梅田 望夫 『ウェブ進化論________本当の大変化はこれから始まる』(ちくま書房 2006)
経済学部 経済学科 3年 EK4119 谷貝 浩章
選定理由
今後のITについて知ることができそうなタイトルだったので。
著者の紹介
梅田 望夫(うめだ もちお) 94年からシリコンバレーに在住。97年にコンサルティング会社を同地で創業。2000年にベンチャーキャピタル創業。05年3月からはてな取締役。IT分野の短的リーダーとして、若い世代から圧倒的支持を集めているらしい。
注目すべき一節
「三大潮流(インターネット・チープ革命・オープンソース)は相乗効果を起こし、間違いなく『次の10年』大きく変えていく。」(29頁)
グーグルがゴールとして目指しているのは、「グーグルの技術者たち(むろんここは人間がやる。逆に言えばこれができる人間以外は要らないという思想がグーグルには本質的にある。)が作りこんでいく情報発電所がいったん動き出したら『人間の介在』なしに自動的に事を成していく世界である。」(94頁)
羽生さんは言う。彼は、「言語化不可能な世界にこそ、人間ならではの世界を見出そうとしている。」(214頁)
要旨
第1章ではオープンソースと呼ばれるものについてと、ネット世界の三大潮流・三大法則中心に述べられている。
オープンソースとはとあるソフトウェアの人が記述したプログラムそのものをネット上に無償公開することである。当時広く使われていたソフトウェア商品のソースコードは企業の知的財産そのものであり、当時の常識でもあった。この常識を覆すオープンソースがインターネットの世界にどのように関ってくるのかの前置きが書かれている。
三大潮流については上の「注目すべき一節」に書かれている通り。
第2章はグーグルがこれまでしてきた事、これからしようとしている事についてスポットライトをあてている。内容は世界中のあらゆる情報の言語化、情報のネット上での管理などである。
第3章では本または音楽の売れていない商品をネット上で売ることによるメリットと、それが現実世界に及ぼす影響などについて書かれている。
第4章ではネット上で誰もが自由に無償公開できるブログについて書かれている。ブログにより揺らぐメディアの権威など、ブログが及ぼす影響について中心に書かれている。
第5章では1章で簡単に触れた、オープンソースについてピックアップしている。著作権などのからみについて賛否両論の声が挙がるこのオープンソースをどう利用していくかを述べている。
第6章ではネット上に用意されたコンテンツをどのように自分に役立てていくかについて書かれている。ネットのコンテンツを使って自分の知識を高めていく事、そしてネットだけでは限界があることを高速道路、そしてその渋滞にみたてて述べている。
講評
著者の問題設定
次の「10年への3大潮流」の1つとされているオープンソースについてだが、これは「何か素晴らしい知的財産の種がネット上に無償で公開されると、世界の知的リーダーがその種の周囲に自発的に結びつく」と「モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的なリーダーシップが中央になくとも、解決すべき問題に関する情報が共有されるだけで、その問題が次々と解決されていくことがある」と本質が定義されている。つまり全体として何かを達成するためには通常は組織に属さなくてはいけないが、オープンソースを使えば組織に属さずともそれができると個に対して希望を提供してくれるものなのである。
このオープンソースにより発展途上国向けのコレラ対策、高額の授業料を払わずとも大学の講義の内容を見ることができるなどの成果が出ている。後者のほうはまだ中途半端な状態のようだが。
今後様々な可能性を提供してくれそうな不思議な魅力を秘めたこのオープンソースも問題点がいくつかある。まずはその性格上付きまとうのが著作権の問題である。プログラマー達から見ればこれは大きな問題である。グーグルが運営するネット図書館はすでに訴えられている。
もう1つの問題としてリアル世界に関ってくるオープンソースの発展は極めて困難であることである。著作権問題に代表される既存社会との軋轢や、ネット上と違い、何をやろうにもコストがかかることである。ネットであれば伝播スピードは無限大だし、物理的制約も存在しない。
こうしたネットの「便利性」よりも「自らの存在を脅かすもの」との捉え方が特に日本にははびこっている。ネットの世界に住むように生きている若い世代はネットのネガティブな面ばかりを語る(一概には言えないが)大人たちに絶望感を抱いている。しかしなにも語らずにネットについて理解し合える仲間に閉じこもっていたのでは達成できないこともある。こういった2つの価値観をつなぐための架け橋にしようといういしのもとに作者はこの本を出版したのである。
著者の回答
ウェブの進化は世代交代によって起こるはずである。情報の置き場を自分のパソコン(ハード)内かネット上かという考えで前者をこちら側、後者をあちら側をした時、こちら側がマイクロソフト、あちら側がグーグルに例えられる。こちら側からあちら側へとシフトしつつある現在、それはビル・ゲイツからラリー・ページ、セルゲイ・ブリン(グーグル創始者)に世代交代がされようとしているという事である。そして次の10年、20年への進化はまた新たな世代からの台頭が必要ということである。
評者の見解
ウェブの進化に世代交代は必要だと思う。世代交代により、より一層ネットを使う事が当たり前の世の中になるはずである。そうした環境の変化が新たな台頭を呼ぶのだと思う。
今後の課題
グーグルに少し興味を持った。著者はグーグルのこれからの政策等について全てが良いことのように書いてあったが、本当に万人にとって有益なものかどうか、また自分にとってどんなメリットがあるのか、すべての人のニーズを満たすコンテンツを作っていけるのかという事をかんがえつつ、グーグルのこれからについて調べていきたいと思う。ひいてはそれがウェブの進化について調べる事になると思うので。