢いで社会を覆い始めた。ここからIT革命が始まったのである。インターネットは冷戦時代にアメリカが国防のために開発したもので、他国よりも広がりが早かった。新しいことに次々と挑戦し、ニューエコノミーによって好景気が続き、世界のトップに立った。

一方で日本は、冷戦の終焉やIT革命が日本経済にどのような影響をおよぼすかについて考えようともしなかったし、まさか世界第二の経済大国がその流れについていけなくなるなど思ってもいなかった。さらに、パソコン教育の不十分さや談合による競争原理の働かない市場、国や組織の秩序を重んじること、危機に襲われると貝のように殻を閉じて過ぎ去るのを待つという日本特有の文化が、多くの相手と競争を行うグローバル市場や自由に情報を得ることができ、時には武器としても使うことが出来るITには合わなかったのである。

その後、一九九四年にインターネット元年を迎えたアメリカから五年ほど遅れた九九年に日本は、ソフトバンクの可能性に一部の人々が気付き始め、ようやく情報化社会が到来した。ここから日本社会は変化を始め、様々なことが便利になってインターネットは生活に不可欠なものとなった。しかし、ネット敗戦によってできたアメリカとの差は大きく、現在もネット敗戦による差は引き続き存在しているだろう。

このネット敗戦から立ち直るには、日本社会をなんとしても早く底辺から情報化する必要がある。経済再建に欠かせないネット社会の情報のインフラストラクチャーの整備がさらに遅れれば、悲劇は深まってしまう。それにはまず、日本人のITに対する恐怖感をなくさなければならない。そして、自国を守ることばかり考えるのではなく新しいことに挑戦すること。問題点や文明の変化に一人ひとりがしっかり意識をもって考えること。こういったことが、日本を破局から救いネット敗戦から立ち治る道筋になるだろう。

 

評者の見解

 現在の日本人には、ITに対する恐怖感というものはほとんどなくなったと思う。お年寄りには、まだ複雑で難しいものだと思われ避けられているかもしれないが、日常生活やビジネスには不可欠なものとなり、むしろさらなる技術の発達に期待している人のほうが多いのではないかと思う。

 新しいことへの挑戦と、一人ひとりがしっかりと考えるということには賛成である。挑戦から新たな何かが生まれる可能性があると思う。ただ、日本人はいろんなことに対しての関心が低すぎると思う。それが日本の将来を左右するネット敗戦や靖国参拝、環境問題のような重大な問題であっても。その点に関しては改善が必要である。

 

今後の課題:

 ネット敗戦から立ち直るための道筋として書かれていたことは、「著者の回答」にまとめたとおりだが、自分が期待していた具体的な方法は書かれていなかった。なので、その具体的な方法というものをIT革命で繁栄したアメリカとの違いなどをふまえて調べたいと思う。

 

 

 

http://wwwint2.int.komazawa-u.ac.jp/~1ek4161i/