2007127

大竹直樹 中村嘉秀 藪木翔

三菱総合研究所 産業・市場戦略研究本部変『日本産業読本 第8版』東洋経済新報社2006

第9章 グローバル化

第1節   産業の空洞化を越える経営

●日本産業の空洞化は三つの視点から整理することができる

 

(1)産業空洞化とは何か

1、マクロ経済的な視点―脱工業化現象

・製造業の生産機能の一部あるいは全部が海外に移転することによる製造業の衰退

→ものつくり産業の衰退

・日本の製造業は戦後の高度成長期を支えてきた中核部門(主として農業部門)

・脱工業化の代わりに第三次産業が拡大

 

2、産業構造的視点―比較優位構造の変動と比較劣位化の問題

・アジアなどの発展途上国に生産機能が移転→産業の空洞化

・輸出志向の工業化

労働集約的な軽工業→資本集約的な重化学工業→資本知識労働集約的な機械組立工業

・比較優位が低下した部門をアジアなどの発展途上国に移転し、比較優位の高い部門へ資源を移行することにより、希少資源の効率利用が促進されてきた

 

3、企業経営的視点―製品間分業や工程間分業などの国際分業戦略の展開

・主力製品におけるものづくり機能の喪失

・製品差別化分業→「高級品は日本、中低級品はアジア」

・自動車産業やメカトロニクス(精密機械)産業の成功

・国内の付加価値や雇用の減少→日本産業の空洞化

 

(2)産業の空洞化の問題は何か

●企業倒産・雇用対策・金融支援

・産業の空洞化は主として比較劣位性で起こる

・各種の規制や保護政策

 

(3)産業の空洞化を越える経営とは何か

1、技術先導品の開発(比較優位を先導する技術開発力)

・技術開発力の強化、新技術・新製品の開発

  高度にグローバル化が進んだ企業でも生産能力の海外移転がすぐに産業の空洞化には結びつかない

 

2、企業のコスト競争力の再強化(アジア大国際分業の活用)

・主力事業の国際競争上の、比較優位劣位との関係

比較優位⇒海外生産は輸出代替的であり、現地の市場開拓のための攻めの展開が多いため、空洞化になりにくい

比較劣位⇒国内生産は空洞化になりやすい

・日本企業の海外生産は、国内のコスト競走上の劣位を防衛し、再強化するための手段

 

3、本業を核としたグローバルな事業構想(製品差別化分業、工程間分業の構想)

・本業を中心とした製品差別化分業を推進すること

・工程間分業に着目すれば、ものづくり機能のなかでも、労働集約的な組立工程は賃金の安いアジアに任せ、付加価値の高い高機能素材や中核部品等の開発・生産は日本が担当するとの考えも有効

 

第2節   BRICsの潜在成長性

BRICs⇒ブラジル・ロシア・インド・中国の四カ国の頭文字、国土や人口規模の大きい国の成長性に注目した概念

 

(1)   巨大なBRICs

BRICs四カ国だけで世界人口の40%を超える

・国内に豊富な天然資源を有する (原油・鉄鉱石・石炭・ボーキサイト)

→近年、自国内での消費が急激に増え対外輸出の量が減ると予想されている

 

(2)   経済成長著しいBRICs

・中国の安定した一桁後半の高経済成長率

・原油価格高騰によるロシア経済成長の押し上げ

・インドのITソフトウェア産業の集積発展

 

(3)   日本企業にとってのBRICs

●各国グローバル企業のBRICsへの進出活発化

 

@    中国

1970年代の対外開放政策より外資の受け入れにも積極的な姿勢を示した

・低賃金労働力を利用した加工貿易的な操業

・生産拠点の確保を目的とした進出から中間層の台頭により市場獲得を目的とした中国進出へ

 

A    インド

90年代、自動車や二輪車などを中心に230社あまりが進出

・スズキ・ホンダがかつては市場で圧倒的なシェアを誇っていたが、近年は世界の有力メーカーの相次ぐ参入によりシェア争いは激化

・電子・電機分野では三洋電機、シャープが現地で工場を持っている

 

B    ブラジル

・日本企業の進出企業数は約400社あまり

・戦前から移住している日本人の二世、三世の活躍

・距離が遠いため日本企業の進出が難しいが、ブラジルとの関係は良い

 

C    ロシア

・相対的に日本企業の進出先として地位が低く見える

・豊富な天然資源やは巨大な人口は、商社や大手企業にとっては魅力的

 

第3節   いわゆる「2008年」「2010年」後の中国市場の注目点

(1)115カ年規画と北京および黄海周辺経済の成長

●第115カ年規画→経済格差縮小と均衡的な地域経済発展のための地域連携の促進

・中国経済を牽引する中核都市圏

@上海を中心とする「長江三角洲経済圏」

A深圳、広州を中心とする「珠江三角洲経済圏」

B北京・天津を中核とする経済圏

 

(2)北京、大連を中心とした知識産業

・特許出願件数の急増

→電子・通信設備に関連した特許が圧倒的に伸び、他にはコンピュータ、事務機器に関するものの伸び率が大きい

・北京→「中国のシリコンバレー」

・大連→「オフショア開発」のメッカ

 

(3)日本産業・企業への戦略課題

・重要なのはまず日本国内との機能連携をどのように活かすか(日本企業として)

・時間、距離的に近い九州で調達する部品や機械を活用していくことができるかどうか(日系メーカーとして)

 

●今後は人材、資源、技術といった競争力の要素を一体として、この地域で効率的なネットワークを持って活用できるかどうかが大きな課題

 

論点:産業の空洞化は避けられないものである。では、産業の空洞化とどう向き合っていけばよいのだろうか。